第5話
朝食後、森の拠点。
街へ出発する話や準備をする前に、状況を整理しておこう。
まずは食材。
食パンはもう無くなったし、米もほとんど底をついた。
バターやマヨネーズなどの冷蔵品は保存が利かないので消費済み。
野菜についても転移前に多く買い込んだわけでもないので、もう『神眼』頼りの採集生活だ。
肉や魚はラフィーネのおかげで安定して手に入るが、今度は設備や調味料の関係で幅が出しにくい。
塩コショウやBBQスパイスなども、すぐは無くならないが無限と言うわけでもないのだ。
次に設備。
拠点にあるテントやタープ、テーブルにキャンプチェア、その他諸々。
純粋なサバイバルなら上等過ぎる環境だが、せっかく異世界に来てギリギリの生活をしたいわけではない。
ラフィーネのためは勿論、リクとしても料理の幅を広げたいのだ。
他にも釣りをするとか山に登るとか、そのための道具をクラフトしてみるとか、やりたいことはいくらでもあった。
「ってわけで、俺たちは街に行かなきゃならないんだ」
「うーん……」
不服。と言う感じではなさそうだが、乗り気ではない反応が滲み出ている。
考えてみると彼女は、西にある街を認知しながら近付いていなかったのだ。
「行きたくない理由とかあるの?」
「別にない。めんどうなことは、いやだから」
無理もないか。
ラフィーネは見た目こそ儚い雰囲気の美少女だが、実際は危険度SSSの『アラクネ=ロード』なのである。
街の人間が正体を見破る術を持つのか分からないが、様々な可能性を考慮するべきだろう。
加えてリクはこの世界の歴史を全く知らなかった。
それこそ人と魔族の戦争中だったりしたら、火種どころか火薬庫ごと街に持ち込むようなものだ。
「改めてだけどさ、ラフィーネは人間を襲うとかはないんでしょ?」
「うん。ダメって言われてるし、おいしそうじゃない」
以前も気になったが、これは誰かから禁じられているような口振りだ。
「ダメって誰に?」
「魔王」
やっぱいるんだ魔王。
リクも薄っすら想定はしていた。
魔族もいて、魔物もいて、そりゃ魔王だっていても不思議ではないだろう。
ラフィーネを見る限りでは、彼女が魔王の配下で大幹部だとか、そう言った雰囲気には見えないが。
「魔王ってどんな奴?」
「よく分からない。魔王は人を食べたりした魔族をころしに来る」
ちゃんとしてるじゃん魔王!
リクの中で魔王のイメージがかなり変わった。
街に行く話をした時に、ラフィーネが見せた反応の理由も大体理解できる。
面倒だから乗り気ではないが、決して街に入れないとか行けば暴れる。と言ったニュアンスではなかった。
どうもこの話を聞く限りでは、人間と魔族は敵対していないらしい。
となれば最大の懸念は消えたので、あとはこの魔族のお嬢様をその気にさせるだけだろう。
ここまで一緒に食卓を囲んできたリクにとって、それは容易いことだ。
「もっといろんな料理、食べたい?」
こう言えば彼女が断らないことを、今のリクなら良く分かっている。
ラフィーネは誘導されている気配を感じて目がジトっとなるが、それでも頷く以外の選択肢は無い。
今朝の朝食など昨晩残ったラビット肉は良いとして、かさ増しの野草たっぷりな健康食だった。
余りもの料理だって決して不味くはないのだが、やはりずっとこの生活を続けるには無理がある。
お互いにとって、ここを離れて街に行く必要はあるのだ。
渋々。と言った表情はしながらもラフィーネはこくりと頷いて返す。
「たべ、たい」
「うん、じゃあ街に行こうな!」
リクは改めてニッコリと、その決定をラフィーネに伝えた。
そうなれば出発の準備をしなくてはならない!
リクは拠点に広げていた設備を全て、畳んだりコンパクトにまとめていく。
テントや調理器具などは持って行くが、タープなどの嵩張るものは置いていくしかないだろう。
ハンモックをかけていた木の根元に、置いていく荷物はまとめてからシートを被せる。
不法投棄するつもりは無いので、街での生活が安定したら回収しに来よう。
続いてホーンラビットの毛皮とツノを見る。
『神眼』情報では加工品としての用途があったので、街に行けばお金に換えられるかも知れない。
奇跡的にご都合システムじゃない限り、日本円が使えない前提で動くべきだ。
それともう1つ。
「ラフィーネ、これをこうグルグルっと巻き付けたり出来ない?」
リクは手頃な木の棒とラビットのツノを持って、彼女に聞いてみる。
「できるよ、かんたん」
彼女は得意げに指をくるくると回して、棒とツノを糸で強固に巻き付けた。
即席ツノ槍の完成だ!
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『ホーンラビットのツノ槍』
特徴:ツノは鋭いが、全体の耐久性は低い。
用途:戦闘用。
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ラフィーネがいるのだから、十中八九必要のない代物だろう。
でもこういうのは作ること自体が楽しいし、持つと何かこう、テンションが上がる!
幼い頃に裏山で拾った木の棒に、アニメで見た武器の名前を付けてたあの頃を思い出した。
無論この見た目でも武器には違いないから、取り扱いにはちゃんと気を付けよう。
転んで先端がこちらに向けば、怪我をする可能性は十分あり得る鋭さだ。
リクは棒の部分をしっかり握って、気を引き締めた。
「よし! じゃあ出発するか」
「はーい」
リクは拠点だった場所をもう一度だけ見渡す。
そんなに長くいたわけではないけど、いずれ戻るならこうだろう。
——行って来ます!
リクとラフィーネが出会った森での生活は一区切りです!
次回からは街に訪れた2人と新たな展開が始まります。
1章はもうしばらく続きますので、引き続きお楽しみください。
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