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異世界アウトドア紀行 ~食べて作って、愉快な仲間と気ままな冒険~  作者: 深嶋ねむり
第1章 -出会って、食べて、狩りをして-

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第13話

 岩塩の採掘場、岸壁付近。


「何とか生き残ったな。痛ってて……」

「大丈夫かよ、カイル」

「心配かけちまったな! ちゃんと剣で受けたし、転がってかすり傷程度なもんよ!」

 そう言ってニカっと歯を見せながら掲げた剣は、お得意の魔石機巧が凹んで異音を奏でていた。

 赤と青の魔石が組み込まれていたと思うが、赤だった方は割れて黒ずんでいる。


「あ……! 俺の『ギガント両断システム/プロトⅢ』がぁ!!」

 ネーミングにツッコミたいところはあるが、涙目のカイルに追い打ちをかける気にはなれなかった。

 魔石機巧を剣に組み込むのがどれだけの手間暇か分からないが、壊れて男泣きするほどの代物だ。

 きっと眠れない夜もあったろう。と、リクは黙ってカイルの肩に手を置いた。


「にしてもよ、どうやってこのバケモンをこんなにしちまったんだ?」

「えっと、それは……」

 やはりこの話題は避けられないか。


「確か吹っ飛ばれて、起き上がろうとしたらいつの間にかラフィーネが前の方にいて、あとは——」

 状況を思い出しながら語っていくカイルをよそに、リクの裾がくいくいと引っ張られる。


「お肉、食べないの?」

 ラフィーネにとって、リクの複雑な心境などどこ吹く風だった。

 自分に向けられている疑問にも興味は無いようで、脳内は肉の事で一杯だろう。

 

 いつもなら少し呆れるところだが、今この場では正直ありがたい。


「えっとラフィーネ。カイルがいろいろ気にしてるみたいだからさ、あとで少し話しても良い?」

「ん? リクが話したいなら、いいよ」

 予想通りではあるが、あっけらかんとした答えである。

 

 思えば彼女があまりにも異質だからと、リクの感覚で彼女の判断を狭めていただけかも知れない。

 ほんの少しだけ、リクはため息をついてカイルに向き直った。

 

「えっと、その事については後で話すから、今はあれ何とかしない?」

 リクは親指を立てて、横にあるイビルディアーの死体を指し示す。

「確かにな! 解体しねぇとそのまま持って帰れねぇし」

「そうそう。それにカイルだってアイツの味、気になるだろ?」

「そりゃモチロンよ! 期待してっからな大将!」

 そう言ってリクの背中をバンと叩いたかと思えば、おもむろに肩を組む。


「今は言う通りにしとくぜ。あとでちゃんと話してくれよな」

 リクは神妙な面持ちのカイルに目線を向けて、小さく頷いた。


 そうと決まれば、仕事の時間である!

 

 リクはレベルアップしていた『神眼Lv.2』で、その遺体を注視した。


 ---------------------------------------------

 『イビルディアーの遺体』

 特徴:膨大な魔力を内包して角や肉質が変化。

 用途:食用、素材、共に珍品として重宝される。

 状態:雷をまとう性質から寄生虫リスクは無い。

 ---------------------------------------------


 これは要約すると、新鮮なら鹿刺しでいけると仰ってる?


 さらには神眼を発動させたことで、ウィンドウとは別の変化も表れた。

 死体が半透明のように表示され、中身が部位ごとに淡く色分けされている。


 大雑把ではあるが、肉なら黄色、骨格は白色、臓器などは赤色。

 

 リクは鹿を丸ごと捌いた経験など無いが、概ね哺乳類として違和感のない構造だと感じる。

 ホーンラビットの時はこの表示がなかったので、まさに神眼レベルアップの賜物だろう。


 しかし冷静になってみると、困ったことに気付く。

 ツノがあること以外は通常サイズだったホーンラビットと違って、イビルディアーは5メートル以上の巨体だ。

 

 通常サイズも未経験だが、うろ覚えの知識だけで太刀打ちできるものでもないだろう。


 とは言え、この腹ペコ2人を待たせ続けるのも難しい。

 もしリクが匙を投げれば、ラフィーネが骨も内臓もお構いなしで角切りブロックにバラしそうだ。

 

 ——やるしかない!


 意を決して、リクはショートソードを抜いて構える。

 すると半透明で色分けされた表示とは別に、白く光るガイド線のようなものが流れ始めた。

 

 血を抜くため最初に刃を通すべき場所、そこをなぞれば思った結果にたどり着けるかも知れない。

 確信はないが、他に指標も無いので素直に刃を入れる。

 

 半デジタル表示された身体から生暖かい感触が伝わって来て、頭がバグりそうになるも意外と冷静だ。

 

 1つ目のガイド通りに切り裂けば、今度は別のガイド線が刃を誘導する。

 これも素直に従って切り裂いていく。するとまた次の線が現れてそれをなぞる。

 

 無心で肉塊に向き合うリクを目にして、ラフィーネとカイルは目を見張っていた。

 

「すげぇな。手慣れた冒険者か職人みたいに切り分けてら」

「——じゅる」

 感嘆の他に水っぽい音も聞こえた気がするが、リクの集中は揺らがない。

 

 至近距離でじっと見れば分かる程度だが、リクの瞳はほんのり青白く発光していた。

 今この世界この場所でしか味わえない、未知の体験の虜になってしまったのだ。


「そっか、すぐ食べるならこの辺を……」

 『神眼Lv.2』は、求める結果を得るため最適な線を引く。

 数分もしない内に、リクの左手には新鮮なロース肉の塊が乗っていた。


「カイル、まな板とフォークを出して。ラフィーネは包丁……いや腰のナイフちょうだい」

「お、おう」

「わかった」

 研ぎ澄まされた雰囲気を放つリクの言葉に、2人は自然と従ってしまう。


 リクは受け取ったまな板の上に鹿肉を載せて、ラフィーネのナイフで刺身にしていく。

 

 味付けはしょうがやごま油でもあれば最高だったが、あいにく手元にはない。

 醤油はまだ残りがあるので、切り分けた刺身の半分くらいにざっと回しかける。

 

 そしてここは、岩塩の採掘場だ。

 

 採掘抗の入口に近いこの場所には、運び出されて放置された塩の塊が積んである。

 手頃なサイズの塊を持ち上げて、ナイフでざくざくと削っていく。

 この間にも神眼で見たので、品質に問題が無いことは確認済みだ。


「お待ちどうさん!」

 リクは『イビルディアーの鹿刺し盛り』を2人に差し出した。

 リクの眼から青白い光は消えていき、高揚感みたいなものも次第に落ち着いていく。


「お、おう。なんつうか、すげぇな」

「いつものリクじゃないみたい、だった」

「あれ? 何か夢中になってたみたいだわ」

 さすがの2人も、リクの様子に驚きを隠せなかったらしい。


「てか、生で食うの? これ」

 カイルの戸惑いは最もだ。野生動物の生食は普通なら高リスクである。

 そもそもこの世界では、生食文化そのものに抵抗があるかも知れない。

 

 対してラフィーネの方は何となく分かっていたが、全く抵抗感がなさそうだ。


「すごい電撃まとってたし、このまま食べてもいけるはず。嫌なら俺とラフィーネで食べるけどな」

「……リク、もう待てない。食べるよ? いただきます!」

 カイルを煽る横で、ラフィーネは待ちきれずにひと切れ「はむっ」と口に含む。


 ——!!!!


 無言だ。無言でゆっくり、噛みしめている。

 リクもフォークでひと口放り込んで、ゆっくり噛む。じっくり噛む。


 脂は鹿肉らしくさっぱりしており、牛肉のような濃い旨味も感じられる。

 少しだけ野性味のような、特有の匂いも感じられるが、決して旨味を邪魔するものではない。

 歯ごたえのある食感も、今はアクセントに感じられて心地いい。

 

 時間を置いて熟成させてみても、また違う味わいが楽しめるだろう。


 2人が幸せそうに味わっている様子を見て、カイルも恐る恐るひと切れ口にする。

 カッとつむっていた目が見開かれ、咀嚼する度に硬かった表情は綻んでいった。


「わっ……わぁ……うめっ、うめぇよ。これ」

「カイルも良さが分かってくれたか~」

 味や食感は勿論、この感じなら生食も初めての体験だったのだろう。

 リクだって食材として扱ったことはあっても、捌きたてを生で食べた事など勿論ない。

 

 特別な経験を3人で共有できたことが、何だか嬉しかった。


 

 食べ終わった後は、改めて残りの部位を下処理していく。

 ひと段落ついたところでカイルは、リクとラフィーネに真剣な眼差しを向けた。


「そろそろラフィーネのこと、聞いても良いよな?」

あとがき


※野生動物の生食を推奨するものではありません!


ちょっとワイルド過ぎたかも知れませんね。

熱を通した料理シーンも、後にご用意しております。

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