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楽園に百合の花は咲くのか?  作者: セレンUK
第3章 心の内側
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028 第3章エピローグ 前編

 地上に出れたのはいいが、地上とは即ち安全な場所ではない。

 ひとまずはガーヴァルに遭遇しない場所に避難する必要がある。


 ザスロー一味のねぐらから離れるように移動し……ようやく一息付けそうな場所を見つけると、そこに滑り込み……ひとまず安全だと思って、マナはため込んでいた疑問を解放した。


「ねえシーニャ。さっき言ってたお姉さんって? 蜘蛛の巣とか音が出るやつとか、どうしたの? それに方向音痴のシーニャが一人で助けにこれるなんて不思議なんだけど?」


 普通に考えるとシーニャが一人で地下まで助けに来るのは辻褄が合わない気がする。

 マナはそう思っていた。


「ほっ、方向音痴って! 違うから。私方向音痴じゃないから!」


「そうかなぁ。よく地図とは逆に進もうとするでしょ」


「あ、あれは、その、そう、周囲の様子をですね……」


 言葉の後になるにつれて声が小さくなっていく。


「ですね、って。あはは」


「わ、笑わないでよ! もう、マナのバカ!」


「ごめんごめん。それで、どうしてなの?」


「うん。お姉さんに教えてもらったの。なんか難しい事ばかり言うお姉さんだったけど、優しい目をしてた……」


 シーニャはその時のことを思い浮かべた。


 ――――――――

 ――――――

 ――――

 ――


「はあっ、はあっ!」


 ザスロー一味にマナが捕まって、シーニャを逃がした後の事。

 追って来た一味の下っ端の追跡を振り切って、シーニャはなんとか逃げ切っていた。


 どれくらい走ったのかは分からない。

 ただ全力で、必死で、捕まってはいけないと思って走った。

 いつの間にか男たちはいなくなっており、それに気づいたシーニャはもう足が動かなかった。


「マナ……」


 思い出すのは一緒に旅をしてきた少女の事。

 

 (私を逃がすために分かりやすい嘘をついてた。本当はあの場で逃げるべきじゃなかった。マナの嘘に怒るべきだった。だけど、恐怖で反射的に逃げてしまった……)


「ごめんねマナ……ごめん」


 (逆の立場だったら……マナだったら逃げなかったよね……。どっしりと構えてあの人たちを退治したよね……。私がマナの隣を歩くのなら、あそこで逃げるべきじゃなかった……)


「ううっ……」


 自分の不甲斐なさに涙がこみあげてくるシーニャ。

 何もできない自分に虚しさで押しつぶされそうになる。

 今だって道に迷ってしまい自分がどこにいるのか分からない。

 マナを助けに戻ろうにも、戻り先がわからない。


 そんな思いが内から溢れ出してきて、限界を超えて、涙がポトリと落ち葉の上に落ちる。


 森の中とはいえ地上は地上。常にガーヴァルの脅威が付きまとう。

 涙が落ちた音によってそれを思い出したシーニャ。

 とりあえず身を隠すんだよ、というマナの教えを思い出して、涙ながらに行動を開始しようとした。


 その矢先のことだった。


「あら、こんなところにいると危ないわよ」

「ひゃあっ!」


 誰もいないはずの後ろから声が聞こえたので大きな悲鳴を上げてしまったのだ。


 シーニャが恐る恐る振り向くと――


「しーっ。大きな声を出すと見つかっちゃうわよ」


 変わった格好の女性が口元に人差し指を立てていたのだ。


「だっ、誰ですかっ!?」


 その女性はシーニャの故郷であるイングレッソでは見たことのない格好をしていた。

 黒いタイツはシーニャも履いているので理解できるが、それ以外はまったく解らない。

 まるで下着のように胸から股間までだけを覆う赤い服だけを着ている女性。腕は出ているし、胸から上も露出している。黒い髪飾りも風変りでガーヴァルの触手のように2本の突起が突き出ている。


 シーニャには理解できなかったが、赤いバニーガールのスーツを着ているのだ。

 頭の髪飾りはもちろん黒兎の耳。うさ耳カチューシャだ。


「怪しい者じゃないわよ。近くの村に住んでるの」

「そ、そうなんですね」


 普通に考えたら怪しいのだが、素直なシーニャはそれを信じた。


「ねえ、泣いてちゃ始まらないわよ」

「えっ?」

「あの子を助けに行きたいんでしょ?」

「なんでそれを……」


 さすがにおかしいと思ったシーニャ。


「見てたからね。それで、あなたはあの子を助けに行かないの?」


 見ていたのなら事情を知っているのも頷ける。そうシーニャは思った。


「助けに行きたい……けど、どっちだったかわからなくなって……」


「そうね。あの子が捕まった町の方角はあっちよ」


 赤バニーガールお姉さんが方向を指し示すと、肩まである髪がふんわりと揺れた。


「途中で迷っちゃうといけないから、それに記録しておくわね」


 お姉さんがそう言うと、シーニャが首から掛けている【巫女の鏡】がふわっと浮かび上がり、パカリと開いたかと思うと、お姉さんが教えてくれた方向を光の向きで指示したのだ。


「それと、これを持っていきなさい」


 どこから取り出したのか、丸い球をいくつも取り出した。


「これは投げつけて破裂させると、ねばねばの粘液をまき散らすわ。こっちは大きな音を出したり、こっちは――」


 そう言いながら、手品のように何もない所からポンポンと玉を出してくる。


「カバンもおまけしちゃうわね」


 そう言うと、またもやどこからか取り出したカバンに、明らかに入る容量がおかしいほどの玉を入れていったのだ。


「じゃあ、気を付けてね。っていうのもおかしいけど、頑張ってね」


 カバンを手渡された上に、応援までされた。


 (このお姉さん、すごくいい人!)


 なんて親切なお姉さんなんだ、と思ったシーニャはすでに彼女が怪しい恰好をしている事も気になってはいなかった。


「ありがとうございます!」


 シーニャは深々と頭を下げた。

 勢い余って自分の三つ編みが鞭のようにしなって顔に当たったことはご愛敬。


 マナは捕まって地下の牢屋に入れられているだろうこと。そこに通じる秘密のルートから入って通気口を進んで行けばいいこと。その道は【巫女の鏡】が教えてくれること。

 変わったお姉さんから教えられたそれらを素直に受け取って……シーニャはお姉さんに手を振ってマナの救出へと向かった。


 そして赤バニーお姉さんは、その姿が小さくなるまで見送って――


「期待してるわよ。今までも二人で楽園を目指した巫女はいたけど……女の子同士というのは初めて。ふふっ、あなた達の旅路を楽しみにしてるからね」


 小さくそう呟くと、ふっと消えてしまったのだった。

お読みいただきありがとうございます。

現れた謎のお姉さん。怪しさしかありませんね。

さて、なんでエピローグが前後編なのか。ただ文字数が増えただけです!

次回第3章完結!

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