第18話
ローヴェンとカレントを結ぶ街道。
天気は快晴。穏やかな風に包まれながら、3台の荷馬車は列を成している。
先頭にはパルマー商会の長であるラッセルと、今回護衛の依頼を引き受けたリク達パーティメンバーが同乗していた。
出発してから数時間、スライム等の低ランクな魔物と小競り合いはあったが、概ね平穏に進むことが出来ている。
実はイビルディアーを倒してから昨日までの1週間ほど。極力ラフィーネを目立たせない連携なども考案していたのだが、弱い魔物ではカイルが対処するだけで片付いてしまった。
「カイルって、ちゃんと剣士なんだな」
「ちゃんとって何だよ! 基礎がしっかりしてねぇと、機巧剣術も形無しだっての」
「へー、機巧剣術ってのも流派みたいなもん?」
「流派かぁ……良いねぇ。それなら俺が開祖って事になるな!」
カイルは歯を見せて無邪気に笑っている。
「さすがはカイル君だ。新しい風をご実家の——」
「ちょ、ラッセルさん!」
賛辞を贈ろうとしたラッセルの言葉をカイルは遮った。
ラッセルは何かを察したのか。すまなかったね、などと言いながら普段の微笑んだ表情に戻る。
一瞬だけ気まずい空気が流れたように感じたが、その後は何事もなかったように雑談を重ねていた。
そう言えば、カイルのステータスの中には『ランフォード流剣術Lv.5』なんてのがあったはず。ランフォードはカイルの家名でもある。
他にも気になるのは、カイルが予備と言って持って来たロングソードだ。庶民的な武器屋で見かけた剣とは明らかに造りが違う。
もしかしたら良いとこの坊っちゃん。なんて想像も浮かんだが、詮索し過ぎるのは無粋だろう。
リクの方だって——まだ自分が異世界から来たことを2人に告げていない。
ラフィーネの事もカイルの事も信用しているし、仲間や友人になれたと思っている。
身の上話をするきっかけがなかったと言うだけだ。
どこかの機会でちゃんと話すのも良いだろう。勿論、その時はカイルが事情を話すのを無理強いはしない。
そんな物思いに耽りながら馬車に揺られていると、日も傾いて野営の時間となった。
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リクが焚火に薪を放り込めば、パチパチと音を立てながら火は揺らめく。
ローヴェンを出てまだ初日なのもあり、夕飯は商会の方で準備していた出来合いの料理が振舞われた。
豆と挽き肉のトマト煮込み、ちょっと硬めの丸パン。デザートにはりんごも出て、この世界にも存在したことが嬉しかった。
トマト煮込みとパンにはいつもの表情だったラフィーネも、リンゴの甘酸っぱさと瑞々しさには目を見開いていた。
思えば果物とかお菓子みたいな甘い食べ物は、これまで一緒に食べる機会も無かった気がする。
カレントは交易都市と言うくらいだし、市場を見る時間があれば、お菓子作りの材料などを探すのも悪くない。
リクは居酒屋の料理人だったが、趣味でお菓子を作ることもあれば、季節のデザートメニューを任されたこともあるのだ。
そんな事を考えながら、横並びに座るラフィーネを見る。
既に殆どの人は眠りについているが、最初の見張りはリクとラフィーネで受け持つことになっていた。
これまでの出来事で忘れそうになるが、2人は冒険者としてはまだ初心者なのだ。
慣れた者ならこの規模の見張りは1人ずつの交代でこなすが、リクとラフィーネは経験を鑑みてペアでの担当になった。
とは言っても、この野営場所は蜘蛛の巣と言えるほどラフィーネの見えない糸に囲われているし、その張った本人がここにいるので危険とは縁遠い。
仮にラフィーネすら退ける存在が敵意を持って襲い来たなら、それはもう天災に巻き込まれたのと同義だろう。
そんな物騒な想像とは裏腹に、ここには焚火の柔らかな光と、夜の静寂だけが満ちている。
「ねぇ、リク」
「ん、どうした?」
「ひま」
そう言って、ラフィーネは横向きに倒れ込んでリクの膝を枕にする。
お決まりシチュエーションとは逆パターンだが、膝に彼女の小さな頭が乗っている光景を見ると、少しだけ心臓が高鳴る。
「いや暇なのは分かるけど、ちゃんと起きてくれよ」
「ここに入れる魔物なんて、いない」
ラフィーネは寝転がりながら、焚火の光に反射した細い糸を指先でなぞっている。
リクだってラフィーネがどんな体勢でいようとも、安全であることは理解していた。
ほんの少しの気まずさ。みたいな高揚を誤魔化したかっただけだ。
「ラフィーネはさ、魔族領にいた時はどんなもの食べてたの?」
「なんでも? おそってきたから、食べるしかなかった」
魔族領は随分と過酷らしい。
危険度SSSのラフィーネを相手に、喧嘩を売ってくる相手が腹の足しになるほどいたと言う事だ。
どう食べていたか? はあえて聞かないことにする。
大事なのは今一緒に料理を美味しく食べてくれて、仲間でいてくれるラフィーネの在り方なのだ。
「今はいろんな料理が食べられて、嬉しい?」
「うん。リクと出会ったおかげ」
「そっか、また作りたいものいろいろ考えてるから、期待してな」
「わかった」
少しだけ横目で見上げて来たラフィーネの顔は、幸せそうに微笑んでいた。
「明日は、あさとれぴじょん? 食べれたらうれしいな」
惜しい。本当に朝襲ってきたら、文字通りになりそうなのがにくい。
「アサルトピジョンな。もし襲ってきても、バラバラにしたり殴ったりするなよ?」
「リクは注文がおおい」
そんな某物語の料理店ではないが、鳩からすれば獲って食う側ではあるだろう。膝でリラックスしてる魔族様には到底及ばないが。
「そろそろ時間かな。カイルを起こさないと」
リクはラフィーネの身体を持ち上げて起こしながら、ゆっくりと立ち上がる。
少し物足りなさげな目線を向けられたが、この状態をカイルに見られたら、またニヤついて余計な事を言うに違いない。
気怠そうにするラフィーネを引っ張りながら、2人はテントの方へと戻って行った。




