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私は最悪の悪役令嬢の護衛を任された  作者: アラベ幻灯


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6/10

勇者は消し去りたい記憶を持っている

これがこの物語の最新エピソードです。皆さんに楽しんでいただけたら嬉しいです。

タウェイに辿り着いた時、空気は明らかに変わっていた。

風は冷たく、薄く、乾いている。

大地は切り立ち、山々は幾重にも重なり、

その頂は雲の中へと消えていた。

ここは――タウェイ。

レディアの中でも特に高地に位置する領域。

赤みを帯びた肌を持つ人々が暮らし、

細く鋭い目が、外来者を静かに見つめる土地。

村には、焼かれた陶器が並んでいた。

土の色をそのまま残した器。

複雑な紋様が刻まれた壺。

軒先には、色鮮やかな織物が揺れている。

風を受けて、静かに波打つ布。

それらはすべて、この土地の民が作り上げたものだった。

そして、空を見上げれば。

巨大な影が横切る。

コンドル。

翼を広げれば、人の家ほどもある大きさ。

ゆっくりと円を描きながら、山の上空を滑空している。

この地において、彼らはただの獣ではない。

神聖なる存在。

人と共に在るもの。

「……すごい」

ヴィクトリアが、小さく呟いた。

その視線は、空へと向けられている。

ガリーは何も言わず、周囲を観察していた。

――問題はない。

変装も維持されている。

誰も、彼女の正体に気付いてはいない。

そのはずだった。

「おおおおっ!!」

突如、歓声が響いた。

広場の方からだ。

人々が集まり、円を作っている。

中央では、二人の男が組み合っていた。

土埃が舞う。

腕が絡む。

体がぶつかる。

フォークスタイルの格闘。

タウェイでは、定期的に行われる競技の一つ。

周囲では、金銭を賭ける者たちの声が飛び交っていた。

「そっちだ!押せ!」

「いや、返せる!まだいける!」

熱狂。

歓声。

興奮。

ガリーは、その光景を見た。

――その瞬間。

手が、震えた。

「……っ」

無意識に、拳を握り締める。

視界の奥で、何かが揺れる。

音。

叫び。

砂。

だが。

「……」

ガリーは強く目を閉じた。

呼吸を整える。

何も考えるな。

何も。

やがて、ゆっくりと目を開けた。

そこには、ただの広場があるだけだった。

「……」

彼は何も言わず、視線を逸らした。

その時だった。

「すみませんねえ……」

か細い声。

振り返ると、そこには老女がいた。

大きな袋をいくつも抱え、よろよろと歩いている。

そして、その隣に。

「大丈夫?」

ヴィクトリアがいた。

すでに、袋の一つを持っている。

老女は驚いた顔をした後、

小さく笑った。

「ありがとうねえ……」

ヴィクトリアは、無邪気に頷く。

「うん」

そのまま、二人は歩き出した。

ガリーは、一瞬だけ動きを止めた。

――何をしている。

周囲の目。

接触。

会話。

すべてが、危険になり得る。

彼はすぐに歩き出した。

「……ヴィクトリア」

低く呼ぶ。

彼女は振り返った。

「?」

その目は、何も知らない。

ガリーは老女を一瞥し、

そして短く言った。

「行くぞ」

ヴィクトリアは少しだけ迷った後、

老女に袋を渡した。

「ここまででいい?」

「ええ、十分よ。ありがとう」

老女は何度も頭を下げた。

ヴィクトリアも、小さく頭を下げる。

そして、ガリーの元へ戻った。

二人は、そのまま村を離れた。

背後では、まだ歓声が続いている。

「おおおおっ!!」

風が、それを遠くへ運んでいく。

ガリーは、一度だけ振り返った。

広場。

人々。

組み合う影。

その光景を、ほんの一瞬だけ見つめ――

すぐに視線を切った。

「……」

何も言わない。

ただ、歩く。

ヴィクトリアも、何も言わずにその後をついていく。

山道は細く、険しい。

空では、コンドルが静かに旋回していた。

その影が、二人の上を横切る。

長く、ゆっくりと。

まるで――何かを見定めるかのように。

このエピソードを楽しんでいただけたなら幸いです。次のエピソードも近いうちにアップロードします。

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