第12話
岩塩の採掘場、岩陰にて。
話が違うんだが?
リクは心で悪態をつきながら、採掘抗の入口付近にいる巨大な鹿を陰から見つめていた。
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『イビルディアー』
ワイルドディアー属 ドレッドディアー種 変異体
STR:A
AGI:B
DEX:A
INT:E
HP:A
MP:C
スキル:雷撃突進
危険度:A
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そもそも名前が違うし、変異体の文字がとても引っかかる!
ホーンラビットの時は〇〇種の後に何もついていなかった。
思い返すとラフィーネには、アラクネ種の後にロードが付いている。
おそらくだが、その種族の中で特殊な個体に追記されるのだろう。
それにギルドではドレッドディアーの危険度はBランクだと聞いていたのに、コイツはAランクになっている。
ギルド基準と神眼基準でランクは同等か? と言う疑問は残るが、この際そこは置いておこう。
明らかに目の前の巨大鹿は、当初聞いてた相手より強敵だ。
角が広く大きいことで有名なヘラジカのような見た目。5メートル以上はあろうかと言う巨躯。
そして悍ましいのは、その凶器的な角にべったりと血を塗りたくったような跡がある。
そう言えば何人か吹っ飛ばされたってギルドでも言ってたような……
「なぁカイル。俺あの鹿初めて見るけど、様子が変だし撤退もありじゃないか?」
「おいおい、ここで諦めたらその内に街から討伐隊が来ちまう。その前に挑んでみてぇんだよ!」
ここまでの会話で感じていたが、カイルは実力を認めてもらう事に執着があるのかも知れない。
その理由は本人が語らないので知る由もないが、きっとカイルにとって大事なことなのだろう。
正直すごくやめさせたい。
ここまで3人で平穏無事にやって来られたが、もしラフィーネが力を振るうことになれば……
「リク、食べないの?」
そんな心配をよそに、ラフィーネはいつものマイペースだった。
Aランクの変異体を前にして、彼女の関心は勝てるかどうかではなく、食べるか否かなのだ。
カイルと同調していきなり突っ込んだりしないだけマシだが、リクの苦悩はあまりご理解いただけてないらしい。
「リク、ラフィーネ。一太刀も入れずに撤退なんて俺には出来ねぇ! もしヤバくなったら逃げてくれ!」
「ちょっ! 待てカイル!!」
勝手に意を決したカイルが、隠れていた岩陰から飛び出してイビルディアーに向かっていく。
数瞬遅れて、リクもショートソードを抜いてカイルの事を追いかけた。
正直、前線で何か出来るわけではない。
それでもリクはカイルを引き止めたかったし、出来れば引きずって逃げたいくらいの気持ちだった。
カイルが剣を抜いたところを初めて見る。
その刀身は殆どが機械で覆われていて、真ん中に魔石が組み込まれた複雑なデザインだ。
魔石は赤と青の2つが強い光を放っている。おそらくカイルは、前進しながら魔力を込めていた。
「っしゃぁ! ぶっこんでやるぜぇ!!」
敵の数メートル手前で大きく飛び上がり、剣を上段に振り上げた。
突然現れて飛び掛かって来たカイルに対応が遅れたのか、イビルディアーはそのまま巨大な角で受けの姿勢を取る。
——カチリ。
振り上げたまま、カイルは柄に仕込んでいたトリガーを引く。
すると刀身から強烈な蒸気が噴き出し、カイルが体重を乗せて振り下ろすのと同時に加速する。
硬い物が打ち付け合う豪快な音と共に、重い一撃を受けた角は、軋んで一部がへし折れた。
しかし折れたのは2本ある内の1本。しかもその一部分だけだ。
見方によっては折れたと言うより、欠けたと見る方が正しいかも知れない。
少しひるんだイビルディアーも、すぐ体勢を立て直してカイルを睨みつけた。
すぐさま、血塗れた悍ましい角には電撃が集まってくる。
イビルディアーは同時に低くかがんで、突進の姿勢を取り始めた。
「あ、やべ……」
カイルが短く呟いた時には、電撃で白く発光した角が目前に迫っていた。
何とか直撃を避けるために、彼は角の軌道に剣を差し込んで攻撃を凌ぐ。
それでも暴力的な力で、カイルは転がりながら10メートル以上は吹っ飛ばされた。
本当にあっという間だった。
しかもその『雷撃突進』は、1人吹き飛ばしたところで勢いが衰えない。
連鎖的に近くの敵を次々と屠って行く。かなり危険性の高いスキルだったのだ。
カイルが最前線を強制離脱した今、不意に最も前に出てしまっているのはリクだ。
これまたまずいと思った時には、目前に白く発光する雷をまとった角。
終わった——と、リクは目をきゅっと閉じた。
直後に襲い来る痛みを覚悟する。
しかしその時は訪れず、リクは閉じた目をゆっくりと開けた。
数メートル手前には、ラフィーネが何事もなく佇んでいる。
華奢で一見戦いとは無縁にも見える少女。あの凶悪な角は停止して、彼女に触れることすらない。
再びの轟音。先ほどよりも鈍くて暴力的な音。
気が付けば、イビルディアーは近くの岸壁に身体を打ち付けて絶命していた。
正確に言うと身体がまだ震えているが、その巨大な角と突進にも耐えうる強靭な首が、あらぬ方向にひしゃげている。
あれが危険度の高い魔物と言えども、鹿ならば頸椎の破壊は致命的だ。
ひと呼吸してからラフィーネの方を向くと、いつもの無機質な表情でそこに立っている。
彼女は棒立ちのまま腕だけで拳を横に振って、イビルディアーをはたいたのだ。
あまりに圧倒的で、理不尽なまでの力の差。
リクは思わず、息を飲んで彼女を見つめてしまう。
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『ヴェルグラフィーネ・アラクネ=ロード』
アリアドネ属 アラクネ種ロード
STR:SS
AGI:-
DEX:-
INT:-
HP:S
MP:-
スキル:解析不能
危険度:SSS
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あれ? 見える情報が増えている気がする。
ラフィーネと出会ったばかりの時は、ステータスの全てが解析不能だった。
今も全て見えるわけではないが、STR(力)のランクを見るに、やはりS以上は圧倒的なのだろう。
これが見えるようになったと言う事はもしかして……
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『リク・タテイシ』
ヒューマン属 ヒューマン種
STR:D
AGI:D
DEX:B
INT:C
HP:C
MP:E
スキル:神眼Lv.2
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神眼のレベルが上がっていた!
おそらくだが、レベルアップによって見える内容が変わってくるのだろう。
なぜ上がったのかよく分からないが、きっとイビルディアーと戦ったことは関係あるはずだ。
とは言ってもリク自身は戦闘に貢献した手応えが無いので、やや複雑な心境ではある。
もしかしたら、Lv.2では他にも見えることや分かることがあるかも知れない。
一連の出来事で呆気に取られていたが、改めてリクは戦後処理と言うか、事後処理に頭を切り替えた。
カイルは無事。
ちゃんと受け身を取っていた様子は見えたので、上手く凌いでいたようだ。
打ち付けた腰を少し痛そうにしながら立ち上がる。
もう1つは、もう微動だにしなくなったイビルディアーの死体。
このまま無造作に転がしておくわけにもいかないだろう。
何にしても、想定外な強敵との初めての戦闘は、無事に幕を閉じたのである。




