042 大河を渡れ!
水着の話で盛り上がっていたので描写が無かったが、虹の雫が染みついて七色に光るようになったマナの服の代わりの服は、今まで着ていた黒い服の色違いに収まっていた。
色は水色。へそ出しなのも変わらず、ショーパンなのも変わらず。
上に羽織るジャケットだけは黒を選んだ。
そんなこんなで服装を含めて出発の準備は整った。
「どっせーい! どっせーい!」
男衆がファッツの家からパラディースシフを担ぎ上げて川岸へと運びこむ。
そして二人が出発する様子を一目見ようと多くの人が集まっていた。
「マナちゃん、説明はしたとおりだよ。このパラディースシフならガーヴァルからだって逃げ切って向こう岸に着けるはずだ」
ギシリと義足を鳴らせてファッツがマナに伝える。
「シーニャちゃん。私はエリネリベルト様を無事に向こう岸まで送ることが出来なかったことをずっと悔やんでた。あの方の娘であるシーニャちゃんが無事に向こう岸まで着いたら……エリネリベルト様も許してくれるかな」
「お母さんはファッツさんの事を恨んでなんかいないと思います。だから気に病まないでください。私の言葉で足りない分は、私が向こう岸まで行くことで埋めますから」
「そうだね。エリネリベルト様はそんな方じゃなかった。私が勝手に後ろめたさを引きずっていただけなんだ……。シーニャちゃん、ありがとう。エリネリベルト様とシーニャちゃん、二人の巫女様にお会いできて幸せだよ」
「はい! 私は絶対に楽園を見つけて、ファッツさんを、そして皆さんをガーヴァルのいない幸せな場所に案内しますから!」
「それじゃあシーニャ、行こうか」
「うん」
二人は見送られながら岸辺のパラディースシフへと乗り込む。
――ブォン
マナがパラディースシフのエンジンを起動させる。
「それじゃあ皆さん、ありがとうございました!」
船がゆっくりと進みだして川岸が遠ざかっていく。
小さくなっていく人々に、シーニャは大きく手を降る。
手を降り続けて、岸が小さくなってきた所で前へと向き直る。
そこには正面をじっと見据える赤毛の少女の姿があった。
頼もしくてカッコ良くて、最愛の人。
「うわっ! シーニャ、危ないよ!」
愛しさが溢れ出したので後ろから抱き着いてみた。
怒られてはいるものの、本気で怒っている様子でもない。
「もう、みんなが見てるよ」
「平気だよ。もうあんなに小さいもの」
パラディースシフのエンジンが通常モードに達するまで、二人は船の上で抱き合うのだった。
◆◆◆
最初は本当にこんな金属の塊が浮かぶのかは疑問だった。
だって金属って水に浮かばないじゃないか、とマナは思っていた。だけど浮かんだ。それどころか、この船は泳ぐよりも早く進んだ。
もちろんマナは泳げないので、シーニャの泳ぐスピードと比べてのことだが。
「そろそろ最大船速を出せるかな」
エンジンを起動してから最大船速までは時間がかかる事をファッツから聞いていた。
おおよそ、温泉の湯気が出ているギリギリの場所あたりまでが慣らし運転の時間。
まだ望遠鏡を使えばハイゼクレーラの町からでもパラディースシフの姿を捉えれる場所にいる。
境界を越えて湯気が無くなり次第、最大船速を出して一気に向こう岸まで渡り切る作戦だ。
残念ながら向こう岸までの距離がわからないため、虹の雫を温存する意味で、慣らし運転状態のまま進んでいるというわけだ。
「お母さんのルートはもう少し先で終わってる……」
巫女の鏡を開いて地図を確認するシーニャ。
ここに来た巫女は過去には一人だけ。そしてその巫女こそシーニャの母のエリネルベルト。10年前死んだことしかわからなかったが、ファッツの話でその最後を知る事ができた。
その場所がこの先にある。
そここそが湯気のない場所であり、ガーヴァルの索敵に引っかかる場所。
エリネルベルトは先人の情報もないまま手探りでそこへと到達し、そして巫女の使命を終えることとなった。
エリネルベルトがここまで進んでいたから、だから二人はその先を目指せるのだ。
「気を付けてシーニャ。もうすぐ湯気を抜けるはずだ」
「うん。地図を閉じるね」
巫女の鏡を閉じて、中に浮かび上がっていた青い光の地図を消す。
――ぶわっ
辺りの空気が揺れ動いた気がした。
いや、実際に揺れ動いた!
川岸よりも濃い湯気が立ち上っている境界部分。その湯気が、ぶわりと動き、そしてその異常な動きをした場所から、黒く巨大なものが現れたのだ。
「ガーヴァル!? 湯気には入ってこないはずなんじゃ!」
進む船の真横から現れたのは人類の天敵。
黒い歪な体と巨大な一つ目をした人類殺害上位存在。
「もしかして、巫女の鏡に反応したの!?」
宙に浮かんだ青い光。それを見つけて普段は入ってこない湯気の中に入ってきた可能性は高い。
「シーニャ! 振り落とされないように掴まってて」
「うん!」
巨大な目がギロリと動く。
叩き潰す存在を見つけたガーヴァルは、体から生み出した二本の触手を振り上げる。
「全速力だっ!」
マナがレバーを引くと、ヴォンと一段階エンジンの稼働音が高くなる。
それと同時に、船は急加速し、ガーヴァルが振り下ろした触手が水面を叩く。
――ドウンッ
鼓膜を破るかというほどの重低音がする。
まるで爆発したかのように水面がはじけ飛び、文字通り波となった水が周囲に影響を及ぼす。
「予定は狂ったけど、このまま逃げるよ!」
衝撃により発生した大波に乗り上げた船の上でマナは叫んだ。
お読みいただきありがとうございます。
しょっぱなから大ピンチ!




