047 たぶん重くないよね?
「マナ、岸が見えるよ!」
「うん。やっとだよ」
川岸までは結構な距離があった。
途中で休憩を挟みながら壁沿いに船を動かして幾時か。
ようやく水ではない砂地や木々がある景色が見えてきたのだ。
ザリッと船の底が川底に着いた。
川岸まであと少しだが船で進めるのはここまでだ。
「行こうシーニャ」
マナはパラディースシフに手をかけると、「よっと」と言いながら船の側面を超え、足の付く川底へと着地した。
川の水はマナの膝くらいまで来ている。素足では危険なため履いている靴は濡れてしまったが、膝上のショートパンツは濡れてはいない。
「さ、シーニャ」
船の方へと振り返り、シーニャへと両手を伸ばすマナ。
「どういうこと?」
船から降りるために手を取ってくれるのだろうが、なんで両手なのか、という疑問が湧いてくる。
シーニャはとりあえず両手を差し出してみるが――
「違うよシーニャ。腕の上に乗るように降りて来て」
マナが差し出した両腕はシーニャの体を抱えるためのもの。
つまりは、お姫様抱っこをしようというのだ。
「う、うん」
なるほどと思いながらも頷くシーニャ。
いつもカッコいいマナなら普通だよね、などと思ってマナの行為を受け入れる。
(お、重くないかな? 虹の雫のおかげで最近食べなくても大丈夫で何も食べてないから……たぶん重くないよね?)
さすがに一気に全体重を預けるわけには行かない。ゆっくりと船からマナの腕へと体重を映していく。
身長的には僅かにシーニャの方が高い。
そんな体格のマナなので、特段力持ちであるというわけでもないのだ。
シーニャが体重という乙女心を気にするとしても止む無しだ。
「よっと」
「ひゃあぅ」
マナの腕にシーニャが体重を預け切ったところで、マナはシーニャの体の位置を変えるためにシーニャの体を腕の力で少しだけ浮かせた。
それだけのことが出来るだなんて、シーニャの杞憂だったというわけだ。
ざぶざぶと水をかき分けて歩くマナ。
「ありがとうマナ」
「どういたしまして」
シーニャはスカートで黒タイツだ。
この水位の中へと降り立つと確実に両方とも濡れてしまう。
そこでマナはお姫様抱っこを選択し、シーニャを乾いたまま岸に運ぼうと考えたのだ。
ちなみに、無理にお姫様抱っこををしなくても、背中におぶればいいのではないかとも思うが、マナの方が少し背が低い都合上、シーニャが足を曲げても水面に付いてしまうかもしれなかったし、そんな理由はとにもかくにも、マナがお姫様抱っこをしたかっただけだと言う説もある。
そうやって大切にされて、ぎゅっとマナにしがみついて……そして岸に到達する。
「乾かして行こっか」
シーニャは乾いたままだが、その犠牲となったマナは靴の中がびしょ濡れ。
都合よく大岩があったので、そこに登ってお日様にあてて靴を乾かす提案だ。
二人は大岩の上に登る。
早速マナは靴を脱ぎ、素足になる。
「拭いてあげるね」
「大丈夫だよ。自然に乾くから」
「だーめ」
シーニャはポシェットからハンカチを取り出すと、水に濡れてしまったマナの足にあて、水を拭きとっていく。
「ありがとうシーニャ」
ハンカチではカラカラにふき取るまではいかなかったので幾分か湿っているものの、これならすぐに乾くだろう。
「こちらこそ、だよ」
シーニャの代わりに濡れたと言っても過言ではない。
そんなマナの優しさに触れて温かい気持ちが胸に溢れてくる。
マナの靴と一緒にハンカチも広げてお日様に当てて乾かす。
そんな何気ない一コマ。
しかしながら、平和なように見えてそうでもない。
いつでもガーヴァルを発見できるように、周囲には気を配りながらなのだ。
ここは地上。人間の生存は厳しい場所なのだから。
「そう言えば、結構流されたけど、どっちに行ったらいいのかな?」
ふとマナが口にした。
目標はハイゼクレーラの町から真横に進んで川岸にたどり着くことだった。
それが大きく下流に流されたことで目的地が遠のいたのではないか、とマナは思った。
「それがね、たぶんもうすぐなの」
「えっ?」
「ほら、見て?」
シーニャが巫女の鏡を開き、光の地図を表示させる。
「私もどっちに行ったらいいのかわからなかったんだけどね、ほら、ここ、光ってる」
「本当だ……」
地図には自分たちがいる場所を示す光の点が表示される。そしてその光のすぐ近くに見たことの無い光の記号が指し示す場所があったのだ。
この地図は世界地図のように世界の全地域が表示されているわけではない。今いる場所から一定の距離を表示する仕組みだ。
楽園の大まかな方向は分かるとは言え、どれくらい先にあるのか、どこが楽園なのかは近づくまで分からない仕組みなのだ。
そんな中に現れた光の記号。文字ではないためはっきりとは分からないが、ここが終着点である可能性は高い。
つまりはその地点が楽園。
「多分、ガーヴァルから逃げて真っ直ぐに川岸にたどり着いてたら、もっともっと時間がかかったと思う」
「うん。あの古傷のあったガーヴァルを倒したからこそ、ここまでこれたってわけだね」
偶然が重なったが、その結果、楽園までの道のりを大幅に短縮できたのだ。
「じゃあこんなところでのんびりしているわけにはいかないね。行こうシーニャ! 楽園へ!」
「あ、ちょっと、マナぁ、待ってぇ!」
はやる気持ちに、濡れたままの靴を履いて出発してしまったマナを、あわあわとしながら追いかけるシーニャなのであった。
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