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私は最悪の悪役令嬢の護衛を任された  作者: アラベ幻灯


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5/10

勇者は魔王の女王の帰還を待っている

これはこの物語の最新エピソードです。皆さんに楽しんでいただけたら嬉しいです。

ガディガルの風は、今日も止まることなく吹いていた。


草原の端。


ガリーとヴィクトリアは、小さな岩陰に腰を下ろしていた。


ヴィクトリアは、手の中の果実をじっと見つめている。


見慣れない形。


見慣れない色。


「……どうやるの?」


小さく呟く。


ガリーは短く答えた。


「皮を剥け」


彼女は頷き、小さなナイフを取り出す。


ぎこちない手つきで、果実の皮に刃を当てる。


するり、と。


薄く皮が剥がれていく。


その様子を横目に、ガリーは視線を遠くへと向けた。


思考は、別の場所にあった。


――なぜだ。


王城で見た光景。


倒れた近衛兵。


血に濡れた床。


そして――生かされたヴィクトリア。


あれは、明らかに不自然だった。


もし敵が侵入し、殲滅したのなら。


なぜ、最も価値のある標的を殺さなかった。


あるいは。


――記憶を奪ったのか。


魔術による干渉。


精神への侵入。


不可能ではない。


だが。


「……なぜ、そんなことをする」


殺せば終わる話だ。


それを、わざわざ生かし、記憶を消す。


そこに、何の意味がある。


風が強く吹き抜ける。


ヴィクトリアは、ようやく皮を剥き終えた果実を見て、


少しだけ嬉しそうに笑った。


「できた……」


その声は、あまりにも無垢だった。


ガリーは目を閉じる。


――考えても、答えは出ない。


今は、進むしかない。


彼は立ち上がり、片手を前にかざした。


魔力が集まる。


空間が歪み、裂ける。


「……タウェイ領域へ移動する」


ポケット・ディメンションへの門。


通常ならば、指定した座標へと繋がるはずの通路。


ヴィクトリアは、果実を抱えたまま立ち上がり、


ガリーの隣へと来る。


「……行くの?」


「ああ」


短い返答。


二人は、その歪みに足を踏み入れた。


――その瞬間。


違和感。


「……!」


空気が違う。


着地と同時に、ガリーは剣に手をかけた。


視界に広がったのは、タウェイではない。


荒れた大地。


崩れた構造物。


そして――


「ようこそ、旅人さんよ」


低い声。


複数の影が、周囲を取り囲んでいた。


熊の頭を模した兜。


粗雑な武装。


だが、統率は取れている。


ガリーの目が細まる。


「……偽の座標か」


門の接続先を偽装した罠。


タウェイへ向かう者を、この異なるポケット・ディメンションへ誘導する。


「ご名答」


「通行料、払ってもらおうか」


男たちは笑った。


その笑いに、聞き覚えがあった。


戦場の匂い。


「……傭兵か」


ガリーは低く呟く。


かつて、クインツス帝国に対抗するために集められた者たち。


戦いが終わった後、行き場を失った者たち。


「仕事は終わったんでな」


「今はこうして、別の稼ぎをしてるってわけだ」


男の一人が肩をすくめる。


囲みは、徐々に狭まっていく。


ガリーは剣を抜いた。


――ここで終わるか。


あるいは。


背後にいる女へと、意識が向く。


もし、この状況で。


もし、この危機で。


彼女が――思い出すなら。


――その時こそ。


だが同時に。


別の思考が、頭をよぎる。


――このまま、こいつらが殺せば。


自分の手を汚さずに済む。


掟も、守られる。


だが。


視界の端に映る。


ヴィクトリア。


小さな果実を抱えたまま、立ち尽くしている。


状況を理解できていない。


ただ、不安そうに周囲を見ている。


その姿に。


ガリーは、わずかに歯を食いしばった。


「……来るなら来い」


戦闘が始まった。


刃がぶつかる。


火花が散る。


数は多い。


だが、練度はバラバラだ。


ガリーの剣は、無駄がなかった。


一歩。


一振り。


確実に、命を奪っていく。


その時。


「こっちはいただくぜ!」


一人の傭兵が、ヴィクトリアへと飛び込んだ。


腕を掴み、引き寄せる。


「……っ!」


ヴィクトリアの瞳が、大きく見開かれる。


次の瞬間。


彼女の手が動いた。


握っていた小さなナイフ。


それが――


迷いなく、男の胸へと突き立てられた。


「……え?」


男の口から、空気が漏れる。


血が溢れる。


ゆっくりと、崩れ落ちた。


静寂。


その一瞬の隙を、ガリーは逃さなかった。


残りの傭兵を、次々と斬り伏せる。


数分後。


立っているのは、ガリーだけだった。


周囲には、死体が転がる。


血の匂いが、空気を満たしていた。


「……」


ガリーは、ゆっくりと振り返る。


ヴィクトリア。


彼女は、立っていた。


ナイフを持ったまま。


手が震えている。


「……あ……」


呼吸が荒い。


胸が大きく上下している。


その瞳は――


見開かれていた。


ガリーは、一歩近づく。


――来るか。


記憶。


この光景。


血。


殺し。


すべてが引き金になる可能性がある。


だが。


「……や……」


ヴィクトリアは、ナイフを落とした。


後ずさる。


自分の手を見る。


血が付いている。


「やだ……やだ……」


必死に擦る。


拭う。


だが、落ちない。


「取れない……」


声が震える。


目に涙が溜まる。


「やだ……!」


ついに、泣き出した。


子供のように。


怯えきった声で。


ガリーは、その光景を見つめたまま、動かなかった。


――違う。


これは。


彼が知る“皇帝”ではない。


だが。


確かに、この手で。


人を殺した。


その事実だけが、そこに残っていた。


風が、静かに吹き抜ける。


血の匂いを、運びながら。

このエピソードを楽しんでいただけたなら幸いです。次のエピソードもすぐにアップロードします。

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