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異世界アウトドア紀行 ~食べて作って、愉快な仲間と気ままな冒険~  作者: 深嶋ねむり
第1章 -出会って、食べて、狩りをして-

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第4話

 夕方、森の拠点。


 リクは夕食の準備を着々と進めていた。

 血と内臓は処理済みのホーンラビット肉、調味料や香草、添えられそうな野菜類。

 焚火台には既に米の入った飯盒がセットされていた。2品ほど完成イメージが頭にある。


 まだ兎の形を保っている状態から、肉へと解体していかねばならない。

 何とか毛皮を剥がして、脚や体幹の部位ごとに過食部を手探りで切り分けていく。

 どうしても細かい切れ端とかも出てくるので、それはそれで皿に取っておいた。


 メインに使う背中の肉は、一口サイズに切って量産する。

 昼間に枝を削って用意した串に、それを数個ずつ刺して並べていった。

 そこに塩コショウ、特に塩味はしっかりめにつけてしばらく置いておく。

 

 焼き始めたらすぐ食べたくなること請け合いなので、一旦これで良し。


「すぐ焼かないの?」

「もう1品作るから一旦置いとくの」

 ふーん。と少し退屈そうに答えるが、この後の調理工程には興味津々なご様子である。


 飯盒のご飯は炊きあがったので、火から外して熱を落ち着かせる。

 次にそろそろ使い切らないと危ういマヨネーズと、クセの少ない野草類を用意した。

 野草は適当に刻んで、兎の解体時に出た端肉と一緒に炒めていく。

 一旦取り出してから、今度はマヨネーズを投入してご飯を炒める。卵が無いため代用品だ。

 程よく絡んだら、先ほど炒めた野草と肉を入れ直して塩コショウ。さらに醤油で味を整えた。


 『ラビット肉のマヨチャーハン』完成だ!

 醤油とマヨのこってりした匂いと、ほのかに肉の香ばしさも混じって、お客は目を輝かせている。


「先に食べる?」

「うん!」

 ラフィーネの分を皿に盛って渡す。

 最初の退屈さはどこへやら。目を輝かせた彼女は嬉しそうにスプーンを握った。

「いただきます!」

 掛け声も慣れてきたようである。

 

 ラフィーネは一口食べて、一瞬目を見開く。

 また一口食べて、噛んで、飲み込んで。

 ——ぱくぱく、もぐもぐ。


 その様子を見れば、感想など聞かなくても分かりきったものだ。

 


 さて、リクはまた火元に向き直る。

 今度は焚火台に網をかけて、火加減の調節を始めた。

 まだ串を打って塩コショウを振っただけの、ホーンラビット串がお待ちかねなのだ。


 満を持して、串を網に並べていく。


 じわりじわりと音が鳴り始めて、ウサギ肉の少し独特な香りがそこら中に立ち上がる。

 切れ端肉を炒めた時よりその香りは濃厚で、人によっては臭みと言うかも知れない。

 嗅ぎ慣れた牛や豚とは確かに違うが、これはこれで旨味を感じられそうな匂いだった。


 チャーハンに夢中だったラフィーネも、それに気がついて視線がこっちに向いていた。

 はやくはやく!——もぐもぐながら目線だけのメッセージでも、充分に伝わってくる。


 そんなラフィーネの様子を楽しんでいたら、片面が良い感じに焼けてきた。

 串をひっくり返して、その間に柑橘の香りがあるシトラリーフを細かく刻む。

 そうこうしている内に両面の焼き色が良い感じになったので、BBQスパイスを丁寧に振りかけた。

 出来上がった串を1本、また1本と皿に重ねていき、最後は刻んだシトラリーフを振りかける。


 『ラビット肉のワイルド串焼き』完成!


「お待ちどうさん!」

 リクは鼻息荒く、ラフィーネの座るテーブルに串焼きを持った皿を載せた。

 そしてラーメン屋の店主が写りがちな写真よろしく、腕を組んで仁王立ちである。

 これまでで最大のドヤ顔を見せるリクに対して、ラフィーネの視線は皿に釘付けだった。

 

 まぁそんなことだろうとは分かっていたが!


「いた、だきます」

 ラフィーネはまずこんがりと焼けたウサギ肉を見つめて、香りを確かめてからかぶりつく。

 噛んだ肉を串から引き抜いて口の中に収めてから、咀嚼。

「……!!!!」

 噛む。噛む。噛む。目を丸くしながらじっくり噛む。


 その様子を見て、リクも1本持って豪快にひと口かぶりついた。


 ——うまい!!


 いきなりガツンと来るような味ではない。


 口に入れた瞬間スパイスと柑橘の風味が広がり、肉は噛むほど旨味が滲み出てくる。

 焼いた時に感じた独特の匂いも、この旨味と表裏一体に感じられた。

 なかなか手強い弾力が野生を感じさせるも、この旨味を長く味わう点では満足度を上げてくれる。

 

 食用として重宝されている理由がよく分かった。


 その後は2人とも無言で串にかぶりつき、チャーハンを夢中でかき込んだ。


 

「まんぞく」

「食った食った~」

 ラフィーネと出会ってから一番食べ応えのあったメニューを平らげて、満足感に包まれる。

 そう言えば、食べ終わった時に言う大事なことを伝えていなかった気がする。


「ごちそうさまでした!」

 リクはテーブルに向けて合掌して呟き、目線をラフィーネの方にも向けた。

 今まで食後はすぐ片付けたり、次の行動に向けたあれこれで有耶無耶になっていた。


 いただきますに慣れたラフィーネには、ごちそうさまも知って欲しかった。


「ラフィーネも、食べた後はこうするんだ」

「ごちそ、うさまでした?」

 白く小さな手で合掌して、慣れない言い回しを口ずさむ。

 これでいいの?——と言いたげな目でこちらを見ているので、リクは笑顔で頷く。


 この数日間で言い忘れていた分もここで、ごちそうさまでした!

 このキャンプとサバイバルが混同した生活にも、少しずつ順応してきたのかも知れない。


 それはさておき……


 リクは残りの調味料や、転移前に持ち込んでいた食材の残りを見る。

 生きるか死ぬかと言うほどではない。でもこの場で出来る工夫ではもう食の幅を広げるのは難しいだろう。

 それどころか、時間をかけるほどジリ貧なのは明らかだ。


 ギリギリになってから移動したのでは、不測の事態で詰んでしまうかも知れない。

 準備ができ次第、明日にでも出発した方が良いだろう。


 ラフィーネはウトウトしてきたようなので、朝に伝えるとしよう。

 

 その綺麗で小さな顔が、焚火の明かりに照らされる。

 この拠点で過ごす最後の夜は、とても穏やかに過ぎていった。

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