第15話
ローヴェン近郊、静かな川原。
雷撃をまとう巨大鹿『イビルディアー』との戦いから2日。
3人は慌ただしい時間を過ごしていた。
報酬の件でギルドと話したり、昨晩は宴会で引っ張りだこにされたり。
今日は素材の買取交渉とか、分配をどうするかとか、調整ごとが多かった。
最終的にギルドからの討伐報酬は、少し上乗せがあって金貨35枚。
素材の買取については、折れてないツノ1本を含め、その他の換金部位も合わせて金貨50枚になった。
折れた方のツノと言えば、カイルが加工素材として引き取ることになる。
ちなみに肉は3人で食べたい分を残して、あとは遺体を運んでくれた冒険者達に全てお裾分けだ。
「なぁカイル。ほんとに金貨5枚とそのツノだけで良かったのかよ?」
「何言ってんだ! 経費と剣の修理代には充分だし、むしろもらい過ぎだっての」
カイルからすれば、実際にあのバケモノを倒したのはラフィーネである。
しかし当のラフィーネは、金銭とか交渉みたいなものに全く興味が無い。
必然的にリクとカイルの間で話し合いになったわけだが、当初は概ね山分けくらいを提案していた。
しかしカイルの方から「それでは気が済まない」と言い出し、討伐報酬の増額分しか受け取ろうとしなかった。
さすがにリクも不平等が過ぎると感じたので、半ば押し付けるように欲しい素材をカイルに選ばせた。
本当は折れてないツノでも良かったのだが、そこも記念とか言い出して、折れてる方を希望したのだ。
「それによ、リクが金持ってりゃもっと美味い飯にありつけるだろ?」
「それが魂胆かよ! 次からは有料にしてやろうかな~」
「って、お前にそれ言われたら頭上がんねぇって!」
「冗談! 俺はまともに戦えないし、飯で喜んでくれるなら安いもんだよ」
「そう来なくっちゃな!」
こんな軽口混じりだが、カイルがこれからも一緒に冒険する前提だったのが嬉しかった。
ラフィーネもカイルも、時折困ったところはあるが、本当に頼りになる仲間だ。
この異世界で2人と出会えたことは、リクにとって幸運だった。
日も傾いてきて、少し早めの夕飯にはちょうど良い時間になる。
いざ調理を始めよう!
リクは荷物から、紙に包まれたイビルディアーの塊肉を取り出した。
2日経って生肉のままだが、実は討伐隊に氷魔法の使い手がいたことと、ギルドの冷蔵室を借りられたおかげだ。
むしろ硬直も解けて、柔らかくなった肉を存分に味わうことが出来るだろう。
他にも地物の野菜や、取り分けていたホルモン類などもテーブルに並べていく。
今晩のメインは、鹿肉ローストと鹿ホルモンのアヒージョだ!
まずは常温に戻った頃合いの塊肉に下味を付けていく。
フォークでザクザクと穴を空けて、塩コショウにBBQスパイスを塗り込む。
アヒージョについては、タン、ハラミ、ハツ等のホルモン類をごろごろサイズに切り分けていく。
ニンニク、オリーブオイル、鷹の爪なども、名前は変われどこの世界にあって幸いだった。
ラフィーネは不満げな顔をするかも知れないが、野菜とキノコもばっちり放り込もう。
カイルが面倒を見ていた炭火の火力も安定してきたので、まずは塊肉を網に乗せた。
焦げない程度にひっくり返しながら、慌てず急がず火を入れていく。
普通の鹿なら生焼けなどもっての外だが、イビルディアーは狩りたてで刺身にしたほどだ。
焼き過ぎて硬くするくらいなら、ミディアムレアで出してしまった方がずっと良いだろう。
それに味付けには市場で見つけた秘密兵器もある。
辺りには塊肉の焼ける香ばしい匂いが充満し、ラフィーネとカイルも興味津々で寄って来た。
「いいにおい」
「やべぇ、こんなの余計に腹減っちまうって!」
「正直焼いてる俺もかなりやばい」
「はやく、たべよう!」
「はいはい、美味しくなるまでもうちょい待ってな~」
「きたいしてる」
ラフィーネもリクと過ごした事により、美味しい料理には時間が必要だと学びつつある。
本当は手間もかかると言う事も、いつか体験させて知ってもらおう。
そうして塊肉は良い焼き色になってきたので、一旦網から上げてしばらく休ませる。
その間に下拵えの済んだアヒージョも火にかけていこう。
スキレットにオイルを引いて、にんにく、鷹の爪を炒めてから、鹿ホルモンを投入して塩コショウを振る。
火が通ってきたら追加のオリーブオイルでひたひたにして、角切り野菜やキノコも投入。
中には採掘場までの道中で食べた『山脈いも』も入っており、良い食感を出してくれるだろう。
煮込み過ぎない程度に熱が入ったら、アヒージョは完成だ!
この時間で鹿ローストの方も、充分休まったことだろう。
まな板の上に塊肉を置き、薄くスライスして皿に載せていく。
鹿ローストらしい桃色の層と、中心部に少しだけ鮮やかな赤が残っている。
リクとしては狙い通りの火加減だった。
ここで新たに仕入れたおろし金と、地物野菜の『スタブラディッシュ』を用意する。
西洋わさびのような見た目だが、突き抜けるような辛みは本わさびの面影もあった。
醤油と合わせれば、引き締まった旨味をダイレクトに感じられるだろう。
こうして、あの戦いを乗り越えたご褒美メシが完成する。
『イビルディアーの炭焼きロースト ~異世界わさび添え~』
『鹿ホルモンと地物野菜のごろごろアヒージョ』
「お待ちどうさん!」
リクはローストを各々の皿に盛りつけて、アヒージョはテーブルの真ん中にスキレットごと置く。
「おおおおおおーー!!!」
「わぁ!」
カイルとラフィーネは本当に光ってるんじゃないかと思うほど、目を輝かせていた。
リクの方も目の前で良い匂いを浴び続けたため、もう空腹は限界だ。
「「「いただきます!」」」
日も落ちた静かな川原に、3人の元気な掛け声が響いた。
「うわっ! めっちゃ美味い」
意外にも第一声を発したのはリクだった。
不思議に思って2人の様子を見ると、各々に美味を噛みしめている。
「俺さぁ! あん時こいつのツノを防いでさぁ! ……生ぎででよがっだぁ~!!」
すごい顔をしながら食べるカイルにちょっと噴き出しそうだが、確かにヒヤリとした瞬間もあった。
カイルにとっては、本当に命のやり取りをした相手を改めて喰っているのだ。
きっと味だけでは語りつくせない感情があるのだろう。
一方知りうる限りで頂点捕食者のラフィーネは、夢中で咀嚼していた。
鹿ローストの旨味をじっくり堪能している。わさびの刺激も口に合ったようだ。
アヒージョもホルモンのみならず、野菜もちゃんと……5個に1個くらいは食べてくれている。
——むぎゅ、むぎゅ、もぐもぐ。
「どう? ラフィーネ。美味しい?」
彼女はもぐもぐしていた中身をゆっくり飲み込んでから、リクの方を向く。
「リクはやっぱり、すごい……おいしすぎて困る」
なぜか少し頬を赤らめて、照れるような表情を見せた。
「そ、そっか! それなら作った甲斐があったかな」
どういう感情なのか分からないけど、美味しかったなら何よりだ。
こうして愉快な仲間達の夜がふけていく。
カイルが途中でエールの酒瓶を取り出した時は、正直どうなることかと思った。
幸いラフィーネが暴走するとか滅多な事は起こらず、3人の宴は平和にお開きとなった。
帰り道にリクは、ほろ酔い気分で満点の星空を見上げる。
最初は休暇で、ソロのアウトドアが楽しめれば十分だった。
それがなぜか異世界に飛ばされて、仲間と出会って冒険して、ご飯を一緒に食べている。
今のところ日本に帰る手立ては見当たらない。
ならば開き直って、この世界のいろんな景色、食材、アクティビティを満喫しよう!
便利な道具を作ったり、みんなの居場所になる拠点なんかも建てられたら、きっと楽しいだろう。
次はどんな冒険が待っているのだろうか?
1章の本編はこれにて終了です。
まずはここまでお読みいただき、本当にありがとうございました!
毎日投稿は少しの間お休みになりますが、数日内にリクとラフィーネが宿に戻ってからの閑話を投稿する予定です。
また執筆の励みになりますので、★やリアクションなどもいただけると大変喜びます!
今後もこの作品が、皆様のちょっとした息抜きになれますように。
深嶋ねむり




