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異世界アウトドア紀行 ~食べて作って、愉快な仲間と気ままな冒険~  作者: 深嶋ねむり
第2章 -出かけて、作って、嗜んで-

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第23話

 ローヴェンの街、ボルカン工房。


 カレントで1泊してからローヴェンに戻るまでの3日間は平和なものだった。

 依頼に同行するきっかけとなったアサルトピジョンのような相手と遭遇しない限りは、前評判通り比較的安全な道らしい。


「ほら。お前さんの注文通り、タングライトをふんだんに使って、元の形に打ち直しといたぞ」

「おおお~~! さすがボルカンのおっちゃん! 寸法に一分の狂いも無いし、素材が均一に定着して強度も高まってるぜ!」

 カイルは、オークの鍛冶師ボルカンから渡された刀身を見て目を輝かせている。

 以前よりも鈍色が深くなって落ち着いた色に見えるが、これこそタングライト鉱石の含有率が高い証拠らしい。神眼より。

 

「ふん! アホみてぇに硬ぇから苦労したぞ。次曲げたり折ったりしやがったら知らねぇからな?」

「そんときゃもう、幻のミスリルでも探してくるよ!」

「冗談も休み休み言いな。ほれ、請求書だ」

「おぅ……」

 さっきまでニコニコだったカイルの顔がみるみると曇る。

 想定より結構な金額になったらしい。


「んで、リクだったか。今日はお前さんも俺に相談があるんだろ?」

「はい! ちょっと作りたいものがあって」

 剣を渡される前に、カイルが話を通してくれていたようだ。


 リクは紙に書いた大まかなアイデアスケッチをボルカンに見せる。


 料理人なので正確な図面の描き方などは分からない。絵だってお世辞にも上手いとは言えない。

 どんな機能を持つのか、どんな構造のイメージなのか、とにかく目的を伝えて形にしてもらうのが最善だと考えた。


「焙煎器はまだしも、コフィーミルなぁ。ちっとばかし複雑な工程も必要になりそうだが、面白れぇ」

「はい! 特にミルの方は焙煎した豆を均一に粉砕出来れば、より澄んだ味になるはずなんです」


 焙煎したコフィー豆をドリップできるサイズに粉砕するコフィーミル。

 基本的には元の世界にもあったコーヒーと同一の物なので、挽き方や淹れ方もそれに準じる予定だ。

 

 挽いた豆については、細かさなら好みや用途次第だが、均一さは味と香りに直結してくる。

 そのためミル内部の刃については、切れ味や品質も重要になってくるのだ。

 

「なるほどな。じゃあこの2つは任しときな。おいカイル! タングライトの余り、使っても構わねぇか?」

「およおよ……多額の請求で涙に濡れる俺からまだ搾り取ろうなんてぇ」

「はぁ~、そのつまらん茶番はやめろ。どうなんだ?」

「別に良いぜ。まぁちょっとばかし次の給料とか、期待出来たら嬉しいけどな~」

「けっ! まぁ元々鉱石はお前さんのもんだ。その分くれぇは上乗せしといてやる」

「さっすが! 話が分かるぜ」

「調子のいい奴め」


 確かに余りとは言え、カイル持ちの鉱石を使うならこの辺の筋を通すのは欠かせない。

 ボルカンは少しばかり口が悪いが、相手や物造りに対して真摯に向き合っているようだ。


「となるとその分も含めて、ボルカンさんにはどれくらい出したら良いですか?」

「ふむ。通常なら金貨20はもらいてぇところだが、まずは出来上がってから、そのコフィーを飲ましちゃくれねぇか?」

「それは勿論。味が苦手じゃなければ、差し入れようと思ってました」

「そいつは助かる。何が言いてぇのかって、もし出来が良ければ生産の優先権を交渉してぇのさ」

「なるほど!」

 

 ここでリクはボルカンの言いたいことを凡そ理解した。

 鍛冶屋の仕事は武器防具だけに留まらない。もし売れそうな道具を開発できたなら、まず自分のブランドで作りたいのは当然だ。


「理解してるとは思うが、提示した金額より上がるこたぁない。まぁ飲んで不味かったら満額請求させてもらうがな」

「それは実際に焙煎して1杯淹れる俺としても、緊張しますね」

「んなこと言いつつ、楽しそうな顔してるじゃあねぇか」

 ボルカンに言われて壁に飾られている剣の刀身を目にする。

 反射するリクの顔は、確かにやる気と期待に満ちていた。


「あとさぁ、俺からもひとつ良い?」

 カイルがおもむろに手を上げて全員を見渡す。

「どうした? カイル」

「焙煎器の方だけどよ。火にかけて熱した後は一気に冷ますんだろ? 風の魔石とか使えそうじゃね?」

「確かに! 焙煎器から出して広げる冷まし方もあるけど、風を通せたら便利かも」

「小賢しい知恵だけは回りやがる。じゃあリクよぉ、焙煎器には魔石を嵌め込む仕様にしてみるか?」

「お願いします!これで焙煎器もミルも、すごい良いのが出来そうですね!」

「まぁ金属のことは俺に任しときな」

「魔石と動作部分のことは俺にだな」

 ボルカンもカイルも、職人の自信に満ちた表情で胸を張る。確かにこの2人なら、間違いなく良い物を作るだろう。


 その後は魔石加工をカイルが担当する分も加えて、全体の役割や費用の配分で細かい調整を行った。

 

 我関せずと言うか、この手の話で全く喋る事の無いラフィーネは、椅子に座って寝息を立てていた。

 全ての話がまとまったところで、リクは優しく彼女を起こす。


「ふぁ、寝てた」

「暇させちゃって悪いな。この後はラフィーネにも頼みたいことがあるから」

「ん、くるしゅうない」

 どこで覚えたそんな言葉? 異世界翻訳のブレみたいなものかも知れないが。


「じゃあ俺とラフィーネはこの辺で。カイルはどうする?」

「細かい仕様をおっちゃんと詰めたいしな。残って作業を続けるぜ」

「分かった。こっちも進んだら、また声かけるわ」

「おう! コフィーもだけど、俺もリクが作る甘いの楽しみにしてっから!」

「はいよっ。じゃあボルカンさんも失礼します」

「おう。またな」

 リクは寝起きのラフィーネを押しながら、笑顔で工房を後にした。

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