第3話:3人の放課後と、初めての「見守り配信」
第2話をお読みいただきありがとうございます。
学校という日常の聖域で、幼馴染のすぐそばで行われる初めてのゲリラ配信。
スリルと背信のスパイスが、めぐみの変貌を加速させていく第3話です。
昨夜届いたプロデューサーからのメール。そこには、めぐみの人生を根底から覆すような、甘く、それでいて暴力的な言葉が並んでいた。
『君の瞳には、天性の才能がある。もっと多くの人に見られるべきだ』
その言葉が頭から離れないまま、めぐみはいつものように図書室の隅にいた。
窓の外では、健人が泥にまみれてボールを追い、このかがその姿をスケッチブックに留めている。
三人の関係は、昨日までと同じ、平和で完璧な黄金比のはずだった。
「……っ」
地味なカーディガンのポケットの中で、スマホが震えた。
画面には、昨夜からやり取りを始めたプロデューサー「タカシ」からの通知。
『今すぐ、ライブを始めて。今の「学校にいる背徳感」をファンに見せるんだ』
めぐみの心臓が、痛いほどに脈打つ。
図書室には他に誰もいない。だが、窓の外には大好きな二人がいる。
もし見つかったら。もしこの「音」が漏れたら。
恐怖が背筋を駆け抜けるが、それ以上に、禁じられた遊びに興じるような熱い痺れが、めぐみの下腹部を突き上げた。
めぐみは本を立てて盾にし、その陰で素早くメガネを外した。
指先で瞳を潤ませるようにまぶたを押し、髪を少し乱す。
そして、制服の第一ボタンを、そっと外した。
「……めぐじゃーにー」
吐息のような呪文。
配信ボタンを押し、カメラを自分に向ける。画面の向こうには、瞬時に数千人の視聴者が集まってきた。
『えっ、学校から!?』
『Meguちゃん、顔赤いよ。エロすぎる』
コメントの弾幕が、めぐみの視界を埋め尽くす。
めぐみはカメラを少しだけ下へ向け、窓の外に映る健人の姿を、一瞬だけフレームの端に収めた。
「……内緒だよ? 今、大好きな人が……外にいるの。……見つかったら、私……どうなっちゃうかな……///」
囁き声は、自分でも驚くほど濡れていた。
学校という聖域で、幼馴染という絆のすぐそばで、自分を数万人の欲望の対象として晒し上げる。その背信の事実が、めぐみの頬をかつてないほどに紅く染め上げた。
「めぐみちゃん?」
突然、聞き慣れた声が背後から響いた。
心臓が止まるかと思った。
めぐみは悲鳴を飲み込み、反射的にスマホを胸に抱きかかえて伏せた。
「あ……こ、このかちゃん……」
そこには、部活を終えたこのかが立っていた。
めぐみは慌てて第一ボタンを留め、メガネをかけ直す。だが、乱れた髪と、隠しきれない上気した顔までは誤魔化せない。
「顔、すっごく赤いよ? 熱でもあるんじゃない?」
このかが心配そうに手を伸ばし、めぐみの額に触れようとする。その指先から逃げるように、めぐみは後ずさった。
「だ、大丈夫……! ちょっと、本の内容に……のぼせちゃって」
「変なめぐみちゃん。健人くんも、最近めぐみちゃんが『遠くに行っちゃったみたいだ』って心配してたよ」
その言葉が、めぐみの胸を鋭く刺した。
心配。優しさ。友情。
今の自分に、それを受け取る資格なんてない。
ふと見ると、抱きかかえていたスマホの画面は、まだ配信が繋がったままだった。
カメラは真っ暗だが、マイクはこのかとめぐみの会話を、何万人ものフォロワーに生中継している。
『今の声、友達?』
『修羅場きたあああ』
『もっと焦るMeguちゃん見せて』
画面の向こうの悪意ある熱狂と、目の前のこのかの澄んだ瞳。
めぐみは、自分が取り返しのつかない境界線を越えてしまったことを確信した。
「……ごめん。先に、帰るね」
逃げるように図書室を飛び出すめぐみ。
追いかけてくるこのかの声を振り切り、彼女は暗くなった校舎の階段を駆け下りた。
校門の陰で、荒い呼吸を整えながらスマホを見る。
そこには、タカシプロデューサーからの新しいメッセージが届いていた。
『最高の配信だった。この「スリル」が、100万人への近道だ。明日の夜、事務所に来なさい。君の「次のステップ」を用意している』
めぐみは、震える手でスマホを握りしめた。
涙で潤んだ瞳の奥に、かつての地味な少女の影はもうなかった。
/彼女が選んだのは、光り輝く「配信」の世界か、それとも闇深い「背信」の道か。
その様子を、遠くから健人が複雑な表情で見つめていることにも、今の彼女は気づいていなかった。
第3話をお読みいただきありがとうございました!
【次回予告】
第4話:最初の仕事の夜(業界の人と軽い接触)
初めて訪れる「事務所」という名の異世界。そこで待っていたプロデューサー・タカシから提示された、過激な条件。めぐみは、目標のために「女」としての禁忌に触れる決意を迫られる。




