第9話
『鎧の剛腕亭』でめちゃウマなピラフを食したリクとラフィーネは、次に雑貨屋を訪れていた。
これから入用になる小物類であるとか、様々な調味料などを見ておきたい。
店内をざっくり見た感じでは、どれも小銅貨10枚の範囲内で買える物が殆どだ。
リクはいくつかの調味料と保存の効く食材を買い揃えることにする。
肉や魚は外で調達する手もあるわけだし、やはり街に入れたおかげで選択肢が増えるのはありがたい。
用事は済んだので店を出ようと思ったところで、店内の片隅で気になる棚を見かける。
どうやら一点物を扱っている棚のようで、そこだけ他の商品とは区別して並べられた印象を受けた。
近くの表示を見ると、どうやら委託販売の品を置いている棚らしい。
それらはこの世界で初めて見る。機械と呼べそうな品だった。
ここで言う機械とは、スマホみたいな電子機器ではなく、アナログな道具と言ったニュアンスに近い。
工作に詳しくないリクから見ても、製作者がこだわって作ったことが伝わって来た。
『神眼Lv.1』で見てみる。
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『携帯式魔石トーチ』
特徴:5段階で火力調整が可能。
用途:火起こしから炙り工程にも。
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『魔石内蔵保温容器』
特徴:温冷両対応。容量は小さい。
用途:食品等の保温保冷。
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『魔石駆動ポンプ』
特徴:込めた魔力分だけ水を吸い上げる。
用途:水汲みなど。
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リクは説明書きを一目見て直感した。
これは異世界生活のQOLを確実に上げてくれる品々だと!
魔石? をどう扱うのかは未知数だが、もし日常的に扱える道具なら利便性は申し分ない。
トーチはチャッ〇マンとバーナーを組み合わせたようなものだ。しかも手のひらサイズ。
保温容器の方はおかずが1人分入る程度の容量だが、温冷両方に対応は使い勝手が良さそうだ。
ポンプの方は水をたくさん使う必要が出れば、きっと便利さが身に染みるだろう。
どうしてこんな素晴らしい品々が、ひっそりと片隅で売られているのだろうか?
当然の疑問を抱いたリクがその値札を確認する。
トーチは金貨3枚、容器は金貨5枚、ポンプも金貨5枚。
シンプルに誰でも手が出せるような値段ではなかった。
「まぁさすがに高くて手が出せないよなぁ~」
リクが項垂れていると、誰かの手が右肩にポンと置かれる。
少し驚いて振り返ると、そこにはリクと同い年くらいの青年が立っていた。
無造作な茶色の髪を後ろだけ括っている。腰にはまるで委託品と同じような機械仕掛けの剣を携えていた。
そして何かに期待しているかのような、満面の笑みである。
「なぁアンタ、もしかしてどれか買ってくれんのか?」
やはりそうだ。この青年はここにあった委託商品を作った職人なのだろう。
なかなかおいそれと手が出ない商品を食い入るように見つめる人間を見れば、営業をかけたくなると言うものだ。
「いや。本当に良い物だと思うんだけど、さすがに手が出ないよ」
リクは申し訳なさを込めて手を横に振る。変に期待を持たせても冷やかしになるだけだ。
「そっかぁー! 良い物って分かってくれんのか!」
なぜかその青年はリクの言葉を受けて感銘したようだ。
手が出ないの言い回しは遠回しだっただろうか? しかし翻訳はされているから、ニュアンスとしては通じているはずだが。
そうリクが気を揉んでいると、青年はリクの右手を取って強引に悪手してくる。
「驚かせちまって悪かったな。俺は機巧技師のカイル。この道具を作ったのは俺なんだ!」
「やっぱり製作者なんだ。俺はリク。本当に良い物作ってるんだな。金があれば買いたかった」
「いやいや、価値を分かってくれただけでも嬉しいぜ! なかなか良さを分かってくれる客がいなくてさ」
カイルと名乗った青年は、売れなかったことなど隅に置いて、理解されたことの方を喜んでいた。
正直リクも特徴や用途は神眼頼りで認識したわけだが、使い方さえわかれば便利なのはよく分かる。
「そういや後ろの子は? 俺はカイル、よろしくな!」
そう言ってカイルはラフィーネの手も取って軽く握手する。
勢いに押されてリクはその動きを制すことができなかったが、意外なほどにラフィーネはあっさりと握手を受け入れていた。
とは言っても首を傾げて無機質な表情のままで、カイルみたいな相手にどう対応するのか分かりかねている様子だった。
「あー、この子はあんまり喋らなくてさ」
「おっと少し慣れ慣れしかったか。ごめん! 本当に挨拶したかっただけなんだ」
カイルは少し申し訳なさそうに苦笑いして、手をパッと放す。
「いい。私はラフィーネ」
彼女は傾げた首を戻して、自ら名乗ってくれた。
今までを振り返るとだんまりか、下手すれば糸で実力行使の可能性も浮かんでいたので、少し意外だった。
彼女もローヴェンに来てから、リクが人と交流するところを少なからず見ている。
ラフィーネ自身にも感じ方や心境の変化が起こっているのかも知れない。
「そういや2人は冒険者なりたてなんだっけ? ジョブは?」
「俺がサポーターで、ラフィーネがスカウトだな」
「え? ってことはリクよりこっちのラフィーネの方が強いんだ!」
明け透けに言う奴だな——と、リクの中でツッコミたい気持ちもあったが真実である。
「ま、まぁ俺はそう言うのほんと経験なくてさ」
「誰でも最初はそう言うもんっしょ。やってる内に気が変わったらジョブも替えりゃ良いしな」
「そう言うカイルのジョブは何なんだ?」
リクがそう聞くと、カイルは得意げにギルドカードを掲げて見せた。
カイル・ランフォード
Cランク/剣士
なるほど、先輩風を吹かせてきた理由にも納得だ。
リクとラフィーネは初期のEランク。カイルはそれなりに実績を重ねたCランク冒険者なのだ。
「ってわけで、こっからはちょい相談なんだけどさ」
改まってカイルがリクとラフィーネに向き直る。
ここに顔を合わせているのは、剣士、スカウト、サポーター。
バランスは良さそうな気がする。リクはちょっとだけ、この世界で冒険の始まりを予感してしまった。
次の言葉は、そんな勝手な期待を裏切るものかもしれない。でも……
「俺とパーティ組んでみないか?」
カイルは屈託のない笑みで、リクとラフィーネに手を伸ばした。




