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楽園に百合の花は咲くのか?  作者: セレンUK
第6章 辿り着いた楽園
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046 遥かなる大河

「どこまで流されるんだろうね」

「うーん、わからない」


 見渡す限りの水。

 マナとシーニャは金属の船、パラディースシフの上で何度目かとなるその会話を繰り広げた。


 古傷のあるガーヴァルを倒した後の事。

 転覆した船の上に二人して登って窮地は脱した。

 しかしながらそのまま船を放っておくと沈没してしまいかねないので、もう一度川の中に入って、二人してうんしょうんしょと船の横を持ち上げて、なんとかひっくり返して元の向きに戻した。

 その際に船に入った水を全部汲みだして、ほっと一息ついたものの、動力を失っているパラディースシフは川の流れにされるがまま流され続けている。


 最初は頑張って向こう岸にたどり着こうと思い、二人して船に掴まってバタ足で前に進ませようとしたのだが、川の流れに逆らってまで進めなかったことに加えてまったく河の先が見えないことで、成り行きに任せることになったのだ。


 そして冒頭へと戻る。


「水しかないね」

「うん。飲み水には困らないし、いつでも水浴びできる」


 ハイゼクレーラの町で用意した荷物はすでに失われている。

 ガーヴァルとの闘いで船は逆さまになったのだ。もちろんそこで積み荷は落下するものだが、実はその少し前のガーヴァルに追われていた時に、少しでも船を軽くするために川へと投げ捨てていたのだ。良い子は真似をしてはいけない。


 今はシーニャのポシェットなど、お互い最低限のものしか持っていない。

 ある意味いつも通りとも言う。


 流され続けてどれだけの時間が経ったのだろうか。

 まだ夜は越してないので一日は経過していない。それでも長い時間をこうして流されっぱなしになっている。


 これだけ流されれば違うガーヴァルの縄張りに入ってる可能性もあるが、今のところ他のガーヴァルに襲われてはいない。ただ単に見つかっていないだけか、または古傷ガーヴァルの縄張りがとても広い可能性も捨てきれない。


「ねえシーニャ」

「なーに、マナ」

「二人きりだね」

「そうだよ。なーに、甘えん坊さんになりたいの?」

「えっ、その、まあ、そうなんだけど……」

「ハイゼクレーラの町に着いてからなかなか二人きりになる事なかったもんね。ガーヴァルの巣で虹の雫を手に入れた後に森ですっごく甘えてきた時以来だね」

「う、うん。そうだけど……」

「ごめんごめん、甘えるマナが可愛くていじわる言っちゃった。さあどうぞ」


 ポンポンと自分の膝の上を叩き、来てもいいよと促すシーニャ。

 まるでおあずけされていた餌を許可された犬のように、マナは笑顔を浮かべると横になって自分の頭をシーニャの膝の上に乗せた。


「マナは私の膝が大好きなんだね」

「好き」


 マナは頬でシーニャの膝の感触を確かめる。

 膝の上といっても素肌の上ではない。シーニャはスカートを履いているので、スカートの上からだ。シーニャの服は特別製の巫女用の服。すべすべして触りごこちがよく、それだけでも気持ちいいいものだが、膝の感触と合わさって、マナにとってはそこが楽園なのではないかと考える程なのだ。


 (マナ、可愛い)


 そんな風にして自分の膝の上を堪能しているマナの姿をシーニャは愛しそうに眺める。

 そしてマナの髪の毛にゆっくりと指を差し入れて、髪の毛をすく様に動かすのだ。

 マナの赤い髪の毛は短い。指に絡む時間も短いので、ゆっくりと、何度も何度もそれを繰り返す。


 マナもシーニャの手を受け入れて、まるで体をなでられている犬のように、安心しきっている。

 そしてもっとシーニャの事を感じたいのか、髪をすいている手ではないもう片方の手を両手できゅっと挟んでしまう。


「甘えんぼさんね」

「シーニャ好き」

「赤ちゃんみたいだよ。他の人に見られたらどうなるかな」

「今は二人きりなの」

「いつもはあんなにカッコイイのにね」

「むー、シーニャは甘えるあたしは嫌?」

「んーん、好き。カッコイイ時のマナも好きだし、甘えて可愛いマナも好き」

「よかった」


 好きだと言ってもらえたことで安心したマナは、ごろりと寝返りをうち、顔をシーニャの体のほうに向き変える。

 そして、そのままお腹に抱き着くように両腕を回した。


「一段と甘えん坊さんだね」

「シーニャ好き」


 シーニャ好きしか言わない生き物と化したマナは、ぐりぐりと顔をシーニャのおなかに押し付ける。


「あん、ちょっと、まなぁ、くすぐったいよ」

「好きだからしかたがない」

「も、もう、はうっ、そこ、、おへそぉ」


 シーニャもシーニャでマナの事が好きなので、そうは言いながらもマナにされるがままになっている。


 ――ドンッ


「きゃっ!」

「な、何っ!?」


 突如船体が音と共に大きく揺れた。

 マナは飛び起きて周囲を警戒する。


 ――コンコンコンコン


 強い振動は先ほどの一回だけ。それからは小刻みな振動が船を襲っているのだが――


「何もない……」


 辺りの景色は先ほどまでと変わらず、ただ多くの水が流れるだだっ広い川があるだけだ。

 岩にでも乗り上げたのかと思ったが、そんな岩など見つからない。

 ただ川の流れに流されているだけの船。

 そんな状態だが、船が何かに当たているような振動はずっと続いている。


「何か、おかしい……」


 船体の川上側の水の様子がおかしい。水が船尾に激しく当たって飛沫(しぶき)を上げているのだ。

 流れに乗っているのであればこんなに水が船体にぶち当たって割れていくような流れにはならないはずだ。


 川下側を見る。

 周りは一面の水だらけとはいえ、流されて動いている景色かどうかの判断は付く。

 今は()()()()()()

 水は流れて行っているが、船はまるで壁にでも当たっているかのように、その場所に留まったまなとなっている。


 マナはそっと手を伸ばす。


「何かある……」


 船の前に透明な壁のようなものがあることに気づいた。

 それが何なのかは分からないが、水はそこを通れて、船も人間もそこを通れないのだろう。


「地図のはしっこ?」


 シーニャが巫女の鏡を開いて現在地を確認すると、地図の端っこにいることになっている。

 今まで旅をしてきた中で、地図に端っこがあるなんて二人は知らなかった。


「あっ、これなら向こう岸までいけるかも?」


 壁に着けた手をぐっと動かすことで船体が横へと進んだ。

 この見えない壁がどこまでもずっと続いているとしたら、このまま壁沿いに手を動かして進めば川岸まで行けるはず。


「そしたら出発だね!」


 できることがあるなら話は早い。

 二人はえっちらおっちらと、透明な壁を使って船を進めて川岸を目指すのであった。

お読みいただきありがとうございます。

甘えまくるマナの図でした。

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