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楽園に百合の花は咲くのか?  作者: セレンUK
第3章 心の内側
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26/52

026 逃走中

「ガキが逃げたぞーっ!」


 遠くから通気口を通ってそう聞こえてきた。

 

「シーニャ、急いで!」


「う、うんっ!」


 そうは言うものの、狭い中を慣れない体勢で進むため、速度は出ない。

 ちまちま、ちまちまと進む二人。


「どうだっ!?」

「いや、こっちにはいないぜ!」

「あっちもだ!」


 通気口の下。地下に作られた通路では、ザスロー一味の下っ端が総出で逃げたマナを探している。

 慌ただしく展開が進む中、子供一人に必死になる理由もついでに漏れ聞こえてきた。


「まずいぜ。ボスが帰ってくる前になんとかしねえと大目玉じゃすまされねえぜ」

「これだけ探して見つからないんだ。どこかの部屋に隠れてるんじゃないのか?」

「そう言えば、ガキを入れてた牢の天井が開いてたぞ」

「なんでそれを早く言わねえんだ! ガキは通気口だ! おい、通気口の隔壁を閉めろ!」


 遺跡と言っても過言ではないこの場所を根城にしているだけの事はある。

 いくつかの仕組みも解き明かし済みだというわけだ。


 ――ゴゴゴゴゴゴ


「シーニャ! 大丈夫なの?」

「だ、大丈夫じゃないかもぉ」


 語尾がへにゃへにゃとなるシーニャ。

 下っ端たちが隔壁とやらを閉めた影響で、進む先に金属の壁がせり出してきて行き止まりとなってしまう。


 ――ゴゴゴゴゴゴ


「後ろも!?」


 マナの後方でも同じように音がして塞がれた。

 これでは進むことも出来ないし下がることも出来ない。


「探せ! 通気口のどこかにいるはずだ!」


 的確に追い詰められていく。このままじっとしていても見つかって捕まるだけだ。


「シーニャ、ここから出るよ!」


 通気口の床に等間隔ではめられている網。地下中に空気を行き渡らせる窓の役割をしているそこを外して通路に出る作戦。

 マナが網を外すと、人一人が通れるくらいの穴ができる。


「先に行くから」


 穴から下に顔を出して誰もいないことを確認すると、穴に足を入れて、体を下ろし、穴の淵を手で掴んでから勢いを殺して、音をたてないように床に着地する。


 そして左右を確認して誰もいないことを確認すると、声を出さずに手招きでシーニャを呼ぶ。


 合図を見たシーニャは穴の淵に腰かけて、足を下ろし、そうして降りようとするが……マナのように器用に降りる事はできずにモタモタしてしまう。


 いつ下っ端たちがやってくるかわからないので、左右を気にしながらシーニャが降りてくるのを待つマナだったが、あまりにもシーニャが遅いので一瞬だけ顔を上に上げたところ――


「ぶぅっ!」


 天井から落下傘のようにぶら下がっているシーニャのスカートが見えたのだ。

 もちろんスカートの中の黒いタイツを履いた足も、白いパンツのお尻も丸見え。

 あまりの光景に吹き出してしまったのだ。


「おいっ! いたぞ! あっちだ!」

「最初に取り逃がしたガキもいやがるぞ!」


 マナが噴き出してしまったことによって、運悪く下っ端たちに見つかってしまう。


「シーニャ、急いで! ほら、大丈夫だから、そんなに高くないから」


 見つかったとはいえ、相手の姿は遠い。

 速やかにシーニャが降りて来れば逃げられるだろう。


 だけどなかなかうまくは行かない。

 スルリとシーニャが降りてこれるのならば、すでに降りてきているというものだ。


「ううう、マナぁ、受け止めてぇ」


 そんなシーニャは付かない足に及び腰。


「わかった。そのまま落ちていいから」


 そうは言うものの、恋心を自覚したマナには刺激が強い。

 受け止めるためにはしっかり見てタイミングを合わせなければならない。だけど視界をチラチラするお尻によってマナの恥ずかしさが限界を超えてしまい、目を逸らしてしまう。


「うわあっ!」

「きゃあっ!」

 

 目を逸らしてしまった瞬間、マナの上には、受け止めてもらえると思って落ちてきたシーニャのお尻が降ってきて……案の定、着地失敗となってしまった。


「マナぁ、大丈夫って言ったのにぃ」

「いたた、ご、ごめんシーニャ。……わあっ!」


 驚きの声を上げるマナ。

 実は今、落ちてくる時にぶわっと広がったシーニャのスカートの中にいるのだ。


 顔を上げたマナはもう何がなんだかわからなかった。

 やわらかいものがぶつかってきたかと思うと今度は視界が真っ黒に覆われていたのだから。


「何してるんだあいつら?」

「諦めたんだろうよ」


 二人がもたもたしているうちに下っ端たちが近づいてきてしまう。


「シーニャ、逃げるよ!」

「待って、マナ。こんな時はこれをを使って――」

「?」


 走って逃げようとしているのに、シーニャはカバンから何か球状のものを取り出した。


「えーいっ!」


 そしてかけ声一番、それを下っ端たちの方へと投げる。

 へろへろと飛んで行ったそれは、男たちの前で破裂し――


「うわっ!」

「な、なんだ!」

「絡まって動けねえ!」


 まるで蜘蛛の糸のように広がったモノが下っ端たちに絡みついて、動きを封じ込めた。


「な、なにあれ?」

「お姉さんにもらったの」

「お姉さん?」

「うん。後で話すね。行こっ!」


 タタタと駆け出すシーニャ。離れるわけには行かずその後を追うマナ。


 右へ左へ。

 道を知っているのかどうかわからないが、スルスルと進むシーニャの後をついていくマナ。


 ときどき分かれ道から現れる下っ端は、先ほどの蜘蛛糸玉か目が眩むほどの光を出す玉やすごい音をだす玉を使って、うまくやり過ごしていく。


 そうして、何回かの道を曲がり……階段を上がって……ようやく地上の光が見えたかと思うと……そこには屈強な男が待ち受けていた。


 その男は何故か上半身には服を着ていない。

 その代わりに、バツ印のようになっているベルトのようなものを胸に付けていて、左肩には肩パッドを付けている。見える胸筋は異様に発達しており、類まれなる力の持ち主であることがわかる。


「おい、なんだぁ? ガキが2匹逃げてるじゃねえか」

「留守番の奴らがヘマしたんでしょうぜ」

「まったくよぉ、てめえら、なっちゃいねえよ。捕まえるのにも苦労したらしいじゃねえか」

「へいっ、下っ端に言い聞かせておきやす」


 屈強な男に付き従う男が2名。

 こちらは髪型がモヒカンなだけで真ん中の男ほど屈強そうではない。服も着ているし。

 となると、やはり一番問題となるのは真ん中の肩パッドの男。


「俺が手本を見せてやる。このザスローが手ずからなぁ」


 律儀なのかそうではないのか。

 図らずも名乗った男は、ズイッと前に進み出た。

お読みいただきありがとうございます。

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