第13話:2人だけの帰り道(健人×このかの距離が縮まる瞬間)
めぐみが久しぶりに登校した教室は、彼女が不在だったわずかな数日の間に、完全に別の世界へと作り変えられていた。
図書室のいつもの席。そこには、めぐみの代わりに、健人の隣で楽しそうに笑うこのかの姿があった。二人の距離は、以前のような「幼馴染」のそれではない。肩が触れ合い、視線が絡み合うたびに甘い空気が溶け出す、明確な「恋人」の距離感。
「あ、めぐみちゃん。体調、もういいの?」
このかが、勝利者の余裕すら感じさせる穏やかな声で話しかけてくる。その隣で、健人は一度だけめぐみに視線を向けたが、すぐに不快そうに顔を背けた。
めぐみの鼻腔を、健人から漂う[#傍点]このかの柔軟剤の匂い[#傍点終わり]が刺す。
「……うん。大丈夫。ごめんね、心配かけて」
めぐみは震える声で答え、這うようにして自分の席についた。
かつて自分が座っていたはずの場所を、このかに奪われたという事実。そして何より、健人が自分を見る目に、もう一片の「熱」も残っていないという事実が、めぐみを絶望の淵へと突き落とした。
放課後。
めぐみは一人、校門の影で二人が帰るのを待っていた。何を話したいわけでもない。ただ、もう一度だけ、昔のように三人で帰りたかった。
だが、現れた二人は、めぐみの存在等気にも留めず、自然に手を繋いで歩き出した。
「健人くん、今日の部活お疲れ様。……あの、週末、映画のチケット取れたんだけど……」
「お、マジか。サンキュ、このか。楽しみだな」
二人の会話が、夕暮れの空に溶けていく。
めぐみは、自分の爪が手のひらに食い込むほど拳を握りしめた。
(どうして? 私はこんなに頑張って、綺麗になって、有名になったのに……。どうして二人だけ、幸せそうなの?)
ポケットの中でスマホが震える。タカシからの仕事の催促だ。
めぐみはその場に座り込み、スマホを睨みつけた。
今の自分にあるのは、画面の向こう側の40万人の熱狂だけ。健人に「汚い」と言われた自分を、神様のように崇めてくれる匿名の群衆。
「……めぐじゃーにー」
掠れた声で呪文を唱える。
めぐみは立ち上がり、二人とは逆の方向、駅前のスタジオへと歩き出した。
その夜の配信は、過去最高に荒れ、そして熱狂的だった。
めぐみは、昨日このかと健人が繋いでいた「手」を思い出しながら、カメラの前で自分の指先を唇に遊ばせた。
「……ねぇ、寂しいの。……誰か、私を[#傍点]上書き[#傍点終わり]して……?」
過激な言葉。露わになる白い肌。
視聴者からのスパチャが画面を埋め尽くし、数字はさらに跳ね上がる。
だが、どんなに称賛を浴びても、めぐみの心の空洞は広がるばかりだった。
一方、帰り道の河川敷。
健人は、自分を繋ぐこのかの手の温もりを感じながら、胸の奥に燻るめぐみへの想いを、無理やり消し炭にしようとしていた。
繋いだ手の平が汗ばむ。それは安心からくるものではなく、自分もまた、めぐみを切り捨ててこのかを選んだという背信への緊張だった。
「健人くん……?」
「……なんでもない。……行こうぜ」
めぐみが成功への階段を駆け上がるほど、二人はより強く、閉ざされた二人の世界へと逃げ込んでいく。
三人の絆を繋いでいた「幼馴染」という言葉は、今や、互いを傷つけ合うための刃へと変わっていた。
第13話をお読みいただきありがとうございました!
【次回予告】
第14話:初めての慰めキス
めぐみが100万人を目指して仕事に没頭する週末。独りきりの寂しさに耐えきれなくなった健人と、彼を独占したいこのか。夕暮れの教室で、二人はついに、めぐみへの「最後の裏切り」へと足を踏み入れる。




