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異世界アウトドア紀行 ~食べて作って、愉快な仲間と気ままな冒険~  作者: 深嶋ねむり
第2章 -出かけて、作って、嗜んで-

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第25話

 数日後の朝、宿屋のキッチン。


「おおおー」

 ラフィーネが目の前の光景を見て、小さく驚きの声を上げている。

 

 調理台の上には、今日のコフィーチェアリングで一緒に食べるお菓子の材料が並んでいた。

 小麦粉、バター、砂糖などの生地を作る材料。他には新鮮なりんごとアプリコットジャムも置いてある。


「と言うわけで、今から作るお菓子はりんごたっぷりのタルトだ!」

「たると! すごく、美味しそうなひびき」

「そこそこ甘めに作るから好きなはず! コフィーと合わせたら飛ぶぞ」

「とぶ?」

「あ、いや。なんでもない」

 ネットミームに清浄なるこの世界では、飛ぶは飛行か跳躍にしか受け取られないだろう。


 気を取り直して、調理開始だ!


 まずは道具をいくつか並べていく。

 のし棒、へら、ボウル、その他諸々。カレントの市場で買い込んだため調理の幅が広がった。


 最初の手順はタルト生地作りだ。

 せっかくラフィーネの手が空いているのだから、しっかり手伝ってもらおう。


「今日も手伝ってくれる?」

「うん。鳩肉の時も楽しかったから、いいよ」

 意外にも乗り気なようである。リクは彼女にへらとボウルを渡した。


 バター、砂糖、卵、小麦粉。

 それぞれを適切な順番で入れては混ぜ、また入れては混ぜを繰り返していく。

 均一に混ぜていかないと食感に影響するので、思ったより根気のいる作業だ。


「まだまぜるの?」

「もう少しかな。疲れたなら代わろうか?」

「だいじょうぶ!」

 おそらく体力や筋肉が疲れた、みたいな話ではないのだろう。

 彼女の力では容易く調理器具を破壊してしまうので、力加減に気を張り続けているのだ。


 リクの方はその間に、生地とりんごの間に塗るカスタードを火にかけていた。

 これがあるだけで、タルトの甘さとコフィーの苦みが、互いに引き立て合うことだろう。


「できた」

「よし、ちゃんと生地が混ざってるな」

 やはりラフィーネは器用なので、手順が分かれば難しいことも無いようだ。


 生地を少し休ませてから調理台に移して、のし棒を取り出す。

 今回は型までは用意できていないので、とりあえず円形に薄く伸ばしていった。

 ラフィーネは横から興味ありげに覗き込んでいる。


 カスタードの方はまだしばらく冷ますので、このままりんごの薄切りに入る。

 リクは芯を取り払うようにざっくりと切って、果実の部分を薄くスライスしていった。

 

 包丁には手慣れているため、充分な速度ではあるのだが、思いつきでキッチン周囲に誰もいないか確認する。


「なぁラフィーネ。これと同じ形に糸で一気にスライス出来たりする?」

 聞かれた彼女は、薄切りのりんごを1枚手に取って、そのままぱくりと食べてしまった。

 爽やかな酸味とほのかな甘みが口に広がり、上機嫌に微笑んだ。


「前払い。かんたんだから任せて」

「つまみ食いを覚えたかぁ。分かってると思うけど、まな板とか他の場所を切るなよ?」

「わかってる」

 そう言ってラフィーネは手をかざした。


 いつもより少し長めに、指を小刻みなリズムで動かした。音はほとんど聞こえてこない。

 時間にして2秒ほどだろう。彼女が指をピタリと止めると、丸かったりんごは花びらが広がるように崩れていった。

 

 包丁を持たせて鳩肉を切った時もそうだったが、ことさら切るに関しては、見本があれば熟練の職人顔負けだろう。

 リクの注文通り、まな板や調理台も全くの無傷だ。

 

「……え、すご」

「私にかかれば、あたりまえ!」

 目を見張る光景に驚くリクに対して、ラフィーネは鼻高々と言った表情である。

 彼女がいろいろすごいのは今に始まったことではないが、やはり蜘蛛としての能力は汎用性がとても高い。

 

 偉いので余ったりんごをくし切りにして、ラフィーネの口に放り込んだ。

 ちょっと目を丸くしていたが、追加報酬としては申し分ないだろう。彼女は口からはみ出た分をもぐもぐと飲み込んでいった。


 

 そろそろ先んじて火を入れていたオーブンの温度も、ちょうど良い頃合いだろう。

 

 ラフィーネがりんごに夢中な横で、リクは生地の上にカスタードを塗っていく。

 その上に2人でスライスした薄切りのりんごを見栄え良く並べていって、それらの外側に広がるタルト生地を内側に折りたたんで壁にした。

 

 カフェで見るようなジグザグの形が整ったタルトとは違うが、これはこれで素朴な雰囲気に焼き上がる。


「ま、こんな感じでいいだろ」

 出来上がったタルトの原形をオーブンに放り込んで、あとは火加減を見ながら待つだけだ。

 とは言え家電のオーブンではないため、火のコントロールは一筋縄ではいかない。

 こまめに様子を確認してあげる必要があるだろう。


「もうすぐ出来上がり?」

「焼き上がったらな。でも焼き立てより少し置いた方が美味しいから、食べるのはカイルも合流するまで我慢だ」

「せちがらい」

 やっぱりラフィーネの語彙力は日に日に増している。気のせいではないだろう。


 昼過ぎから以前宴をした川原で集合とカイルにも伝えてあるので、焼き上がったら出発しよう。

 向こうの焙煎器とコフィーミルの出来栄えも上々と聞いていたので、この後のチェアリングタイムが楽しみだ!

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