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楽園に百合の花は咲くのか?  作者: セレンUK
第6章 辿り着いた楽園
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051 エピローグ


 空には煌々と眩しく輝く太陽があり、生きとし生けるものに恵みの光を与えている。

 風は柔らかくそよぎ、塩の匂いを運んでくる。

 大地には青々とした木々が茂り、多くの実りを与えてくれる。

 波打ち際を歩けば、海から繰り返し打ち寄せる小さな波が心地よい温度を提供してくれる。


 温かな気候、豊作の大地、大漁の海。

 この世の楽園とも言える、そんな場所に二人の少女は住んでいる。


「マナ! ほらほら、見て! おっきな貝」


 ザブンと海の中から顔を出した少女。

 いつもは流れるような金色の髪の毛なのだが、海に潜っていたこともあり塩水に濡れてしまっている。それでもその美しさは損なわれることはなく、水滴の滴るその髪は日の光に照らされてキラキラと輝いている。

 また彼女の笑顔を引き立てている青い目は宝石のように澄んでいて、少したれ目のその顔は人懐っこそうに見える。

 そんな愛くるしい少女が穏やかな波間から現れ、水面から大きく手を伸ばしている。


 目立つようにブンブンと振るその手には大きな巻貝が握られている。

 大きく身が詰まって食べ応えのありそうな貝。


「やるねシーニャ。アタシだって!」


 金髪の少女シーニャにマナと呼ばれた少女がニヤリと笑みを浮かべる。

 くせ毛である赤い髪を短く乱雑に切っているため男の子と間違われることもあるが、本人は特に気にしているわけではない。茶色の目とそばかすのある顔は12歳という年相応であり、泳ぐのに適したスリムな体で、負けじと海の中へと潜っていく。


「えへへ。この貝に勝てるかなぁ?」


 ニコニコしながらマナが潜って行った先を見つめるシーニャ。少し垂れた目が彼女の朗らかさを積み増しているのだ。


 ――バシャン


 水しぶきを上げてマナが海中から戻ってくる。


「うわっとっと、どうさシーニャ、この大きさ!」


 小柄な体では抱きかかえるのもやっとという程の大きな魚を抱えている。

 ビチビチと動く魚はマナの腕による拘束を何とか振りほどいて逃げ出そうと必死だが、マナも逃がすまいとして魚の動きの先を押さえるように体をくねらせながら、しっかりと確保している。


「すごいねマナ! 今日もごちそうだよ」


 そう言うと二人はザブザブと波をかき分けて砂浜へと戻る。

 そんな二人をキラリと光る太陽の光が照らす。


 マナが着ているのは赤いビキニの水着。上も下も紐で調整するタイプなので体がスリムであろうと問題ない。

 シーニャも同じくビキニの水着。白色の水着はマナのものよりも布面積は大きいが、代わりに肩ひもは無い。

 そんな水着から滴り落ちる水滴が、キラキラと輝いている。


 そうして二人はお互いに笑顔を浮かべながら砂浜へと戻り、本日の獲物を砂の上に置く。

 巻貝1個、魚1匹。今日のご飯は海の幸。豊かな海の恵みだ。


「えーいっ!」

「うわっ!」


 次の獲物を捕りに行くかなと歩き始めた矢先のこと。

 マナの背中に向かって後ろからシーニャが全身の体重をかけて倒れ込んだ。


 そんな事をしたものだから、二人はドサリと真っ白な砂浜へ一緒に倒れ込むこととなってしまう。


「ちょっとシーニャ、なにするのさ」


 サラサラの砂まみれになったマナが、同じく砂まみれのシーニャへ苦情を訴えるが、


「えへへ、体冷えちゃった。あっためて?」


 ニコニコしながら甘えるような口調でマナに笑顔を向ける。


 そんなシーニャにマナは、「仕方ないなあ」と言って手を握り、ごろりと空を向いて寝ころぶ。


 一面の青い空。ところどころにある白い雲。

 空は抜けるように高く、どこまでも続いているように見える。


「太陽があったかい。それに砂も」


 海で冷えた体が太陽の光と温かな砂によって少しずつ温まっていく。


「でも一番あったかいのはマナの手だよ」


 同じく寝転がっているシーニャは、いとおしそうにきゅっとマナとつながった手を握る。


「何を言ってるのやら……」


 顔をそむけてしまったマナ。

 照れ隠しにそう言ったものの、その次の言葉が続かない。

 でもそれでも良かった。


 二人はそのまま静かに手を握ったまま、太陽の暖かさを感じて。

 しばらくの間、幸せな思いに胸を膨らませ続けていた。


 (だけど何か忘れている気がするんだよね)


 温かくて、食べ物がたくさんあって、ふわふわな布団があって、シーニャも笑顔で。

 ここには命を脅かす天敵もいない。


 だけどマナには何か足りないものがある気がするのだ。


「ねえ、シーニャ。何か忘れてる気がしない?」


「ん? んー、あれあれ! 昨日のおまめの残りをしまったままだよ!」


「あぁ、確かに。それだったかな。この前、しまったままだったのを忘れて食べられなくなったんだったよね。あれ……この前、っていつだ?」


「どうしたのマナ。おまめが食べられなくなったことなんて無いよ? お魚はあったけど」


「そうだっけ? 魚の記憶もないけど……」


「あはは、マナったら寝ぼけてるんじゃない? そんな寝坊助お姫様にはこーだ!」


 ――ちゅっ


「うむぅ!」


 シーニャが唇を寄せてマナにキスをする。


 ――ちゅっちゅっちゅっ


 不意打ちだったので戸惑ったマナだったが、それも一瞬だけ。

 いつもの通り、大好きなシーニャへと、大好きなキスをする。


「目が覚めたみたいだね、きゃんっ!」


 ――ちゅっちゅっちゅっ


「誰がお姫様だってぇ? お姫様はシーニャの方だよ」

 

 誰も見てくるものもいない。誰も咎めてくるもののいない。

 二人だけの幸せな世界。


 そんな小さな小さな世界で、二人は体をからませあう。

 毎日毎日を繰り返すかのように幸せな日々を過ごす。

 幸せな同じ日々を。


 そこは二人にとっての楽園。


 かつての記憶を忘れて、幸せな生活を送るだけの楽園。


 小さな世界は二人の生活を記録していくが、その記録も古いものから順番に消えていく。

 記憶を、過去を、全て残すだけの容量はこの世界には無い。

 記憶も、過去も、古くなったものから消していき、そして小さな世界は再び明日を始めるのだ。


 そこは二人にとっての楽園。

 閉ざされた小さな楽園で、百合の花はいつまでも咲き続けるのだ。


 ――完――






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