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異世界アウトドア紀行 ~食べて作って、愉快な仲間と気ままな冒険~  作者: 深嶋ねむり
第1章 -出会って、食べて、狩りをして-

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第12話

 岩塩の採掘場、岩陰にて。


 話が違うんだが?

 

 リクは心で悪態をつきながら、採掘抗の入口付近にいる巨大な鹿を陰から見つめていた。


 ---------------------------------------------

 『イビルディアー』

 ワイルドディアー属 ドレッドディアー種 変異体

 STR:A

 AGI:B

 DEX:A

 INT:E

 HP:A

 MP:C

 スキル:雷撃突進

 危険度:A

 ---------------------------------------------


 そもそも名前が違うし、変異体の文字がとても引っかかる!

 

 ホーンラビットの時は〇〇種の後に何もついていなかった。

 思い返すとラフィーネには、アラクネ種の後にロードが付いている。

 おそらくだが、その種族の中で特殊な個体に追記されるのだろう。


 それにギルドではドレッドディアーの危険度はBランクだと聞いていたのに、コイツはAランクになっている。

 ギルド基準と神眼基準でランクは同等か? と言う疑問は残るが、この際そこは置いておこう。

 

 明らかに目の前の巨大鹿は、当初聞いてた相手より強敵だ。


 角が広く大きいことで有名なヘラジカのような見た目。5メートル以上はあろうかと言う巨躯。

 そして悍ましいのは、その凶器的な角にべったりと血を塗りたくったような跡がある。

 

 そう言えば何人か吹っ飛ばされたってギルドでも言ってたような……


「なぁカイル。俺あの鹿初めて見るけど、様子が変だし撤退もありじゃないか?」

「おいおい、ここで諦めたらその内に街から討伐隊が来ちまう。その前に挑んでみてぇんだよ!」

 ここまでの会話で感じていたが、カイルは実力を認めてもらう事に執着があるのかも知れない。

 その理由は本人が語らないので知る由もないが、きっとカイルにとって大事なことなのだろう。


 正直すごくやめさせたい。

 ここまで3人で平穏無事にやって来られたが、もしラフィーネが力を振るうことになれば……


「リク、食べないの?」

 そんな心配をよそに、ラフィーネはいつものマイペースだった。

 Aランクの変異体を前にして、彼女の関心は勝てるかどうかではなく、食べるか否かなのだ。

 カイルと同調していきなり突っ込んだりしないだけマシだが、リクの苦悩はあまりご理解いただけてないらしい。


「リク、ラフィーネ。一太刀も入れずに撤退なんて俺には出来ねぇ! もしヤバくなったら逃げてくれ!」

「ちょっ! 待てカイル!!」

 勝手に意を決したカイルが、隠れていた岩陰から飛び出してイビルディアーに向かっていく。

 数瞬遅れて、リクもショートソードを抜いてカイルの事を追いかけた。


 正直、前線で何か出来るわけではない。

 それでもリクはカイルを引き止めたかったし、出来れば引きずって逃げたいくらいの気持ちだった。


 カイルが剣を抜いたところを初めて見る。


 その刀身は殆どが機械で覆われていて、真ん中に魔石が組み込まれた複雑なデザインだ。

 魔石は赤と青の2つが強い光を放っている。おそらくカイルは、前進しながら魔力を込めていた。


「っしゃぁ! ぶっこんでやるぜぇ!!」

 敵の数メートル手前で大きく飛び上がり、剣を上段に振り上げた。

 突然現れて飛び掛かって来たカイルに対応が遅れたのか、イビルディアーはそのまま巨大な角で受けの姿勢を取る。


 ——カチリ。


 振り上げたまま、カイルは柄に仕込んでいたトリガーを引く。

 すると刀身から強烈な蒸気が噴き出し、カイルが体重を乗せて振り下ろすのと同時に加速する。

 硬い物が打ち付け合う豪快な音と共に、重い一撃を受けた角は、軋んで一部がへし折れた。


 しかし折れたのは2本ある内の1本。しかもその一部分だけだ。

 見方によっては折れたと言うより、欠けたと見る方が正しいかも知れない。


 少しひるんだイビルディアーも、すぐ体勢を立て直してカイルを睨みつけた。

 

 すぐさま、血塗れた悍ましい角には電撃が集まってくる。

 イビルディアーは同時に低くかがんで、突進の姿勢を取り始めた。


「あ、やべ……」

 カイルが短く呟いた時には、電撃で白く発光した角が目前に迫っていた。

 

 何とか直撃を避けるために、彼は角の軌道に剣を差し込んで攻撃を凌ぐ。

 それでも暴力的な力で、カイルは転がりながら10メートル以上は吹っ飛ばされた。


 本当にあっという間だった。


 しかもその『雷撃突進』は、1人吹き飛ばしたところで勢いが衰えない。

 連鎖的に近くの敵を次々と屠って行く。かなり危険性の高いスキルだったのだ。


 カイルが最前線を強制離脱した今、不意に最も前に出てしまっているのはリクだ。

 これまたまずいと思った時には、目前に白く発光する雷をまとった角。

 終わった——と、リクは目をきゅっと閉じた。


 直後に襲い来る痛みを覚悟する。


 しかしその時は訪れず、リクは閉じた目をゆっくりと開けた。

 数メートル手前には、ラフィーネが何事もなく佇んでいる。

 華奢で一見戦いとは無縁にも見える少女。あの凶悪な角は停止して、彼女に触れることすらない。


 再びの轟音。先ほどよりも鈍くて暴力的な音。


 気が付けば、イビルディアーは近くの岸壁に身体を打ち付けて絶命していた。

 正確に言うと身体がまだ震えているが、その巨大な角と突進にも耐えうる強靭な首が、あらぬ方向にひしゃげている。

 

 あれが危険度の高い魔物と言えども、鹿ならば頸椎の破壊は致命的だ。


 ひと呼吸してからラフィーネの方を向くと、いつもの無機質な表情でそこに立っている。

 彼女は棒立ちのまま腕だけで拳を横に振って、イビルディアーをはたいたのだ。

 

 あまりに圧倒的で、理不尽なまでの力の差。

 リクは思わず、息を飲んで彼女を見つめてしまう。


 ---------------------------------------------

『ヴェルグラフィーネ・アラクネ=ロード』

 アリアドネ属 アラクネ種ロード

 STR:SS

 AGI:-

 DEX:-

 INT:-

 HP:S

 MP:-

 スキル:解析不能

 危険度:SSS

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 あれ? 見える情報が増えている気がする。


 ラフィーネと出会ったばかりの時は、ステータスの全てが解析不能だった。

 今も全て見えるわけではないが、STR(力)のランクを見るに、やはりS以上は圧倒的なのだろう。


 これが見えるようになったと言う事はもしかして……


 ---------------------------------------------

 『リク・タテイシ』

 ヒューマン属 ヒューマン種

 STR:D

 AGI:D

 DEX:B

 INT:C

 HP:C

 MP:E

 スキル:神眼Lv.2

 ---------------------------------------------


 神眼のレベルが上がっていた!


 おそらくだが、レベルアップによって見える内容が変わってくるのだろう。

 なぜ上がったのかよく分からないが、きっとイビルディアーと戦ったことは関係あるはずだ。

 とは言ってもリク自身は戦闘に貢献した手応えが無いので、やや複雑な心境ではある。


 もしかしたら、Lv.2では他にも見えることや分かることがあるかも知れない。

 一連の出来事で呆気に取られていたが、改めてリクは戦後処理と言うか、事後処理に頭を切り替えた。


 カイルは無事。

 

 ちゃんと受け身を取っていた様子は見えたので、上手く凌いでいたようだ。

 打ち付けた腰を少し痛そうにしながら立ち上がる。


 もう1つは、もう微動だにしなくなったイビルディアーの死体。

 このまま無造作に転がしておくわけにもいかないだろう。


 何にしても、想定外な強敵との初めての戦闘は、無事に幕を閉じたのである。

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