第8話
ローヴェンの武器屋。
リクは唸っていた。
戦いの心得が無い自分は、どんな武器を持つのが良いだろう?
この街に来るまではツノ槍を持っていたが、そもそも1度も振るわなかった。
とは言えロングソードともなると、剣道すら経験していないリクには扱いが難しかった。
そうなれば、ショートランスやショートソードと言う選択肢が浮かんでくる。
ちなみに前者はショートと付いていても身の丈以上はあり、決して取り回しが良いとは言いにくい。
となればいざと言う時に扱いやすく、マチェットナイフ代わりに枝を払ったりできそうな後者が良さそうだ。
「リク、まだ?」
既に選び終わったラフィーネの方が痺れを切らしそうである。
リクが彼女の分を選んだのは本当にすぐだった。
ラフィーネにとって武器は飾りにしかならないし、スカウトらしく見せるならダガーナイフが適任だったからだ。
「今決めたからもうちょっと待ってな~」
ダガーナイフとショートソード、ついでに外套も2枚握って店主の元へ行く。
いくらツノが金貨になったとは言え、フルで防具も買うには物足りないから気休めだ。
加えてリクとラフィーネは目立つ格好をしているので、注目を避ける意味合いもある。
「銀貨6枚と言いたいところだが、あんたら素人だろ? 銅貨5枚分だけまけてやる」
不愛想に見える中年男性の店主だが、心はそんなこともないらしい。
「マジですか? ありがとうございます!」
「まぁせいぜい怪我には気を付けな」
店主は少しだけ微笑んで、2人を送り出してくれた。
さて、現状の懐事情を再確認だ。
ホーンラビットのツノと毛皮を換金して、金貨1枚と銅貨5枚の収入。
その場で冒険者ギルド登録を行ったので、実際手元には銀貨8枚と銅貨5枚が残った。
そして今の買い物が銀貨5枚と銅貨5枚だったので、残金は銀貨3枚。
数日の宿と食料には困らない程度だろう。
——くいっ、くい。
裾を引っ張られて振り返れば、ラフィーネが真っ直ぐリクを見つめている。
太陽はちょうどてっぺんに差し掛かる頃。昼食には良いタイミングだろう。
「じゃあ食べられそうな店を探すか」
「うん、お腹ぺこぺこ」
思えばこの世界に来てから他人の料理を食べていない。
リクもローヴェンのお店の味に興味があった。
周囲を見渡せば、手近な場所に庶民的な食堂を見つける。
『鎧の剛腕亭』
何と言うか、開放的でアットホームな見た目をしているのにゴツい名前である。
客入りもそれなりにあるようで、名前の迫力を抜きにすれば地元で愛されているお店の雰囲気があった。
「いらっしゃいませ~」
気の良さそうな40代くらいの女性がトレーを持って出迎えてくれる。
ますます店名の迫力とは違った雰囲気で心和みそうになるが、厨房が見えるとその由来を理解した。
業火、轟音、豪快、まさに剛腕!
髭を蓄えた強面の男が、大型の中華鍋みたいなフライパンを軽々と翻している。
その度に具材とライスが宙を舞い、また吸い込まれるように灼熱のフライパンに収まっていく。
この店名を背負うのはこの男だ。説明不要のアツい光景が目の前にはあった。
「2名様ならそちらのテーブルにどうぞ。ふふっ」
微笑みながら女性は2人を案内して、おしぼりを出してくれた。
一旦厨房に戻って店主と短くやり取りをしている。あの雰囲気を見るに、2人は夫婦なのだろう。
旦那さんが厨房で腕を振るい、奥さんが接客をする店は家の近所にもあったので、リクはほんの少し懐かしさを覚えた。
メニューを見ると、特製剛腕ピラフなるものがイチオシらしい。
「俺はこのピラフにするけど、ラフィーネは食べたいもの何かあった?」
ラフィーネも食い入るように紙のメニュー表を眺めているが、途中で思考停止に陥ってしまった。
見た感じではおそらく読めてはいるのだろうが、きっと名前と実物のイメージが湧かないのだろう。
「迷うなら俺と同じ物にする? この店の看板メニューらしいし」
「じゃあ、それ」
きっと何を基準に決めれば良いか迷っていたのだ。
彼女と出会ってからのことを思い返せば、好き嫌いは激しくないと思うし、その辺の安心感はあった。
「すみません! 剛腕ピラフ2人前でお願いします」
「はぁ~い、少々お待ちくださいね」
奥さんが朗らかに注文を受けてくれた。
旦那さんの方はずっとフライパンを豪快に振っている。
客入りも多いし、看板メニューだからひっきりなしに注文が来ているのだろう。
程なくして2皿のアツアツなピラフがテーブルに置かれた。
バターと鶏ガラスープを纏ってしっとりとした質感に、ほんのりとスパイスの香りも漂って来る。
カットしたソーセージなども盛られていて、とても満足感の高そうな一品だ。
「もう食べていいの?」
ラフィーネは待ちきれ無さそうにスプーンを持ってリクを見つめる。
「うん。熱いから気を付けてな。じゃ、いただきます!」
「いただき、ます!」
ひと口。
「おいしい!」
「うまいっ!」
程よい硬さのライスに絡まったバターと鶏ガラのコクは、食べ進めるほど満足感を高めてくれる。
口にする前から香っていたスパイスは、辛みのアクセントと言うより、食欲をかき立てる香り付けだ。
更にソーセージのインパクトも空腹にダイレクトな衝撃を与えてくる。
まさにその剛腕で頼もしく包まれるような、親しみと喜びの味だった!
ぱくり、ぱくり、もぐもぐぱくぱく。
ラフィーネの方も夢中になってピラフを頬張っている。
顔も口も小さいからひと口の量は少ないが、いつの間にか結構な量を平らげてしまうのだ。
「おいしいね、リク」
ホーンラビット肉を食べた時以来の満面の笑みだ。
同じ料理人のリクとしては、ちょっぴり悔しいみたいな気持ちもある。
それでも食事で幸せそうな彼女の笑顔を見るのは好きだった。
「その内俺もこういうの作りたいな」
「楽しみにしてる!」
楽しみにされたとあっては、期待を裏切れないのが料理人と言うもの。
この世界に来てからキャンプ料理ばかりだったが、いつか存分に腕を振るった料理を食べてもらいたい。
そのためにも、出来ることをひとつひとつ積み重ねていこう。
「「ごちそうさまでした」」
「またお越しくださいね~」
食べ終わってお代を支払い、奥さんに見送られながら店を出た。




