第14話:初めての慰めキス
週末、めぐみは都内の高級ホテルのスイートルームにいた。
プロデューサーのタカシが設定した「100万人目前・記念撮影会」。分厚い絨毯、金箔が施された家具、そして窓の外には宝石を撒き散らしたような東京の夜景。
かつて図書室の隅で本を読んでいた少女が、今や一晩で数百万の金を動かす「Megu」として、そこに立っていた。
「いい表情だ、Megu。その、世界中のすべてを軽蔑しているような、それでいて誰かに縋りついたいような瞳……それが男たちを狂わせるんだ」
タカシのカメラが、めぐみの肌を、 shadow。そして健人から貰ったあのガーターベルトを舐めるように写し出す。
めぐみの心は、もはや痛みすら感じていなかった。
(……ねぇ、健人くん。私は今、こんなに高い場所にいるよ。……でも、すごく寒いんだ)
一方その頃。
夕闇に包まれた学校の、いつもの図書室。
そこには、めぐみのいない「隅」の席で、寄り添うように座る健人とこのかの姿があった。
めぐみの不在が、二人をより密接に結びつけていた。彼女への怒り、幻滅、そして罪悪感。それらを共有することが、皮肉にも二人の絆を「恋」という形へ変容させてしまった。
「健人くん……まだ、めぐみちゃんのこと、考えてるの?」
このかが、健人のシャツの裾をギュッと握りしめる。
健人は、窓の外の暗闇をじっと見つめていた。頭の中に浮かぶのは、自分を誘うような眼差しでレオとコラボしていた「Megu」の姿。
「……考えてねえよ。あんな女、もう俺の知ってるめぐみじゃない」
健人の声は、自分に言い聞かせるように冷酷だった。
「俺が信じられるのは、今、ここにいてくれる……お前だけだ、このか」
その言葉を待っていた。
このかは、潤んだ瞳で健人を見上げた。
めぐみの偽りの「潤み」とは違う、一人の男を独占したいという狂おしいほどの情熱。
「健人くん……私だけを見て。私、あなたのためなら、何だってするよ……」
このかが背伸びをし、健人の首に腕を回す。
かつて、めぐみが夢にまで見た健人の唇。
それが今、このかの唇と重なり合った。
初めての、[#傍点]慰めのキス[#傍点終わり]。
それは、失った幼馴染への決別の儀式であり、自分たちを裏切っためぐみに対する、無意識の[#傍点]復讐[#傍点終わり]でもあった。
健人の頭の中で、三人の笑い声が遠ざかっていく。
代わりに、このかの甘い吐息と、自分の心臓の音がうるさく鳴り響いた。
一度触れ合ってしまえば、もう「ただの幼馴染」には戻れない。
二人は、めぐみのいない静寂の中で、深く、深く、溺れていった。
深夜。
撮影を終えためぐみは、一人でホテルの広いベッドに横たわっていた。
スマホを開くと、通知欄に「このか」の新しい投稿が表示される。
そこには、夕暮れの教室で重なる、二人の影の写真。
言葉はなかった。けれど、めぐみにははっきりと聞こえた。
――「あなたは一人で、その高い場所で死んでいって」という、親友の冷たい宣告が。
「……あ、はは……っ……」
めぐみは、自分の太ももを爪が立つほど強く掻き毟った。
頬が熱い。瞳が潤む。
「めぐじゃーにー……めぐじゃーにー……っ!!」
彼女は狂ったように呪文を叫びながら、自室ではない冷たいホテルのシーツに顔を埋めた。
100万人の歓声よりも、たった一人の「裏切り」のキスが、めぐみの世界を粉々に粉砕した。
第14話をお読みいただきありがとうございました!
【次回予告】
第15話:めぐみのいない週末
二人が愛を深める一方で、めぐみは精神的な限界を超え、さらなる過激な配信へと走る。学校では「めぐみが退学する」という噂が流れ始め、健人の心は再び激しく揺れ動く。




