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異世界アウトドア紀行 ~食べて作って、愉快な仲間と気ままな冒険~  作者: 深嶋ねむり
第1章 -出会って、食べて、狩りをして-

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3/33

回想2

 森の中、小さく開けた場所。


 リクは目を覚ます。

 寝ていたのはせいぜい2~3時間くらいだろうか。


 明るさに目を慣らすよう、瞬きしながら周囲を見渡す。

 設営したテントとタープ、調理器具や道具が広げられたままのテーブル。


 付近は何も変わらないが、視界がハッキリしてくると妙な違和感を覚えた。


 周囲が森に囲まれている。

 すぐ近くにあった川のせせらぎも、今は遠くに感じられた。

 何より他のテントやトイレなどの施設が、どこにも見当たらない。


「おかしいな……」

 ひとまず身を預けていたハンモックから降りて、テントや持ち物の確認を始めた。

 道具や食材に変化はないのだが、1つだけ小さな喪失感があった。


「スマホがない!?」

 全てのポケット、テントの中やリュックは勿論、クーラーボックスの中まで確認したがどこにも無い。

 ここがどこなのか見当もつかない状況で、最も重要な物を失ってしまった。


 改めてこの開けた場所に覗く空を見つめる。

 スマホを探し回っていた内に、日がだんだん傾いてきたようだ。

 

 周囲がキャンプ場ではない以上、今から森に入るのは大きなリスクである。

 本来なら駐車場は歩いて数分程度の距離だが、そもそも駐車場があるのかすら不明だ。


 リクは頭を切り替える。


 元々2泊の予定で準備してきたため、この拠点には道具や食料などが揃っている。

 やりくりすれば、数日先まで無補給でも生存に問題は無い。

 幸いにもここは鳥のさえずりが聞こえる程度で、獣の気配は感じない。


 とは言っても、最優先で火起こしはすべきだろう。

 日が落ちればシンプルに暗いし、夜中は獣が活発になる可能性もある。

 

 リクは焚火台に薪を積んで、道具袋から着火剤を取り出した。

 せっかくなら化学に頼らず火を起こしたいところだが、あいにくその手の技術は無い。

 無理に挑戦して体力を減らすくらいなら、今は状況を整えて夜を迎えるのが賢明だろう。


 化学の力に感謝しつつ、リクは手元の着火剤を見つめる。

 すると視界に変化が現れた。


 ---------------------------------------------

 着火剤(ブロックタイプ)

 特徴:容易に火が付くが持続しない。

 用途:種火として利用。

 ---------------------------------------------


 え?


 空中に青白いウィンドウが浮かんで、そこに情報が表示されたのだ。

 内容はまさに着火剤の説明だが、普通は何かを見つめたところでウィンドウなど浮かんでこない。


 ——まさか、異世界!?


 漫画やアニメも見ているので、異世界モノでのお決まりパターンに心当たりはある。

 とは言え神隠し的な状況でもあったし、異世界を疑うかどうかは悩んでいたのだ。


「もし、異世界だって言うなら」

 ステータス! 的なニュアンスを念じてみる。反応はない。


 先ほどは着火剤を見つめたらウィンドウが出現した。

 であれば見ることによって発動する類のスキルなのかも知れない。

 

 鏡や水面に姿を映して見ることも考えたが、あいにく付近にそれらはない。

 ひとまずリクは、己の内面を見るようなイメージでステータスを念じる。


 ---------------------------------------------

 『リク・タテイシ』

 ヒューマン属 ヒューマン種

 STR:D

 AGI:D

 DEX:B

 INT:C

 HP:C

 MP:E

 スキル:神眼Lv.1

 ---------------------------------------------


 また視界にウィンドウが表示された。

 どうやら自身のステータスは、己を見つめるように念じると表示されるらしい。

 名前や種族的な表記も気になるが、このステータス一覧はきっとリクのものだろう。


 上からSTR(力)、AGI(素早さ)、DEX(器用さ)、CON(体力)、INT(賢さ)、で良いのだろうか。

 HPはおそらく耐久力で、気になるのはMPだ。

 ゲーム的な世界観ならマジックポイントだろうが、現状は不明だ。


「ってかこう、パッとしないステータスだよな……これ」

 どのアルファベットが最低で、どれが最高なのか分からないが、DやEにあまり良い印象は無いだろう。

 唯一DEX(器用さ)がそこそこ高そうなのは、料理人として報われる気分だった。


 そして何より気になるのは、最下段の『神眼Lv.1』

 

 こんなウィンドウが出ること自体も異常なわけだが、この神眼スキルは謎に拍車をかける。

 日本で普通に生きてきたリクにとって、明らかに異常な能力だった。


 こうなるといろんな事が気になってしまう。

 リクは周囲の物を気の向くままに注視してみた。


 ---------------------------------------------

 『調理用ナイフ』

 特徴:ステンレス素材で錆びにくい。

 用途:主に調理用。

 ---------------------------------------------


 ---------------------------------------------

 『真空断熱マグカップ』

 特徴:注いだ液体の温度が外に漏れにくい。

 用途:飲料容器。

 ---------------------------------------------

 

 持ち込んだ物の詳細は把握しているわけだが、神眼の情報と照らし合わせるのには意味がある。

 少なくともここまで見た情報に嘘はなかったので、それなりに信用して良さそうだ。

 

 となればこの世界特有の物も、見れば特徴が分かるかも知れない。

 リクは生物学やサバイバルに詳しいわけではないので、この能力が想像通りならとても助かる。


 とは言え暗くなってきた今となっては、火起こしに集中すべきだろう。

 リクは焚火台に薪を載せ、投入した着火剤に火をつける。

 火力が安定するまでの間、夕飯の食材や調味料などを揃え始めた。


 こんな状況だが腹は減るし、こんな状況だからこそ食べられる時に食べた方が良い。

 

 テーブルに並べた食材たちの中には、ひと際の高級感と異彩を放つ食材が存在した。

 無論リクは頭で理解しているが、そんなもの注目せずにはいられない。


 ---------------------------------------------

 『牛肉』

 特徴:肥育された個体のサーロイン。

 用途:食用。

 ---------------------------------------------


 最高の夜を迎えるため、奮発して買ったのだ!


 サシと鮮やかな赤身のコントラストが美しい。

 これを見れば誰もが期待感に胸を膨らませるだろう。


 異世界初日から飛ばしているかも知れないが、これには理由があった。


 氷を入手する方法がない以上、生鮮食材は早めに消費した方が良い。

 傷んで食べられないくらいなら、美味しい内に食べてしまう方が潔いと言うもの。

 目の前の食材に感謝して、美味しくいただいてしまおうと言うわけだ。

 

 いざ調理開始!

 

 まず取り出したステーキ肉に、脂肪のスジへと切れ込みを入れていく。

 冷やしていた肉が常温に戻るまでの間、塩コショウで下味を付けて少し待つ。

 狙った焼き加減にするためには、この待ち時間が大事なのだ。


 その間に炭火の様子を見ながら、マシュマロを焼いたりして暇潰し。

 

 時が満ちたら網を載せて、常温に戻ったステーキ肉を投下する!

 少しずつ肉の焼ける音がこだまし、辺りに香しい匂いが立ち込めた。


 ここからは火の入り具合を見極める。

 店では炭火調理も多く経験したが、ステーキ肉を焼くことは滅多にない。

 それでも多くの肉を焼いて来た経験値で、タイミングを見極めるのだ。


「これくらい、か!」

 ここぞで肉を引き揚げ、ホイルに包んで休ませる。


 待つこと数分。


 満を持してホイルを開けて、香ばしい匂いを放つステーキをまな板の上に置いた。

 淀みない手つきでひと口サイズにカットしていく。

 断面の中心には赤くみずみずしい層が残っていた。

 

 焼き具合は完璧だ!


 下味は付いているので、仕上げにBBQスパイスをサッと振りかける。

 様々な香辛料の入り混じった香りが、リクの鼻孔をくすぐった。

 シンプルな手順、シンプルな味付け、これでいい。

 

 『和牛の炭焼きステーキ』の完成だ!


 本来なら他の食材も添えたいところだが、リクはもう待ちきれなかった。

 細かい事はこの肉を食べてから考えれば良い。

「いただきます!」


 ——ぱくり。


「んんんんん!! うまああああ!!!」

 思わずリクの顔は綻ぶ。

 この瞬間だけは、今が異常事態であることを忘れさせてくれた。


 口の中には旨味と甘さがじんわりと広がり、スパイスの風味がそれを一層際立たせる。

 上質な脂と複雑な香りのハーモニーに、脳内は染め上げられてしまったのだ。


 余韻と共にリクは空を見上げた。

 太陽は地平の向こうへと落ちており、トワイライトの薄暗さが辺りを包んでいる。

 今だけはこの幸せを純粋に味わいたかった。


 もう一度肉に視線を戻し、残りの美味を堪能する。

 肉を口に運ぶ度、感嘆がこぼれた。


 ——ありがとう和牛。

 


 こうして幸せな食事を終えたリクは、淡々と就寝の準備を進めていた。

 

 火を保ちながらテントに寝床を整えて、最低限の荷物はいつでも持ち出せるようにまとめて置く。

 他にも調理で散らかしたものを整理したり、合間にお茶を淹れてブレイクしたり。

 周囲が気になりつつも、幸い夜は穏やかにふけていった。


 ひと通りやる事は済んだので、リクはテントに入って横になる。

 

 この時のリクは、周囲に獣がいない理由を分かっていなかった。

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