第20話
2日目の夕方、カレントへの街道沿い。
日も傾いて来て、荷馬車の一行は街道横で野営の準備を進めていた。
日本なら春の終わりくらいの気温だろうか、総勢8人でBBQ的に食事を楽しむには良い空気である。
リクは焚火台に網を載せて、小さめにカットしたアサルトピジョン肉を焼いている。
今回はカイルとラフィーネ以外にもゲストがいるので、食材の風味なども把握しておきたい。
しっかりと火を通したところで、まずは何も味付けをせずひと口。
——もぐ、むぐ。
程よい歯ごたえ、さっぱりとした脂身。普通の鶏肉に近いも、ほんの少しだけ鉄分も感じる。
この世界に来てから食べたどの魔物肉よりも、扱いやすい洗練された風味だ!
「リク、ずるい」
「俺も俺も~」
リクだけ味見している様子を見て、いつもの食い意地メンバーがやって来た。
正直食べきれない程の量が獲れているので、軽く塩だけ振って2人に出す。
——ぱく、もぎゅ。
「さっぱり、おいしい」
「お~! 塩だけで食うとこんな味なんだな!」
どうやらカイルの方はピジョン肉を食べたことがあるらしい。
「今日は使える食材も多いし、クリームシチューと串焼きで豪華に行こうかなって!」
「良いじゃん! 両方食ったら食べ応えありそうだな!」
「くりーむ、しちゅー?」
「ラフィーネは初めてだよな。一緒に作ってみる?」
リクから普段と違う申し出に少しだけ目を丸くしたが、興味があったのか、こくりと頷いてくれた。
カイルの方はラッセルとその部下たちの酒盛りに混ざるようで、これならじっくりと調理を進めても問題ないだろう。
いざ開始だ!
クリームシチューは比較的時間のかかる料理なので、ピジョン肉は勿論、野菜やキノコもリクが手際良く切り分けていく。
その合間に串焼き用の肉を大きめにカットして、ラフィーネがナイフを握るまな板に見本として置いた。
「ゆっくりで良いから、これくらいの大きさにこの肉をカットしてみて。糸は禁止な?」
「わかった、できたらごほうびは?」
「欲張りだなぁ。じゃあ味見用の串も用意するから、一番に食べさせてやるよ」
「やくそく!」
料理人の特権を使った裏取引に、ラフィーネも満足したようで、真剣にまな板へと向かい始めた。
最初はぎこちない手つきだったが、あの見えない糸を扱う器用さからか、カットの大きさは正確だった。
その様子を見守りつつ、リクの方はシチューの具材を相手する。
ピジョン肉には塩コショウ、ニンニクなどを加えていって、軽く焼き色が付くまで火を通ししてから引き揚げた。
次に野菜やキノコもバターと一緒に炒めていき、そこに小麦粉も投入して馴染ませてから、水を注ぎ煮込んでいく。
ここでラフィーネの様子を見れば、既にカットの手順にも慣れたようで、まな板には大きめひと口サイズのピジョン肉が、ごろごろと盛られていた。
ちょうどシチューの下準備を終えたタイミングで切り終えているのは、あっぱれである。
「ナイス、ラフィーネ」
「ふふん!」
たまに見せるドヤ顔がさく裂した。
次は串焼きの味付けだ!
今回は岩塩と香草のシンプルな串と、ハニーマスタードの食べ応えある串。2種類の味付けで提供する。
転移時に持っていた醤油はほぼ底を尽きたので、醤油ダレでの焼き鳥を出せないのが、居酒屋の厨房にいたリクとしては少し残念ではあった。
この依頼が終わってからは、日本食の調味料確保を目的に加えるのも良いだろう。
「そうだラフィーネ。俺はこの後に串を焼くから、シチューの鍋を中身が焦げないように優しくまぜて」
「やさしく。わかった」
ラフィーネはリクから渡された木製のおたまを大勝負に向かうような、気合いの入った顔で受け取る。
ちょっぴり不安だが、器用なので鍋ごとひっくり返すようなことは無いだろう。
決意の表情を見届けて、リクは次の行程に入った。
まずはラフィーネがカットしてくれた肉を白ワインに浸して、10分ほど寝かせる。
待ってる間にニンニクと生姜をすりおろして、粒マスタードとハチミツに混ぜてソースを完成させた。
その後ワインから引き揚げた肉に塩コショウを振って、オリーブオイルを全体的に馴染ませてから、手際よく串を打っていく。
その間にシチューを任せていたラフィーネの様子も伺うが、まだ少し緊張してること以外は問題なさそうだ。
「横からちょっとごめんな~」
リクは牛乳を鍋に注ぎ足して、焚火台の薪も位置替えしながら火力を調整をする。
あとはとろみがついてくるところまで火が通って、味を整えたら完成だ。
ゴールも見えてきたところで、網の上に串焼き肉を並べていく。
ジュウゥ——と焼けて脂が滴る音と共に、ピジョン肉の焼ける香ばしい匂いが満ちていく。
これには酒盛りをしていたカイルやラッセル達も、興味津々にやってくた。
「何と香ばしい匂いなんだ! 出来上がるのが楽しみだよ」
「言ってる間に焼き上がるんで、ちょっと待っててくださいね! そっちの鍋ではシチューも作ってるんで」
「おお! カイル君からも聞いていたが、リク君の料理は絶品らしいからね。楽しみにさせてもらうよ」
ラッセルは上機嫌に語って、皆とテーブルに着いた。期待の視線がいくつも集まってくるのを感じる。
焼き上がりも近くなった串焼きに、塩の方にはシトラリーフ等の刻んだ香草類。もう一方にはハニーマスタードのソースを塗っていった。
リクは串焼きを皿に盛って行きながら、各味1個ずつ取り分けた肉を小皿に載せてラフィーネに渡す。
「ほら約束の品だぞ。シチューの仕上げは俺がやるから、ゆっくり食べな」
「取引、せいりつ」
ラフィーネは嬉しそうな顔で、その串焼き肉をそれぞれ味わう。
「ん~!!」
目を閉じて頬を染めながら、幸せそうに噛みしめている。
ラフィーネが味見してこの表情なら、串焼きの完成度は申し分ないだろう。
リクはリクで鍋の様子を最終確認しながら、シチューをスプーンでひとすくいして口に含む。
かなり良い!——感想は後に回すとして、こっちもきっと喜んでもらえるだろう。
「お待ちどうさん!」
串焼きは大皿にガツンと、シチューは深皿に取り分けて、いつもの掛け声で皆に提供した。
『アサルトピジョンのクリームシチュー』
『ピジョン肉の串焼き2種盛り』
堂々の完成だ!
「「「おおお~~~~!!」」」
テーブルの皆が一様に、暖かい湯気の立つ料理に目が釘付けになった。
「あぁ……野営でこれほど手の込んだ料理を味わえるとは!」
「待ちきれない! 早く食べようぜ!」
ラッセルやカイルは勿論、商会スタッフ達やラフィーネも待ちきれない様子である。
「皿は行き渡りましたね? じゃあ、お待たせしてもあれですし早速——」
「「「いただきます!!」」」
掛け声を合図に、各々好きなものから頬張っていく。
「これは、なんと。美味いっ!」
「ん~! 上手く戦えた後に食うリクのメシ、最高~!!」
「おい、ひい。はふっ」
ラッセル、カイル、ラフィーネ、そしてスタッフたちも。味にとても満足しているようだった。
リクも串焼きと熱々なシチューをそれぞれじっくり味わう。
香草で味付けした串は、素材の味が良く生かされていて、ピジョン肉の醍醐味を感じられる。
ハニーマスタードのこってりさもグッドだ。味付けが濃い分、より食感の鶏肉らしさが際立って食べやすい。
シチューもかなり上手くいった。
野菜の甘みも溶け込んでいるし、ピジョン肉の旨味もしっかり感じられる。主食のパンに浸しても美味しいし、ベストなチョイスだった。
いつもより人数が多いのも見越して、それなりの量を仕込んだはずなのだが、食べながらおかわりの対応もしている内に、皿も鍋も空っぽになっていた。
想像以上に喜んでもらえたようで、嬉しい限りである!
「「「ごちそうさまでした!!」」」
焚火と星空に照らされた野営地には、皆の満足そうな掛け声がこだました。




