045 第5章エピローグ
――ハイゼクレーラの町
「急いで! お願い!」
「うっす! 姉さん!」
対岸から望遠鏡で様子をうかがっていたファッツだったが、船が湯気を超えて行ってしまったので手持ちの望遠鏡では状況を追えなくなっていた。
二人がガーヴァルに襲われている。
この距離で何ができるわけでもない。だけど、その様子を見ることができれば何かができるかもしれない。
そう考えたファッツは、船を川岸まで運んできた男衆にお願いして、自分を家まで運んでもらっているのだ。
一刻を争う今、義足を付けた足で家に戻るよりも運んで走ってもらった方が圧倒的に早い。
そこでムキムキの男がファッツを背負って走っているのだ。
「着いた! 二階に上がって! そこでおろして! その後一階から虹の雫を持ってきて!」
「うっす!」
矢継ぎ早に指示を出すファッツ。
その指示通り男は階段を駆け上がり、ファッツをそこに降ろすと階下へと駆けていく。
「待っててね、シーニャちゃん、マナちゃん! 虹の雫を使うこの超望遠鏡なら!」
二階にあったのは人の体程の大きさの筒状の機械。
ファッツはその筒にあるスイッチをぽちっと押す。
そして、ガガガと締め切っていた雨戸を開ける。
光が部屋の中に差し込んでくる。
「姉さん、持って来やした!」
「ありがと。この望遠鏡を押して前に出して!」
虹の雫を受け取ったファッツ。
ムキムキ君に力仕事をお願いする。
ムキムキ君は頷いて、重い金属製の超望遠鏡を窓の所まで移動させる。移動用にコロが付いているので朝飯前だ。
「この超望遠鏡なら対岸までも見える。あの時、エリネリベルト様の最後をみとった時のように……」
圧倒的な観測力を持つファッツ製の超望遠鏡だが、使うためには虹の雫が必要だと言うデメリットがあった。
レンズとレンズの間に温めた虹の雫の蒸気を満たすことで光の屈折率を変えて超遠方まで見通すことが出来るのだ。
ファッツは超望遠鏡に着けられた虹の雫投入口に虹の雫を少しだけ流し込む。
この虹の雫がヒーターによって温められ気化した蒸気が本体に送り込まれる。
「無事でいてよ、二人とも!」
準備は完了。ファッツは超望遠鏡を覗き込んだ。
「どうですかい、姉さん」
「ちょっと待って、あ、いた! 無事よ! でも、これはどういう状況!? 逃げてるのか! 追いつかれないように、少しでも速度を上げるために、川下に向かって」
ファッツの目が捕らえたのは、川下に向かって爆走するパラディースシフとそれを追うガーヴァルの姿。
「えっ? なんか水面が光って、あっ! 光が! まさかあれは、エリネリベルト様の……」
解説をしてくれているようだが、さっぱりわからない。
ムキムキ君はそう思ったが、黙って静かにしていようと思った。
「狙うのね、シーニャちゃん! いけっ、いけっ! ああーっ!」
シーニャとマナが背中合わせになって狙いを定めてガーヴァルを撃ったシーン。
ファッツの目にもガーヴァルの触手によって光が防がれたのが見えた。
「ダメか! シーニャちゃん、次、次撃って!」
そう思って見ていても、なかなかシーニャが次弾を撃つ気配が無い。
ここでファッツも気づいた。あの光は連発はできないのだと。
「あああああ、だめ、掴まっちゃう! 逃げて! 二人とも逃げて!」
追いつかれるのは時間の問題。でもここからじゃあ何もできない。こうやって叫ぶことしか。
「えっ!? 何? パラディースシフが、飛んだ!?」
エリネルベルトの船底に乗り上げて飛んだシーンだ。
「えっ!? ひっくり返って、えええええ!?」
底を空へと向けてひっくり返ったところで船の後ろのエンジンが火を噴いた。
「最終加速装置! もしかして、マナちゃん、やる気なの!?」
弾丸のように宙を飛ぶパラディースシフ。
このままいけば迫るガーヴァルにぶつかる。
「えっ!? えっ!?」
逆さになったパラディースシフにマナがぶら下がり、その下にシーニャがぶら下がっている。
「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」
シーニャから放たれた光とパラディースシフが同じタイミングでガーヴァルに直撃した。
ガーヴァルの体を光が貫通し、パラディースシフもあの黒い巨体を突き破って後方へと着水する。
ガーヴァルの体は体の四分の一ほどが消失しており、目玉がグルグルと動いていた。
そして、いくつもの触手が空へと伸びたかと思うと……その中心である巨大な目が七色に光り出し、まばゆい光の柱が出現して空へと真っ直ぐに伸びる。
ガーヴァルの体が見えなくなるほど眩く太い光。空のどこまでも上に伸びていることから、水面を貫通して川底まで達している可能性もある。
「まさか……」
そしてその光の柱が少しずつ少しずつ細くなっていき……最後には消えてしまった。
その跡には、ガーヴァルの姿はどこにもなかった。
「が、ガーヴァルを、倒し、た……」
にわかには信じられなかった。
人間が到底勝てる存在ではなかったのだ。
だが、今の光景を見ると、人間にもやれるんだという思いが沸き上がってきた。
「す、すごいっ! 倒した! ガーヴァルを倒したんだ!」
振り返って、義足でなければ今にもぴょんぴょんと跳ねまわりそうなまま、ムキムキ君に呼びかける。
「まじっすか、すごいっすね、巫女様は」
「そうだよ! 巫女様はすごいんだ! だけど巫女様一人じゃ勝てなかった。シーニャちゃんとマナちゃん、二人がいたから勝てたんだ!」
「さすがっす。それで、二人の様子はどうなんです?」
「あーーーーっ! そうだ!」
ガーヴァルの方を見すぎていて二人が無事なのかを確認していないことに気づいたファッツ。
「シーニャちゃん、マナちゃん、無事でいて!」
超望遠鏡を覗き込み二人の姿を探す。
「無事だっ! 二人は無事だ! よかった!」
転覆したパラディースシフの船底。水面に浮いているそこに、びしょぬれになったシーニャとマナが登っていた。
「このことをみんなに伝えてきてくれる?」
「うっす」
驚きを、喜びを、一刻も早く町のみんなにも伝えてあげるべきだ。
そう思ったファッツはムキムキ君に伝令をお願いして、そして――
「エリネリベルト様……、あなたの敵は、立派に育ったあなたの娘さんが取ってくれましたよ……。だから安らかに眠ってください……」
窓枠から体を乗り出すと、湯気にまみれた空を見上げて、ファッツはそう言った。
その目には涙が光っていた。
お読みいただきありがとうございます。
短かったですが、ここで第5章は完結となります。
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次回から、第6章 辿り着いた楽園 をお送りします。
お楽しみに!




