第17話
パルマー商会、商談スペース。
「先ほど話した通り、タングライト鉱石の在庫が残り僅かとなったから、他の仕入れも併せてカレントに行くつもりでね」
ラッセルは初めて顔を合わせたリクとラフィーネのために、背景から説明してくれる。
『リベルタ共和国』の交易都市『カレント』。
人の領域である諸国連合の北端に位置するローヴェンから、馬車で街道を南に3日間ほど下った先にある大都市である。
所属するリベルタ共和国が連合の中央に位置する国家と言う事もあり、カレントでは大陸各地から集まった品物が手に入る。ローヴェンの物流には欠かせない場所なのだ。
「そんな街道沿いに、最近困った魔物が出るようになってね」
「困った魔物、すか?」
カイルは首を傾げる。
先ほど聞いた前置きに補足すると、ローヴェンとカレントを結ぶ街道は往来もそれなりに多い。
そのため強い魔物は定期的に間引かれていて、普段はむしろ低ランク冒険者の仕事場と言った雰囲気だそうだ。
「どうもアサルトピジョンの群れが、現れるようになったらしい」
「うわ、群れかぁ……」
「カイル、何だよそのアサルトピジョンって?」
さすがに魔物と戦う話になればリクとしても黙っていられない。
疑問に対してカイルとラッセルが、その脅威について説明してくれた。
アサルトピジョンは主に地を走る鳥の魔物で、発達したクチバシで攻撃してくる。
単体ではDランク相当で新人冒険者でも何とか相手に出来る魔物なのだが、基本的に群れで襲撃してくることが多い。
そのためアサルトピジョンは危険度Cランクの討伐対象として、ギルドでは設定されているのだ。
「詰まるところ、私としてもAランクの討伐を果たした君達に護衛を依頼できれば、渡りに船と言うわけなんだ」
「なるほど! それなら条件は報酬の他に、今あるタングライトの在庫分を売ってくれるってことすよね?」
「やはりカイル君は話が早くて助かる。他の取引先とは鉱石以外のやり取りも多いからね。タングライトについては待ってもらうさ」
「ってなると、リクとラフィーネはどうするよ?」
ほとんど話が決まりかけたこの状況で聞いてくるのは、正直パワープレイも良いところだ。
しかしこのメンバーで事を成す場合、最も力ある存在の意向が重要となる。
「えっと、そのアサルトピジョンって食用になったりします?」
「ん? あぁ、勿論だ。捕獲されればレストランにも卸されるくらいの良質な食材だね」
その言葉を聞いてピンッ——と、眠そうだったラフィーネの目が開く。
「リク君は報酬なんかよりも、食い気が強いのかな?」
「いや、俺はこのパーティの料理担当みたいなものです。なので美味しいなら一石二鳥かなと」
「なるほど! それならもし数が獲れた時は馬車に積み込んでもらって構わないし、カレントで素材の換金も手配させてもらおう」
リクは言ってから気付いたが、こうも文字通りな事があるものだ。むしろ獲った先のことまで手配してもらえるなら三鳥か。
そしてラフィーネの方に目を向けてみれば、もう視線で「受けよう!」と訴えかけてきている。
「分かりました。俺もラフィーネも異論は無いので、受けさせてもらいます」
「ありがとう! では出発は明日の朝、改めてよろしく頼むよ。3人とも」
「うっす! やっぱりラッセルさんに相談してよかったー!」
こうして個別の依頼、と言うか商会主ラッセルとの商談は、色よい結果で着地した。
「そうだ。カイル君、鉱石の在庫分はこの後に渡そうと思うが、打ち直すまで代わりの剣は手配するかい?」
「いや、予備は部屋にあるからいいっすよ。お気遣いありがとうございます!」
「分かった。ではすぐにタングライトを用意させよう」
思えば素材が手に入ったとて、一朝一夕に直るものでもないだろう。こうした気遣いも、デキる商人の嗜みなのかも知れない。
カイルはタングライト鉱石の入った袋を受け取りつつ、3人はラッセルに見送られながら商会を後にした。
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夕方、鍛冶屋『ボルカン工房』
——オークがいた。
正確に言えば、金床で赤熱した鉄塊に槌を振り下ろす、鍛冶師のオークがいた。
オークと言えば、ファンタジーでは定番の豚獣人的な魔物である。
そう言えばローヴェンに来た最初の日、門番のエイダンから言われたことを思い出した。
こうして目の当たりにするまで実感が湧かなかったが、本当に街で働く魔族は存在したのだ。
「ボルカンのおっちゃん、おつかれ~!」
「おうカイル。今日は裏の作業場にいねぇと思ったら、仲間と仕事にでも出てたんか?」
「いやぁ前も話した通り、素材のタングライトを求めていろいろやってたわけよ! ちなみに明日からカレント行く」
「はん! あっちこっちフラフラしやがって、良いご身分だぜ」
カイルの顔の広さには本当に驚かされる。
ボルカンと呼ばれたオークの鍛冶師は、カイルに悪態をつきながらも鉄塊を叩く手は止めず、工房内には重厚な金属音が響いていた。
「おっちゃんに紹介するよ。こっちがリクで、こっちがラフィーネ」
「ども。よろしくお願いします」
「よろしく」
「おう、鍛冶師のボルカンだ。見ての通り手が離せねぇから茶のひとつも出せねぇが、まぁカイルの仲間ってんならゆっくりしていきな」
リクはぺこりと軽く頭を下げる。ボルカンは槌を振るいながら横目に2人を見るが、ラフィーネを目にした時、一瞬だけ手が止まったように見えた。
ほんの少しだけリズムが変わった程度の間、その後は表情も変わらず鉄塊を打ち続ける。
「で、その袋の中身はタングライトか? よく見つかったもんだな」
「ラッセルさんのとこで何とかね! だからコイツの打ち直しを頼むぜ」
カイルは腰に掛けてた剣を抜いて、ボルカンに鉱石と一緒に差し出す。
ちょうど作業がひと段落したボルカンも、受け取ってそれぞれの状態や品質などを見極めているようだった。
「おめぇ明日にはカレントに向かうって言ってたよな? 分かっちゃいると思うが、さすがに打ち直しは間に合わねぇぞ?」
「そこは分かってるって。剣は予備の方で行くし、1週間は帰って来ないから!」
「暗にその納期でやれって言ってやがるな。ったく!」
「そゆこと! あ、支払いは来月の手伝い分でよろしく!」
「けっ、こき使ってやるからな?」
「人使い荒いのいつものことじゃん」
その後に聞いた話では、カイルは冒険者の仕事が無い日は、ここに来る事が多いようだ。
工房の仕事を手伝ったり、間借りしている裏の倉庫を作業場にして、魔石加工や機巧製作をやっているらしい。
いずれはクラフトにも手を出してみたかったので、作りたいモノが出来たらカイルやボルカンに相談してみよう。
そうこうしている内に日も傾いて来たので、3人はそれぞれの宿に戻ることとなった。
明日からはついに何泊もかけての長距離移動、初めて訪れる街。
魔物の事も気にはなるが、新しい冒険に心躍らせるリクだった。




