第6話
街にほど近い茂みの中。
リクは様子を伺う。
軽装だが鎧をまとった門番が2人。談笑しながら周囲を見渡している。
片方はあくびまでしているので、特に厳戒態勢と言うわけではなさそうだ。
リクが転移してきたあの森から、西に歩いて丸1日。
半端な魔物を寄せ付けないラフィーネが隣にいるためか、冒険とは程遠い平和な旅だった。
その危険度SSS魔族なラフィーネは、暇そうな表情でリクのすぐ横に鎮座している。
いきなり門番と揉め事になるのも嫌なので、念のため気配を遮断してもらっていたのだ。
しばらく観察した限りでは、片手に収まる人数が出入りしていたくらいで、厳重なチェックをされている様子もなかった。
それこそ入管で出入国する時みたいなシステムではないらしい。
あとはじっとしていても状況は動かないので、行動するしかないだろう。
リクはラフィーネに向き直って、ここに来るまでの道中で話していたことを確認する。
「ラフィーネ、もし名前を聞かれた時のやつ覚えてる?」
「うん。えっと……ラフィーネ・スト、すとり」
「ストリング、な」
ストリング(糸)——安直なのは仕方ない。
むしろ苗字が無いと不自然に思われる懸念に気が付いただけ、リクの中では冴えてる方だった。
神眼で見た名前も立派なものだが、種族名とかも含まれるし、そのまま名乗らせるのは危ない気がした。
とにかくまずはリクが門番と話をして、ラフィーネは極力黙るかそれに合わせる手筈だ。
最悪の事態になれば、みんなスマキになってもらって最初の森まで逃げればいい。
そうなれば今後は街に近付けないだろうが、血を見るよりはずっと良いだろう。
ここまで想定しておけば、あとはもう当たってみなければ分からない。
リクは立ち上がり、ラフィーネの手を引いて茂みを出る。
そう言えば、ラフィーネとこんなに触れ合うのは初めてだった。
その白い指は本当に細くて、強く握れば折れるのではないかと心配になるほど柔らかい。
門扉の方へと近づいていく。
軽く微笑んで、なるべく不審に思われないように。自然に、自然に。
「ん? ちょっと待ちなそこのお二人さん」
「あ、はい。俺達、ですよね?」
まぁさすがに素通りできるとは思っていなかった。
反射的にだが、リクは『神眼』でその門番のことを注視してしまう。
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『エイダン・マートン』
ヒューマン属 ヒューマン種
STR:B
AGI:C
DEX:C
INT:D
HP:B
MP:E
スキル:ラピッドランス
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なるほど。鍛えられてそうな体格を見れば納得のステータスだ。
それと気になるのは最下段のスキル。名前からして槍のスキルだろうか。
実際このエイダンは、金属製の立派な槍を携えている。
よく考えると、自己紹介もしていないのに相手の個人情報を知れるのは少し気が引けた。
今後は警戒している場合を除いて、あまり相手を『神眼』で見る癖はつけないようにするべきかも知れない。
リクが表情には出さない程度に気を揉んでいると、エイダンは話を続けた。
「見慣れねえ顔と服装だなぁ。ローヴェンは初めてか?」
「あぁ、そうなんです。着いたばかりでここのルールをよく分かってなくて」
なるほど、この街はローヴェンと言うらしい。
言い訳するような口調で言ってしまったが、実際リクはこの街どころか世界のルールもよく分かっていない。
幸いにもエイダンともう1人の門番は気さくな雰囲気で、問答無用で追い返されることも無さそうだ。
「まぁローヴェンは辺境で万年人手不足だからな! 悪さしねぇならみんな大歓迎だぜ!」
エイダンは白い歯を覗かせてニカっとしながら、太い指でサムズアップする。
これでポジティブな感情を伝えるのは、世界が変わっても共通らしい。
「そうですか。それなら買い物出来るところとか、あとは滞在中の仕事とかあればなって」
「なるほど滞在希望ってわけだな。そんな可愛い子ちゃん連れて羨ましいねぇ~!」
そう言えば、ラフィーネとは手を繋いでここまで来たのだった。
そのラフィーネと言えば、ちゃんと打ち合わせ通り沈黙を保っている。
すぐ街へ入る事が出来ずに、少し退屈そうな表情ではあったが。
その後はエイダンから、この街でのルールなどをざっくりと教えてもらった。
短期滞在なら基本的に自由で、より長く留まる場合はギルドカード等での身分証明が必要だ。
冒険者や商人であればギルドに所属しているから、困ることはないのだろう。
各ギルドの支部もあるので、登録や依頼の受注なども一通り出来るそうだ。
リクは内心「ようやく異世界らしくなってきた!」と少しワクワクしてくる。
また魔族領に最も近い街なのもあってか、一部の魔族とは交易や交流もあるらしい。
人間に比べて見かける数は少ないが、ゴブリンやオークなどが普通に商売や出稼ぎに来ているようだ。
彼らもこの街では日常の一部なので、下手に喧嘩を吹っ掛けたりしないよう釘を刺された。
リクはそんな怖いことを1ミリも考えていないので問題ない。
少し眠そうな顔をしているラフィーネも、今まで暴走したことはないのでおそらく大丈夫だろう。
「あとはまぁ、犯罪になるようなことはすんなってぐらいか! 分かりやすいだろ?」
「右も左も分からなかったんで助かりました。ありがとうございます!」
「良いってことよ! んじゃ長居するならギルド登録だけは忘れんなよ~」
エイダンは手を振りながら見送ってくれる。
こうしてリクは、異世界で初めての街へと足を踏み入れたのだ。




