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楽園に百合の花は咲くのか?  作者: セレンUK
第3章 心の内側
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024 大人の言う好き

「もしかして……アタシ、シーニャの事がすごく好きなの?」


 普通に好きであることは間違いない。

 ドキドキした心臓の記憶をたどって、先日もそう結論付けたところだ。

 だけどそれは友達としての好きだとマナは思っていた。


 マナに友達がいたことはない。だから普通の友達がどんな距離感なのかは知らない。

 それでも、普通の好きと違う【大人が言う好き】があるという事は少しだけ知っている。


 (大人が言う好きをすれば子供が生まれる。父と母も大人が言う好きをやって、アタシが生まれてきている)


 (今見たイメージはおそらく大人が言う好きのことだ)

 (大人たちが秘密にしている好き)


 (大人たちが、父と母が、町のおじいちゃんとおばあちゃんが、ずっと一緒にいるのは大人の好きの結果だ)


 (子供には早いと言われたこともあった)

 (その時にはわからなかった……)


「そっか、これが大人の好きなんだ……」


 気づいてしまったらもう忘れることなんてできない。

 シーニャへの想いは溢れ出す一方だ。

 目を瞑らなくてもそこにシーニャがいる気がして、シーニャの声が聞こえる気がして。


「マナ、マナ」


 (ほら、声が聞こえる)

 (大好きなシーニャの)


「マナ、マナ! こっち、上だよ」


 大好きなシーニャが呼びかけてくれる。

 あの優しくふんわりした声で呼びかけてくれる。


「まるで本物だ、ああ、シーニャ…………」


 声に心が満たされつつあったマナは、ふと上を見上げた。


「あ……」


 天井に開いた四角の穴。

 そこには妄想の中でいろんなことをした相手の少女、シーニャの顔があった。


「シーニャ……」


 マナは目を擦ってみる。


 さっき目が覚めたところだ。まだ夢を見ているかもしれないし、顔を洗ってないから目にゴミが入って都合よく願望を映し出しているのかもしれない。


「あれ? 消えないな。とうとうおかしくなっちゃったのか?」


 もう一度目を擦って、それから目を瞑って、おおきく深呼吸。


「すーはーすーはー」


 そして目を開く。

 マナの目に映るのは相変わらずの金髪の少女。

 大人の好きだと認めてしまった大好きな女の子。


 ブンブンと頭を強く振る。


「マナ? 大丈夫?」


 (幻影にも心配されるだなんて……重症だ)

 

「大丈夫だから、大丈夫だから、消えろー消えろー」


 もう訳が分からなくなって念じ始めた様子。


「えっ!? 消えろってどういうこと!?」


 (もうだめだ……丁寧に返事までしてくれる……)


 (そうだ! 別に消さなくてもいいのでは?)


 せっかく都合よく幻影が見えるのだ。寂しさを紛らわせる相手になってもらえばいいのでは? とマナは思った。


 それくらいには錯乱してた。


「あ、やっぱり消えないで。そのまま、そのまま」


 手をワタワタと振る奇怪な仕草をするマナ。


「えええ、マナがおかしくなっちゃった! 早く治療しなきゃ!」


 いつも冷静で落ち着いているマナがこんなに取り乱すなんて。きっと捕まっているうちに酷い目にあわされたに違いない。早く助けないと。


 そう思ったシーニャ(本物)はスルスルと天井の穴からロープを垂らした。


「マナ! 登ってきて! ここから逃げるの」


「あれ? ロープ?」


 マナは降りてきたロープを反射的にさわさわと触る。

 手に返ってくるのはロープ表面のザラザラとした触感。


「触れる……本物? ほん、もの? え、シーニャ?」


 ワナワナと震えながらマナはそう呟く。


「本物だよ? なんだと思ったの?」


「本物!? シーニャ!? 嘘!?」


 マナの混乱に拍車がかかった。


「本物。ほら、急いで登ってきて。見つかっちゃう」


「なんで!? 楽園にいったんでしょ!?」


「マナを置いてなんて行かないよ! ほら、早く!!」


 マナの頭の中はこんがらがっていた。

 とはいえ、普段温厚なシーニャがこれだけ強く言うので、思考と行動を切り離して、ロープを掴む。


 混乱していても手慣れたものだ。

 運動神経の良いマナはスルスルとロープを掴んで登っていき、そして天井の板に手をかけて登り切った。


「マナ……よかった。心配したの」


 天井裏に登り切ったマナはシーニャと対面する。


 薄暗い中、シーニャが目に涙を浮かべる。

 ぼやりと壁が光る中、涙が光を吸収したかのようにキラリと光る。


「シーニャ……。本当にシーニャなの? アタシが作り出した幻じゃないの?」


「違うよ。本当の私だよ。……ほら」


 そう言うとシーニャは着けていた薄手の手袋を外し、その手を伸ばしてマナの手を取った。

 

「冷たい……本当にシーニャなんだ」


「そうだよ」


 体温は伝わってこない。逆に奪われる体温がシーニャのひんやりとした手の感覚を思い出させてくれる。


 (本当にシーニャなんだ)


 マナはシーニャ幻影説を捨てて目の前のシーニャを受け入れる。

 目を瞑ってじっと、ぎゅっと、目の前のシーニャを受け入れる。


 無言でそうし続けていると気持ちが満たされて行く。

 荒れた大地に水が染みこんでいくように、ささくれた心に温かいものが満ちていく。


 それと同時に、胸の奥底からそれとは違った別の気持ちが沸き上がってきた。

お読みいただきありがとうございます。

珍しく混乱していたマナ。

しょうがないですよね、初めて大人の好きを知ったのですから。


さてさて、マナに沸き上がってきた気持ちは愛か憎しみか。

次回をお楽しみに!

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