第11話
夕方、ローヴェンからの街道沿い。
リク達は朝に集合してから、北にほぼ1日歩き続けた。
目指すは西部山脈の麓にある岩塩の採掘場である。
カイルからこの世界、正確に言うとこの大陸の地理と、ローヴェン周辺の地図を共有してもらえた。
ローヴェンがあるこの大陸は、まず南北を大きな山脈が横たわるように分断している。
北はラフィーネの故郷である『魔族領』、南側が人族の領域である『諸国連合』と言った感じだ。
更に大陸を分断する山脈は、中心に通る平坦な道。通称『回廊』によって東部と西部の山脈に分かれていた。
ちなみにリクの転移してきた場所は、東部山脈の麓にある大森林だった。
無論、カイルにはまだ異世界人と打ち明けていないので、森の集落出身と言う事にしてあるが。
そしてローヴェンの街は、言わば諸国連合の最北に位置し、最も魔族領と近い街なのだ。
だから辺境とも言えるし、魔族側から見れば玄関口とも言えるわけだ。
100年前までは魔族と人族の間に起こった熾烈な戦争の最前線だったが、現魔王が即位してからは、紛争規模の衝突は起こっていない。
正式な外交は行われていないが、人間を防衛以外で殺した魔族は、問答無用で魔王が処断するらしい。
ラフィーネが以前「ダメって言われてる」と説明していた真意はここなのだろう。
そのため今では、一部の友好的な魔族がローヴェンで商売をする事すら日常の一部になったのだ。
ちなみに知性を持たない魔物は誰からも管理されていない。
魔王の徹底するルールを理解することは出来ないし、そもそも個体数が多すぎる。
この世界ではシンプルに、会話の通じる魔物が魔族と定義されているようだ。
「だから今の世界だと、強力な魔物の方が厄介な存在ってわけだな」
「なるほどなぁ。ほんと森の外には疎かったから助かるよ、カイル」
「まぁ俺はそれなりに教養もあるタイプの冒険者だからよ! 頼りにしてくれて良いぜ」
いつものドヤ顔だ。
そう言えば、無暗に他人に『神眼』を向けるのはやめようと思っていたが、さすがにパーティの一員となったカイルのことは気になる。
リクはそのドヤ顔を呆れた表情で見ながら、カイルのことを注視した。
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『カイル・ランフォード』
ヒューマン属 ヒューマン種
STR:C
AGI:B
DEX:A
INT:C
HP:B
MP:D
スキル:ランフォード流剣術Lv.5
機巧製作Lv.4
魔石加工Lv.2
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結構良いステータスしてんな。
リクはそんなことを思いながら、気になる部分に思案を巡らせる。
自分の家名と同じ剣術? この辺は少し個人的な事情になるかも知れない。
機巧製作と魔石加工は納得感がある。カイルが雑貨屋で委託販売している品には、機械と魔石が組み合わされていた。
きっとこの2つがカイルの職人技的なスキルなのだろう。
「そうだ。もう日も落ちるし、今日のところは野営の準備をしようぜ」
カイルは会話にひと段落ついたところで、道端の程よいスペースを指さして言った。
確かに朝から歩き通しでそれなりに疲労感はある。空腹もひとしおだ。
リクは買い込んだ食料を入れた袋を漁りながら、レシピを考える。
じゃがいもと長いもの中間みたいな特徴の『山脈いも』を取り出した。
粘り気は少ないのでとろろにするには物足りないが、しっとりした食感が楽しめそうだ。
他には元の世界と同じような食品もあり、ハムやチーズなどは手に入って幸いだった。
件の塩も騒ぎが起こる前に買う事が出来たので、3人分でも無駄使いしなければ問題無し。
他にもパスタや米なども仕入れたかったが、お金に余裕は無いので、報酬にありつけたら買うと決めている。
「であれば小麦粉もあるし、山脈いもとハムチーズのガレット風とか良さそうだな」
「お、チーズ使うのかリク?」
野営場所の準備を整えて、カイルが近くまで来ていた。
「ちょうど街で手に入ったからさ、食べ応えあって美味しいかなって」
「だったらよ、せっかくだしこれ使ってみねぇ?」
歯を見せてニカッとしながら、カイルは懐から見覚えのある道具を取り出す。
雑貨屋で委託販売していた物と同じ、携帯式魔石トーチだ!
「え、売り物以外でも持ってたの?」
「そりゃ自分でも使えなきゃ商品になんねぇだろ? 試作品だけど店に委託してるもんと性能は同じだぜ!」
どうりで火起こしまで含めた野営準備が早かったわけだ。
「助かる! せっかくならちょっと香ばしくしてみるか」
「お! 何か思いついたんなら、期待して腹空かしとくぜ」
カイルは満面の笑みで魔石トーチを渡してくれた。
「今更だけど、ナチュラルに料理は俺任せかよ?」
「だってリクの料理は美味いんだろ? ラフィーネだってリクの料理の話する時はよく喋るじゃん」
確かに道中の会話でも、その事に関しては口数が多かった気もする。
今も大人しくしている彼女だが、男2人の会話より目の前の食材に興味津々のようだ。
「おなか、空いた」
「分かった分かった。すぐ作り始めるからちょっと待ってな」
さすがは魔族だけあって疲れた様子は見えないが、空腹だけは平等に襲い来るものらしい。
と言うわけで調理スタート!
まずは山脈いもを適量すりおろして、水と塩と小麦粉に混ぜて生地を作る。
いもはおろした以外にも千切りにして、ハムも適当な大きさにカット。
他には道中で見つけたパセリ替わりの野草も、細かく刻んで別に分けておく。
スキレットに油を引いて、まずは刻んだ山脈いもに軽く火を通す。
軽く焼き色が付いたら、生地を垂らして平たく焼いていく。
端から優しく包むようにしながら、中には刻んだハムもコロコロと投入して、スライスしたチーズも載せた。
このまま火が通って溶けるのを見守るだけでも完成するのだが、せっかく魔石トーチがあるのでひと手間。
スキレットを火元から外して、余熱で柔らかくなって来たチーズの上から魔石トーチをオン!
機巧の中に嵌め込まれている赤と緑の魔石が淡く発光して、トーチの先から火が噴き出す。
まさにこれはガスバーナーだ。
リクにとって炙りの行程は慣れたものである。
今やってるチーズは勿論、肉も魚も様々な物をこれまで炙って調理してきたのだ。
こうして一気に広がるチーズの炙られた香りに、ラフィーネとカイルは待ちきれ無さそうに覗き込む。
程よい炙り加減でトーチを止めて、リクは刻んでいたパセリ風の野草を仕上げに振りかける。
そして出来上がったアツアツのガレットを切り分けて、2人の前にサーブした。
「お待ちどうさん!『山脈いものほくほくガレット』出来たぜ!」
「「おお~~~」」
2人そろってハモるように感嘆の声を上げる。
ラフィーネはこれまでとまた一味違う趣きの料理に、目を輝かせていた。
カイルも熱を通したチーズが初めてではないと思うが、シンプルに目が期待感に満ちている。
「食べていいよね? リク」
「うん、熱いから少しずつ崩して食べるんだぞ」
「「いただきます!」」
「俺も、いただきます」
各々いただきますと言って、ガレットにフォークを入れていく。
リクはいつも通り、スキレットに残した分をそのままほぐして口に運んだ。
——ぱくり。あつっ、はふっ、もぐもぐ。
「おい、しい!」
「うんま!!」
「いけるじゃん!」
ラフィーネ、カイル、リク。それぞれ思うままに美味しさを表現する。
この世界特有の山脈いもが、想像以上に良い味を出していた!
生地に程よい粘り気と風味をもたらし、刻んだ分は食感のアクセントになっている。
そこにハムとチーズのこってりした満足感が加わって、パセリ代わりの野草がキリっと味を締めてくれた。
そしてやはり魔石トーチは良い仕事をしてくれている。
普通に火をかけるのでは下からしか加熱できないので、表面から炙る香ばしさはまた格別だ。
ちょっと使った後に疲労感を覚えるが、きっとMPを少し消費しているのだろう。
「マジでリクって料理上手なんだな!」
「私はずっと言ってる。リクの料理、おいしい」
「いやぁ~、そんな言われると照れるなぁ~」
リクはにへらっと崩れた顔で、後頭部に手をやる。
キャンプ中に異世界まで飛ばされて、最初はぼっちメシだったところから、いつの間にか3人で食卓を囲んでいる。
日本と比べれば不便なことはいくらでもあるが、今はこの新しい仲間達との食事が愛おしいと思えた。
——何事もありませんように。
ラフィーネもいるので滅多なことにならない気もするが、危険な相手には違いないので気は引き締めていこう。
3人で過ごす初めての夜は、ゆったりと平和に過ぎていった。
ここから1章も終盤に差し掛かります!
本編が終わった後には、ちょっとした閑話も投稿予定です。
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