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私は最悪の悪役令嬢の護衛を任された  作者: アラベ幻灯


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7/10

悪役令嬢は何かを思い出す

これがこの物語の最新エピソードです。皆さんに楽しんでいただけたら嬉しいです。

ラミム・マラムへと繋がる門は、静かに開いた。

空間が歪み、光が裂ける。

ガリーは一瞬だけ躊躇い――それから、ヴィクトリアの手を引いて踏み込んだ。

次の瞬間。

熱が、肌を刺した。

乾いた風。

焼けた土の匂い。

そこは、砂と生命が共存する地。

ラミム・マラム。

見渡す限り、低い砂丘と赤茶けた大地が広がっている。

だが、その中に点在する巨大な影があった。

バオバブの木。

太く膨らんだ幹は、まるで水を蓄える塔のようで、

枝は空へと不規則に広がっている。

その枝の上では。

子供たちが笑っていた。

「ほら、もっと上まで行けるよ!」

「落ちるなよー!」

裸足で幹を蹴り、手足を使って登っていく。

まるでそれが、遊びであるかのように。

「……」

ヴィクトリアは、その光景を見上げていた。

ガリーは周囲を確認する。

――問題はない。

変装は維持されている。

誰も、彼女の正体には気付いていない。

その時だった。

「……ガリーか?」

低く、落ち着いた声。

振り返ると、一人の男が立っていた。

年老いている。

だが、その目には鋭さが残っていた。

「アリ・サクラ……」

ガリーは小さく呟いた。

かつて、何度か顔を合わせたことのある人物。

この地を治める賢者評議会の一員。

「久しいな」

アリは静かに近づき、ガリーの顔を見た。

「その様子だと……色々あったようだ」

「……ああ」

短く答える。

アリはそれ以上深くは問わなかった。

代わりに、空を見上げる。

「帝国が崩れた」

その言葉は、乾いた風に乗って消えた。

「長年続いた支配が、終わった」

「だがな」

アリの目が、わずかに細まる。

「それで全てが良くなるほど、世界は単純ではない」

ガリーは黙って聞いていた。

「今、各地で噂が流れている」

「統一が失われた今こそ、動くべきだ、と」

「このラミム・マラムも例外ではない」

砂の上に影が落ちる。

バオバブの木の影。

「近いうちに、戦になるかもしれん」

「……」

沈黙。

その時だった。

「ガリー!」

明るい声。

振り向くと、ヴィクトリアが手を振っていた。

すでに木の幹に手をかけている。

「見てて!」

そのまま、するすると登り始めた。

子供たちが驚きの声を上げる。

「すごい!」

「早い!」

ヴィクトリアは迷いなく登り続け、

やがて――頂へと辿り着いた。

枝の上に立ち、下を見下ろす。

その顔には、無邪気な笑みが浮かんでいた。

「ほら!」

その下で、一人の少年が必死に登っていた。

フレム。

いや――フレムではない。

「フレム?」と呼びかける者もいたが、

少年は首を振った。

「違うよ、フレムじゃない。フレムはあっちだ!」

笑い声が起こる。

少年――フレムではない少年は、息を切らしながら登り続けた。

「……っ」

手が滑る。

だが、必死にしがみつく。

「いけるよ!」

ヴィクトリアが、上から声をかけた。

「もう少し!」

少年は歯を食いしばり――

ついに、枝へと手をかけた。

体を引き上げる。

そして。

頂へと辿り着いた。

「……できた……!」

肩で息をしながら、笑う。

ヴィクトリアは、その顔を見て。

静かに言った。

「ほらね」

少年が顔を上げる。

「できたでしょ?」

「うん……!」

「今、嬉しい?」

少年は迷わず頷いた。

「うん!」

その瞬間。

ヴィクトリアの表情が、わずかに変わった。

ほんの一瞬だけ。

何かを“思い出しかける”ように。

「……そう」

小さく呟く。

「それはね」

そして、言った。

「あなたが、上まで登る力を持っていたから」

少年は、きょとんとした顔をした。

「……え?」

「力があるから、できたの」

ヴィクトリアの声は、穏やかだった。

だが。

「できるから、嬉しいの」

その言葉は、どこか――冷たかった。

「人はね」

「力があるときにだけ、幸せになれるの」

沈黙。

風が吹いた。

その時だった。

「……っ」

ヴィクトリアの視界が揺れた。

足元が崩れる。

「え……?」

次の瞬間。

体が、空へと投げ出された。

「――!」

落下。

だが、その前に。

ガリーが動いていた。

地面を蹴る。

一瞬で距離を詰める。

腕を伸ばし――

ヴィクトリアの体を、受け止めた。

砂が舞い上がる。

衝撃は、すべてガリーが受けた。

「……大丈夫か」

ヴィクトリアは、答えない。

意識を失っていた。

「……」

ガリーは、彼女の顔を見た。

――今の言葉。

あれは。

「……」

何も言わず、彼は彼女を抱き上げた。

そのまま、村へと向かう。

数日後。

ヴィクトリアは、簡素な家の中で横になっていた。

容態は安定している。

命に別状はない。

だが。

ガリーは、窓の外を見ていた。

「……さ。。。も一つの戦争はあと少し。。。始まるかな。。。」

小さく呟く。

背後から、アリの声。

「そう遠くはないだろうな」

沈黙。

やがて、ガリーは振り返った。

「……評議会に伝えてくれ」

「武僧団に話を通す」

アリは目を細める。

「本当に?」

「……ああ」

短い答え。

アリは、ゆっくりと頷いた。

「なら、期待しておこう」

その数日後。

ヴィクトリアは回復し、立ち上がれるまでになった。

「もう、大丈夫?」

彼女は、何も覚えていないように笑った。

「……ああ」

ガリーは短く答えた。

そして。

二人は、再び門の前に立つ。

ラミム・マラムの空は、相変わらず乾いていた。

バオバブの木の上では、子供たちがまた遊んでいる。

笑い声が、遠くに響く。

ガリーは一度だけ、その光景を見た。

それから、視線を逸らす。

「行くぞ」

ヴィクトリアは頷いた。

二人は門をくぐる。

空間が歪み、景色が崩れる。

その直前。

ガリーの脳裏に、あの言葉が蘇った。

――力があるときにだけ、幸せになれる。

「……」

門が閉じる。

そして、二人の姿は消えた。

このエピソードを楽しんでいただけたなら幸いです。次のエピソードも近いうちにアップロードします。

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