第20話:100万人達成配信 そして突然の活動休止宣言
スタジオの照明が消えた暗闇の中で、唯一輝き続けていたのは、モニターに刻まれた「1,000,000」という無機質な数字だけだった。
それは、めぐみが自らの純潔と、声と、 shadow。そして大切な幼馴染たちをすべて生贄にして捧げることで手に入れた、血塗られた王冠だった。
「……おめでとう、Megu。君は神になったんだ」
非常用電源の薄明かりの下、タカシが満足そうに、けれどどこか恐れを孕んだ声で呟く。
だが、その声は誰にも届かない。スタジオには、重苦しい沈黙と、健人の荒い呼吸、 shadow。そしてこのかの狂ったような笑い声の残響だけが満ちていた。
「めぐみ……お前……っ」
健人が、崩れ落ちるように膝をついた。目の前にいるのは、艶やかな髪に、潤んだ瞳、そしてかつて自分が「大人になれよ」と笑って渡したガーターベルトを、今まさにカメラの前で解こうとしている一人の「女」だ。
そこには、図書室の隅で共に過ごした、地味で愛おしい少女の影など微塵もなかった。
「……ねぇ、健人くん。……聞こえる? 100万人の拍手が」
めぐみが、暗闇の中で低く、そしてひどく甘い声で囁いた。
彼女は、レオの血が飛んだ自分の指先をゆっくりと見つめ、 shadow。そして健人の方へ這うように近づいた。
「君が私を『汚い』って言ったから……私、もっと汚れてみたの。……そうしたら、世界中が私を愛してくれたよ。……どうして健人くんだけ、私を愛してくれないの?」
「やめて……もうやめてくれ、めぐみ!!」
健人は頭を抱え、叫んだ。
彼の脳裏には、先ほど見た過激な配信の残像と、目の前の生々しいめぐみの色気が混ざり合い、ぐちゃぐちゃに溶け出していた。
健人がこのかと肌を重ねたのは、めぐみを忘れるためだった。けれど、その背信の事実が、逆に彼をめぐみの呪縛から逃れられなくさせていた。
「……ふふ。健人くん、泣いてるの? ……このかちゃんに、慰めてもらえばいいじゃない」
めぐみは、スタジオの隅で呆然と立ち尽くすこのかに、冷たい視線を向けた。
このかは、持っていたスケッチブックを床に叩きつけた。
「……そうだよ、健人くん! 泣かないで! ……こんな、100万人のおもちゃになった女に、私たちの何がわかるのよ!!」
このかが健人の肩を抱こうとしたその時、めぐみが冷たく言い放った。
「……このかちゃん。健人くんの首筋のそれ……私が教えた、レオさんのテクニック、役に立った?」
「っ……!!」
このかの顔が、一瞬で蒼白になった。
めぐみは、タカシとの仕事やレオとのコラボで培った、歪んだ愛の知識のすべてを、配信を通して二人に見せつけてきたのだ。
三人の絆は、もはやお互いを傷つけるための鋭利な刃物に成り果てていた。
「……もう、終わりにしよう」
めぐみが、ゆっくりと立ち上がった。
彼女は、モニターに表示された[#傍点]1,000,000[#傍点終わり]の文字を背に、カメラに向き直る。
配信は、まだ切れていない。暗闇のライブ放送に、世界中が息を呑んで耳を澄ませていた。
「……みんな。……今まで、Meguを愛してくれてありがとう」
その声は、これまでで一番低く、 shadow。そして澄んでいた。
「……私は、今日で活動を休止します。……私が欲しかったのは、100万人の視線じゃなくて、……たった一人の、[#傍点]おかえり[#傍点終わり]だったの」
めぐみは、自ら配信終了のキーを叩いた。
画面が真っ暗になる。
同時に、スタジオにパッと照明が戻った。
明るい光の下に晒されたのは、
血を流して倒れるレオ、
幼馴染への裏切りと愛着の狭間で壊れた健人、
嫉妬の果てに抜け殻となったこのか、
shadow。そして、100万人の神座を自ら捨てた、めぐみの姿。
「……じゃね。健人くん。このかちゃん」
めぐみは、床に落ちていた、健人の泥がついたサッカー部のタオルを拾い上げ、そっと顔を埋めた。
そこには、もうかつての三人の匂いなど、微塵も残っていなかった。
めぐみは、一度も振り返ることなくスタジオを出て行った。
背後に残された二人の残骸という名の過去を、 shadow。彼女はもう見ようとしなかった。
第20話をお読みいただきありがとうございました!
【次回予告】
第21話:3年ぶりの教室での再会(大人になっためぐみ)
100万人達成の夜から、三年の月日が流れた。
かつての「Megu」は伝説となり、ネットからも姿を消した。
しかし、卒業式を目前に控えたある日、地味なメガネをかけず、凛とした大人の女性へと成長しためぐみが、再び二人の前に現れる。




