021 無い道の先
「シーニャ! こっち!」
「はあっ、はあっ!」
地上を駆ける二人の女の子。
一人は先を行く赤髪短髪の少女。もう一人はそれを必死で追う一本三つ編みの金髪少女。
そしてその二人を上空から追うのは、人類の天敵ガーヴァル。
走る二人の背中にはカバンは無い。逃げ初めに捨ててきたからだ。
命あっての物種。大きな荷物を抱えていることでガーヴァルに追いつかれて死んでしまっては意味が無い。
「シーニャっ!」
先頭を行く娘、マナは積みあがっている岩々を器用に這い上がっていく。
そして辛うじて入れそうな隙間の前で、後ろを必死に着いてきているシーニャに向けて手を伸ばした。
「マナっ!」
マナのいる場所はシーニャがいる場所より一段上で、シーニャの身長では手を伸ばしても届かない。そのため、シーニャは飛び跳ねて手を伸ばす。
お互いの手は固く結ばれ、マナは力の限りを込めてその手を引っ張り、シーニャの体を自分のいる上段の岩場へと引き上げる。
そして二人は岩の隙間へと体を滑り込ませてガーヴァルの追跡をかわす。
「ふぅ……。なんとかなった……かな……」
「はあっ、はあっ」
間一髪だった。
現にガーヴァルは今、岩の隙間の前に来ている。あと一歩遅ければ、視線による爆破か触手による打殺かで命を落としていただろう。
ガーヴァルが手出しできない事を確認して息を整える二人。
しばらくするとガーヴァルは二人を殺すのを諦めてどこかに行くはずだ。
そしたらその後に逃げて来た道を気を付けながら戻って荷物を回収すればいい。
だが、今日のガーヴァルは入口からまったく動く気配はなかった。
隙間の前に黒い巨体を浮遊させながら、じっと動かずその場に留まっているのだ。
触手で暴れ狂ったように岩場を叩いてくるわけでもなく、巨大な目で隙間を覗き込んでくるわけでもなく、静かに音もたてずに、じっと動かない。
「どうしようマナ……」
いつもと違う様子に困惑するシーニャ。
「うーん」
荷物は確かに大切だ。しかし命を賭ける程のものではない。
幸いマナもシーニャも食べ物には困っていない。服だって着ている。着替えの服が無くなるのはこまるが、ついこの間まで一張羅だったのだ。荷物が無くてもやっていけるのが現状だ。
「荷物の場所までちょっと遠いよね」
逃げてきた道を確認しようとして、シーニャが首から下げた【巫女の鏡】を開く。
青白い光が地図を作り出し、二人が進んできた道を示し上げる。
地図上に表示されている道は短いが、ガーヴァルに見つかってから結構な距離を走って逃げた。
シーニャは【巫女の鏡】の突起を押して地図を拡大していく。
グネグネと折曲がった線の先が急に直線で表示されている。直線になった場所でガーヴァルに見つかって、最短距離で逃げたことによる結果だ。
ガーヴァルがいなければ歩いて戻ろうかとも思えるが、戻るだけで大きなロスが発生するのは間違いない。
「逆方向から先に進むかどうか……」
以前に襲われた洞窟のように行き止まりになっているわけではない。
ガーヴァルが塞いでいる入口とは逆方向から外に抜け出ることは可能だ。
そう口にしたものの、マナの言葉はそこで止まった。
そちらの方向には地図上に示されている道がまったく無いからだ。
【巫女の鏡】の指し示す道はこれまで歴代の巫女が通った道でもある。
つまり、ガーヴァルの塞いでいる入口とは逆方向から進むとなると、どの巫女も通ったことの無い道を進むことになる。
過去の巫女が通ったことがあれば、大なり小なり危険性の判別はできる。続いていれば進むことが出来たのだろうし、途切れていればそこは危険な場所である判断になる。
だが、何も表示が無ければ安全か危険かの判断もできない。
命の軽い地上で何の情報も無しにうろつくのは無謀だ。
「よしっ、先に進もうよマナ」
「えっ? でも危険かもしれないよ。もうちょっと待ってみても」
マナでもためらう決定をシーニャが口にした。
もちろん素直に同意するわけには行かない案件だ。
「行ってみないとわからないよ。それに、あのガーヴァルがいついなくなるのかもわからないし。急に暴れ出したらここは危険だし、そこにガーヴァルがいるなら近くに他のガーヴァルはいないだろうし、ねっ」
「うーん、気乗りしないけど行くしかないか……」
いつになく推してくるシーニャ。
少しでも早く楽園にたどり着きたいというシーニャの強い想いを知っているマナ。
一人だった時は【巫女の鏡】なんか無かったし、ここまでの道中でも少し道から逸れたこともあったし、などと思いながら、シーニャの希望を叶える方へと傾く。
「二人なら大丈夫だよ。しゅっぱーつ!」
そうして二人は入口とは逆の方向へと進み始める。
この後、何が待ち受けているのかもしらずに。
お読みいただきありがとうございます。
前回、何かが起こる、的な事を書きましたがまだプロローグの続きだった!
実は文字数の関係でここで切った次第でありまして、確実に次回は何かが起こります。
お詫び申し上げますので、次回をお楽しみに!




