閑話
宴の帰り、リクとラフィーネが泊まる部屋。
カイルが持ち寄ったエールによって、イビルディアー討伐記念の宴は夢心地に終わった。
久しぶりの酒で楽しい気分になれたし、意外にもラフィーネがエールの味を気に入ってよく飲んでいた。
もし彼女の酒癖が悪くて暴れたら……
なんてまずい状況が過りもしたが、新しい味を知りたい純粋な気持ちを無碍にも出来ない。
結果的にいつもよりウトウトするのが早かったくらいで、最後には無防備にもぐっすり寝てしまった。
揺らしても起きないくらいには眠りが深かったので、仕方なく部屋まで背負って戻ったのである。
カイルが分かれ際に何か余計な事を言っていた気もするが、そこはスルーを決め込んだ。
「よいしょっと」
リクはラフィーネを彼女のベッドに降ろして、丁寧に横たわらせる。
背負ってみて分かったが、ラフィーネの身体は本当に軽い。
彼女を人間として見るなら、少し小柄で華奢な女の子と言う印象だが、体重もそのスケールに収まっている。
イビルディアーを一撃で沈めたあの力は、いったいどこから来たのだろうか。
今さらな疑問を浮かべたりしながら、横たえたラフィーネに布団をかけようとした時、彼女の手が何かを探るように動く。
それはリクの服をキュッ——と掴んで、抗えない力で引き寄せた。
「え、ちょ!?」
急に視界が横転したリクの目と鼻の先に、ラフィーネの小さく綺麗な顔がある。
引っ張り込んだ当の本人は、唇からすぅすぅと寝息を立てていた。
リクは当然、自分のベッドで寝るつもりだったので、起こさないようゆっくり離れようとする。
しかしラフィーネのベッドから出られそうかと言う直前に、今度は視界が3周くらい回る。
その瞬間は宙に浮いてしまうほど、急激な回転だった。
目の前にはまた、気持ちよさそうに寝息を立てるラフィーネの顔。
リクの四肢はスマキみたいに、まとめて何本かの糸で括られていた。
完全に自由を失ったわけではないが、逃れるのは困難だ。
転がり出るのも防ぐかのように、ラフィーネが両腕で抱き枕のように掴んでいる。
痛いとか苦しいとかはないのだが、徹底的に逃げを塞がれているのだ。
「ちょっ、ラフィーネ! さすがに離せって」
もう起きないようにとか悠長なことも言っていられないので、身体を揺らしながら普通に声をかける。
だがその度に……
「んんっ、リク……お腹いっぱい、しか肉」
全く起きる気配がないし、より密着するように抱き着かれている気がする。
「いい、におい」
夢に見てる鹿肉の話だよな? と思いつつ、鼻先を首筋に這わせながら言われると、心臓が騒いで治まらない。
リクの顔には彼女の髪や耳の辺りが擦れて、ほんのりと甘い香りが鼻腔をくすぐる。
もはやリクには成す術がなかった。
抵抗すれば引き寄せられ、逃れようにも糸で自由に身動きが取れない。
もう心を落ち着かせて、ラフィーネが起きるまで心頭滅却するしかない。
なんて思った矢先に、今度は彼女に顔を埋められていた首筋がぞくりとする。
——暖かいような、少し湿ったような感触。
「おい、しい。……はむはむ」
角度的に見えないが、首筋を柔らかい唇で食まれていた。
痛みはないが、ほとんどキスされてるような感触に身体が震える。
「うっ、ちょっと!」
「ロースト? はむ……アヒー、なんだっけ。はむほむ」
もう頭の中がどうにかなりそうだった。
こんなに密着しているのに押すも引くもままならず、これを甘受するしかない。
リクはその夜、ラフィーネが再び深く眠るまでその感触に耐え続けた。
翌朝。
「リク、おはよ」
ラフィーネは寝ぼけているのか、お互いがどんな距離感で密着していたのか、いまいち分かっていない様子だった。
対するリクはようやく解放された安堵と、ほとんどまともに眠れなかった疲労でげっそりしている。
戦っていたのだ。いろいろなものと。
「悪いラフィーネ。昼までちょっとゆっくりさせて欲しい……」
リクはふらふらと起き上がり、自分のベッドに倒れ込んだ。
今後ラフィーネに酒を飲ませるのは、絶対にやめよう。
固く誓うリクであった。
個人的にちょっと"攻め"要素のあるヒロインが好きです。
1章本編を含め、ここまでお読みいただきありがとうございました!
現在2章のプロットは出来て、執筆も進めております。
少々期間は空きますが、ゆるゆるとお待ちいただければ幸いです。
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