037 ガーヴァルの○○
「いっくぞーっ!」
円のように回転している二人。マナはシーニャに円運動とは違うベクトルの力をかける。
腕を介して伝わった力が回転の中心をずらしていき、マナは異なったベクトルが生んだ移動エネルギーを逃がさないように、その動きに自分の体を合わせる。
そして腕を縮めて、シーニャの体を抱き寄せると、ぎゅっと自分の体の内側に、守るように抱きしめた。
新たに生み出された移動の力が向く方法。
それは迫りくるガーヴァルのいる方向だった。
(触手から逃げられないんだったら、逆に飛び込んでしまえばいい!)
二人の体は錐もみ状態でガーヴァルへと突っ込んで行く。
絶対にうまくいくという保証はない。
だから何かあった時シーニャだけでも守ろうと、マナはぎゅっと抱きしめたのだ。
「縺セ縺倥°繧!!??」
そんな二人の様子にガーヴァルは驚きを現した。
二人を叩き殺そうと用意していた触手の間を抜けてターゲットが向かってくるのだ。
ガーヴァルにとっては考えもしなかった事かもしれない。
死を待つばかりのセミが突然跳ねたのと似ているのかもしれない。
しかしながら、二人にとってガーヴァルの気持ちなど理解しようがないものだ。
――ドンッ
音が聞こえた。
どんな感触だったのだろうか。柔らかいのか固いのか。それはマナとシーニャにしかわからない。
二人の体は黒く巨大なガーヴァルの体に体当たりしたのだ。
人間の脅威、圧倒的な上位存在。そんなガーヴァルに。
「縺弱c繝シ縺」縺斐″縺カ繧翫′縺九i縺?縺ォ!?!?!?」
まるで取り乱しているかのように、汚らわしいものが体に着いてしまったのを払い落とそうとするかのように、ガーヴァルが触手を振り回す。
「うぁっ!」
無造作に振るわれた触手がマナの体に叩きつけられる。
その強力な反動で地面へと一直線に落下していく。
二人が囚われていた不思議な力の束縛から無理やりに解放されて……。
「マナっ!」
ガーヴァルから守るようにぎゅっと自分を抱きしめてくれていたマナの腕の力が弱まる。
不安を与えないように声を我慢したのだろうが、触手はマナの体にしっかりとダメージを残しており、痛みに引きつるマナの顔と、彼女の口から吐き出された血をシーニャは目の当たりにした。
問題はそれだけではない。
再び重力の支配を受けた二人が地面に激突するということだ。
50mはある高所から金属の床に落下すれば、待っているのは完全な死だ。
しかし、シーニャは床に虹を見た。
チカチカとそこら中で光るネオンのようなものではない。
もっと原始的な、そしてかつて見たことのある七色の光。
そして――
――ドボンッ
二人の体は固い金属の床ではなく、虹色に輝く液体の中に落下したのだ。
◆◆◆
「……! ……!」
(……こえが……きこえる……)
「……! ……ナ!」
(……やさしいこえ……。あんしん……する……)
「マナ! マナ!」
(……大好きな……人の……声……シーニャ……)
そこでマナはハッと目を覚ました。
目の前、いや、口と口が重なってゼロ距離のシーニャ。
意識を取り戻したマナの見開いた目はそんな姿を捉えたのだ。
「んぐっ!?」
触れ合っているシーニャの口から喉奥に無理やり流し込まれた何かを飲み込んだ。
飲み込まざるを得なかったとも言う。そうしなければ息ができなかったのだ。
「げっほげっほ!」
咄嗟の事だったため器官に入ってしまった何か。それを反射的に追い出そうとする体。
吐き出され続ける酸素がマナの体を二重に苦しめる。
「マナ! よかった! 目が覚めた!」
虹色の液体でびちょびちょに濡れたシーニャの姿。
肌ですら七色の帯がかかっている。
「シーニャ……」
「本当に、本当によかった……。マナが血を吐いて意識を失った時はどうしようって思ったんだよ。でも、虹の雫があってよかった」
「虹の雫……」
この虹色の液体は虹の雫だ。
周囲に沢山、いや、マナの体が虹の雫に浮くほどに、溢れんばかりの量が存在するのだ。
「ここは……」
「よくわからないけど、触手に叩かれて落されたのがここなの。虹の雫を溜めている場所なのかな?」
虹の雫を口移しで飲み込んだ効果で、ひどい負傷をおっていたマナの体は徐々に動くようになっている。
ぼんやりとして思考に霞がかかっていたような状態も晴れてきた。
シーニャの言う通り、ここは保管場所なのだろうか。
周囲は丸形をした壁で囲まれていて、その中になみなみと虹の雫が溜っている。
どこまでの深さがあるのだろうか。足は床についてはいない。
とはいえ泳ぐように足をバタバタしているわけではない。
虹の雫の比重は人体よりも重いのか、沈まない程度に浮かんでいるような状態だ。
(あれはっ!)
マナは声を押し殺した。
唯一開けている頭上を見ると、先ほどのガーヴァルが浮いていたのだ。
二人を探しているのか、ガーヴァルは仕切りに辺りに視線を向けてグルグルとその場を回っていたが、じきにその様子は無くなり……すーっと、二人のいる虹の雫のプールの真上までやってくる。
(見つかった!?)
そうマナが思った瞬間のこと。
(えっ!?)
マナもシーニャも絶句した。
宙に浮いたガーヴァルの目のあたりから七色の液体が流れ落ちてきたのだ。
ボチャボチャと虹の雫のプールに滴り落ちる七色の液体。
それは周囲の虹の雫となんら変わりのないものだった。
ひとしきり七色の液体を垂らしたガーヴァルは、そのまますーっとどこかへ行ってしまった。
無言のまま時間が過ぎる。
二人ともあっけに取られていて言葉にならなかったのだが、その沈黙はマナによって破られる。
「虹の雫ってガーヴァルの――」
「だめっ! 言わないで! 言っちゃダメ」
口に出そうとしたことをシーニャに止められる。
「ううう、今も飲んじゃったのにぃ」
「うん。アタシも……」
服も虹色まみれの二人。キラキラ光って綺麗だ。
「帰ろっか」
「うん……」
こうして二人は目的どおり虹の雫を手に入れることに成功したのであった。
お読みいただきありがとうございます。
虹の雫の正体はガーヴァルの〇〇。
伏字に入る部分はご想像にお任せいたします!




