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030 第4章プロローグ

 頭の上を覆うように生い茂る木々、進むのを阻むかのように足を取る草々。

 シーニャとマナの旅路の多くは山間であり、洞窟である。

 開けた草原を進むこともあると言えばあるが、あまりない。

 そしてもっと珍しいのは湖であり川だ。


「わぁ! 見て見てマナ! 大きい湖だよ!」


「湖、なのかな? 水が流れてる感じがするけど」


「川じゃないよ。だって向こう側が見えないくらいだよ」


「うーん、川でも湖でもどっちでもいいけど、ここを進むのは大変そうだ」


「もう、マナったら! キラキラ光って綺麗なんだよ? それを楽しもうよ」


「そう言われてもなぁ……」


 マナは間違ったことは言ってないつもりだ。

 シーニャと一緒に楽園にたどり着くために、いつも神経を張り巡らせて危険を回避しているのだから。

 それに加えてマナには景色を楽しむ趣味も無い。湖は大きいな、木がたくさん生えているな、とは思うがそれだけであり、大きくて凄いから感動する、とまではいかないのだ。


「ねね、水浴びしようよ!」


 (ほら来た。絶対に言うと思ったよ)


 水浴び大好きっ子のシーニャだ。川でも湖でも湧き水でも、水源をみつけるとすぐに水浴びをしたがる。

 なので、そう言いだすことがマナには分かっていた。


「ここじゃだめ」


「なんでぇ!?」


 即否定するマナと不満を訴えるシーニャ。


「ここは広すぎて視界が良すぎる。これだけ広いとすぐにガーヴァルに見つかってしまうからね。ほら、どこにも人はいないでしょ」


 地上に人がいることはほとんど無いのだが、ここはそれにもまして人の気配も痕跡もない。

 つまりは危険であることを物語っているのである。


「でもぉ」


 ちょっとくらいは大丈夫だよね。とウルウルした目で訴えてくる。

 僅かにシーニャの方が背が高いので上目遣いとは行かないが、マナは恋愛フィルターを通して見ているため、可愛いい顔がなおの事キラキラ光って見えるので、たまらない。


「はいはい。なにも浴びたらだめっていってるわけじゃないよ。もう少し移動して安全な場所があればいいかな」


「ほんと? マナ大好き!」

「ちょ、ちょっとシーニャ!」


 嬉しさが極まって、マナの腕に抱き着くシーニャ。

 抱き着かれた腕には柔らかなふくらみの感触がマナには伝わってくる。

 傍目には迷惑がってるように見えるが、内心では急な密着にドキドキしているのだ。


「じゃあ、早く行こっ!」


 そんなマナの気持ちを知ってかしらずか、パッと手を離して先を促すシーニャ。


「も、もう、シーニャったら」


 ドキドキした心を落ち着けて、どちらに行くかを考える。

 目の前には湖か大河かわからない一面の水。おそらく川なので、上流か下流かどちらかを選ぶことになる。


 目視してみると、上流も下流も川辺の木々の量は変わらずまばらで、安全とは言い難い。

 どちらにしたものか、と考える中、マナはあることを思いつく。


「これまでの巫女はどうしたんだろ。【巫女の鏡】で見れる?」


 歴代の巫女が旅してきたルートを表示できる巫女の鏡。

 過去にどちらに行ったのかを調べれば、危険も回避できるというものだ。


「ちょっと待ってね」


 首元から【巫女の鏡】を取り出そうとするシーニャ。

 以前の経験から首元を見ないようにと僅かに下にとマナが視線をそらしていると、引き出される鏡が服の中で当たったのか、胸がぷるりと一揺れしたのを見てしまい、心に動揺が生まれてしまう。


「うーん、この辺りに来た巫女はあまりいないね。あ、一人いるみたい。あっちに行ったかな」


 確認が始まったことにハッとして、マナはぶんぶんと首を振り、腑抜けた思いを無理やり追い出すと、地図を見て――


「あー、こっちだね」


 と言った。

 案の定、シーニャは地図を逆に見ていた。


「また間違えちゃった。本当にマナは頼りになるね」


 えへへとはにかんで、マナをヨイショするシーニャ。


「も、もう、おだてても何も出ないよ。シーニャもちゃんと一人で見れるようにしないと。もし、一人になったとき困るよ?」


「一人になんてならないよ。ずっとマナと一緒なんだから」


「う、うん……」


 学びを促したはずが、カウンターをくらってしまった。

 どこまでずっとなのかは分からないが、シーニャの中ではこれからもずっとマナが横にいる想定なのだ。


「じゃあ、行こっ。水浴び、水浴び、マナと一緒にみずあび~」


「一緒じゃないから!」


「え~、いつもそう言ってるから、今日はいいでしょぉ」


「だ、だめ、だめっ! いつも言ってるけど、水浴びの最中は危険なんだから!」


「じゃあ危険じゃないところ探す」


「そんな場所無い」


「分からないじゃない」


「水場は辺りが開けてるから危険なの」


「じゃあ、危険じゃない所だったら一緒に水浴びしてもらうから」


「はいはい。あったらね」


「言ったね。約束だよ! もう取り消せないよ」


「分かった分かった。ほら、行くよ」


 目の前に広がる大河。

 二人は大河を超えるための道を探して歩み始める。

 この先に待ち受ける物語を知らずに……。

お読みいただきありがとうございます。

第4章の始まりです。

今回はこの大河をメインにお話が進みます。

いったいどんなお話になるのか。お楽しみに!

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