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楽園に百合の花は咲くのか?  作者: セレンUK
第6章 辿り着いた楽園
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048 楽園に行く資格

「ここが楽園、なのかな?」

「うーん。どうなんだろ?」


 シーニャとマナは地図が光示している場所にたどり着いた。

 だけどそこは今まで歩いてきた場所と大差はない。

 見通しが良くて風通しも良く、草が風に吹かれるサーっという音が聞こえる一面の草原であることと、()()()()があること以外は。


「階段だね」

「うん、階段だ」


 平原にぽつんとある階段。

 白く透明な色をしており、段だけが空に向かって延々と伸びている。

 段を支えているものは見当たらず、普通に考えると乗ったら折れてしまうのではないかという怖さがある。

 手すりも無く、転落防止用の柵もない。本当に平面の段だけが伸びているのだ。


「ここを登ったら楽園があるのかな?」

「楽園っていうくらいだから、そうなのかも。危なくないかあたしが先に試してみるね」


 底が抜けそうな薄い階段。その強度を試そうと、マナが段の上に足を置こうとした瞬間――


 ――バチイッ


「うわっ!」

「大丈夫マナ!?」


 電撃のようなものが走り、マナは反動で尻もちをついてしまった。


「傷は無い? 見せて」

「だ、大丈夫みたい。バチっと来たけど、痛くはないよ」


 足を見ても傷はなさそうで、ほっと胸をなでおろしたシーニャ。


「だけど、これは登れそうに無い」


 ちょっと足を付けただけでバチっと来た。

 登るどころの話ではない。


 せっかくここまでたどり着いたのに、と二人が意気消沈する中。


 突如、何もない場所から光の粒が現れて……いくつもの粒が集まって行き……それが人の姿を取り――


「よくぞここまでたどり着きましたね。イングレッソの巫女、シーニャ」


 そう口を開いたのだ。


「あのとき助けてくれた、お姉さん!?」


 光が集まってできたのは女性の姿。

 それは、かつてマナが盗賊に掴まった時にシーニャを助けてくれた赤いバニーガールスーツお姉さんだった。


「そうよ。少しぶりねシーニャ」


 (この人がシーニャを助けてくれたお姉さん……。姿も怪しいけど、急に現れたのが何よりも怪しい)


 ギッと女性を睨みつけるマナ。


「今、急に出てきましたよね。何者なんですか?」


 大人しくしゃべろうと考えてはいたけど、敵意が混じってしまった。

 大好きなシーニャを守ろうという意思が入るといつもこうなってしまう。

 だけどマナは反省も後悔もしていない。自分がどう思われようとシーニャを守るためなのだから。


「もしかして、お姉さんが神様?」


 さすがのシーニャも目の前にいるのが普通の人間ではないとは薄々思っている。


「そうね。そう思ってもらっていいわ」


「かみ、さま……」


 神の存在が伝わっているイングレッソならともかく、マナはまったくその存在になじみがない。シーニャからふんわりとした話を聞いたことがあるだけで、マナにとっては目の前の存在は胡散臭い人間と変わらない。


「さて、もう一度言うけど、よくここまでたどり着きましたシーニャ。そしてこの階段を上がれるのは巫女であるシーニャだけ。そちらの方はお引き取りを」


「えっ!?」


「何を驚くのかしら。もともと楽園を目指すのは巫女の使命。他の人間には関係のない事なのですから」


「でも、マナとはずっと一緒に来たんだから! 一緒に上がりたいです!」


「それはできません」


「どうしてなんですか!」


「ここを登れるのはイングレッソの巫女のみ。そう決まっています。その証拠にあなたが登ろうとしたら弾かれましたよね」


 (確かにそうだ。アタシはただ、シーニャについてきただけの人間。巫女でも何でもない……)


 マナの心が沈む。

 一緒に隣を歩いてきたつもりだった。共に笑い、共に哀しみ、シーニャの夢を共有して、二人して目的に向かって歩んできたつもりだった。

 だけどそれは気のせいだったと、シーニャと自分とは違うのだと突き付けられたのだ。

 それは覆すことが出来ない事実であり、マナは反論ができず俯くしかなかった。


「じゃあ私も行きませんっ!」


「シーニャ!?」


 シーニャの言葉にマナはあっけにとられた。


「何を言い出すんですかシーニャ。あなたは巫女として――」


「行きません! マナと一緒じゃないと行きません!」


「シーニャ! だめだ、何のためにここまで来たんだ。シーニャの使命なんでしょ!」


 これまで辛く、苦しい道のりだった。

 それもこれも楽園へとたどり着くため。


 シーニャは一緒に楽園に行こうねと言ってくれているが、たとえ自分が途中で倒れたとしても、シーニャが楽園にたどり着けるのならば、という思いを心の奥底で持っていた。

 そんなマナの中にはシーニャが楽園に行かないという選択肢は存在しなかったのだ。


「楽園を見つけるのは私の使命だよ。だけど、マナのいない楽園なんて意味無いよ! だったら私は行かない。今までの巫女はだれもここまで来れてない。だったら私が来れなくてもいいはず! 楽園なんか行かずに、どこかでマナと一緒に暮らすからっ!」


「シーニャ……」


 マナが自分を犠牲にしてでもシーニャを楽園にたどり着かせようと心の奥底で思っていたのと同じように、シーニャの心の中にもマナと二人で絶対にたどり着くという思いがあった。

 それは普段からシーニャが口にしていることだけど、本当の本当であったのだ。


 (シーニャ……。ありがとう。……嬉しいよ)


 自らに課せられた使命よりも自分を取ってくれる。楽園よりもマナの事を選んでくれたシーニャ。

 マナもシーニャの事が大好きで大好きでたまらない。その方向が自己犠牲に向かっただけ。

 二人の「大人の好き」の大きさに違いは無く、お互いにとても大きかったことを改めて実感したマナ。


 シーニャの心の奥底の思いと自分の心の奥底のシーニャが楽園にたどり着いてほしいという思いとがぶつかり合って、マナの中で葛藤を引き起こしている。

 嬉しいけど複雑な気分なのだ。


「ふふっ」


 そんなシーニャを見て赤バニーお姉さんが笑った。


「ごめんなさいね、いじわるな事を言って。上がれないなんて嘘よ。あなたたちを試しただけなの。ごめんなさいね」


「えっ! ほんと! よかった、マナっ!」

「ちょ、ちょっとシーニャ」


 一緒に楽園に行くことが出来る喜びをかみしめるかのように、シーニャはマナに飛びついたかと思うと、ぎゅっと強く抱きしめる。

 マナはマナで驚きながらも、一緒に進むことが出来るという安堵を抱いていて、そんなお相手のシーニャの背中に手を回して、彼女の暖かさを感じていた。


「ふふっ。ようこそ、巫女シーニャ。そしてマナ。この階段の先に楽園が待っているわ」

お読みいただきありがとうございます。

大好きな人とは一緒にいたいですよね。

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