契約
俺のスキルの中には、これまで使って来なかったものがある。それがこの【契約】というスキルだ。
【スキル:契約】
・対象と接触した状態で互いの合意を得る事で使用できる。
・対象に『称号:執行者』を付与する。対象が死亡するまで、他の者にこの称号は付与できない。
・『称号:執行者』を持つ者が居る場合、自身は『称号:断罪者』のレベルに応じた武具に変化する。
・自身は『称号:執行者』を持つ対象にスキルを獲得させる事ができる。
ご覧の通り、俺になんの旨味も無いスキルだ。
スキルを与えたり、執行者とやらの称号を与えたりと、相手に施しを与えるだけで、俺へのメリットは何も書かれちゃいない。気になる点と言えば、姿が武具に変化するという所か。
そんな訳だから、俺はこのスキルを一度も使って来なかった。……今日までは。
「え、な、なに?」
セリーネは、突如光を放った俺に目を丸くした。それは周りの奴らも同様だろう。
名前:セリーネ・アルビリオン
種族:人間 職業:貴族
状態:不調
レベル:2
魔力:10/10
体力:7 筋力:6 敏捷:8
器用:8 知力:9 運:12
『スキル』
なし
『称号』
執行者
『装備』
ボロ切れの布
『罪状』カルマ値:0
なし
本人は気付いていないが、俺との契約でセリーネは【執行者】の称号を得た。それにより、俺は執行者の武具に相応しい姿へと変化している途中なのだろう。
……そして、その変化も今終了した。
『形態変化完了、形態:処刑の鎌』
(わざわざ命名ご苦労さん)
さっきまでギロチンがあった場所には、セリーネの身の丈を超える大鎌が一振り、据えられていた。
『おいガキ、その鎌を取れ。そんで急いで此処から離れるぞ』
「え?」
『早く!』
「う、うん」
セリーネは足元にある俺を拾おうとする。が、
「っ、お、重い」
彼女は鎌を手に持った状態で、プルプルと震えたまま動かない。それに思わず俺は舌打ちを鳴らした。
(チッ! やっぱガキの力じゃ持てないか……おい天使サマ!)
『なんでしょうか?』
(このガキに【筋力強化】のスキルを覚えさせろ)
『確認しました。スキルポイントを五消費して、執行者セリーネ・アルビリオンに、スキル【筋力強化】を獲得します』
筋力強化は、筋力値をスキルレベル×5の数値だけ上昇するスキルだ。
伊達に何十年も暇だった訳じゃない。どんなスキルを覚えられるか、ほぼ全てを把握できている自負があるし、その場その場で使えるスキルもすぐに挙げられる。
『どうだ? 持ち上げられるか?』
「す、少し軽くなった……けど、まだ」
『チィッ……!』
確かに効果はあるみたいだが、元々の筋力が低いせいでまだ持ち上げられないらしい。
(こうなりゃ持ち上げられるまで【筋力強化】のレベルを……)
「……はっ! お、おい貴様! その鎌から離れるんだ!」
(って、そんな悠長にしてる暇も無いか)
周りの騎士共がショックから立ち直り始めて、セリーネに向かってきやがった。
(天使サマ! ガキの【筋力強化】のレベルを三まで上げろ!)
『確認しました。スキルポイントを三消費して、執行者セリーネ・アルビリオンに、【筋力強化】のスキルレベルを三上昇します』
(ついでだ。ガキに【敏捷強化】と【鎌術】を覚えさせろ! それと敏捷強化のレベルは二まで上げるんだ)
『確認しました』
【スキル:敏捷強化】
スキルレベル×5の数値だけ敏捷値を上昇する。
【スキル:鎌術】
武器種『鎌』を装備中、スキルレベル×10の数値だけ器用値を上昇する。
「……!」
『どうだガキ? 持てるか?』
「う、うん……ふん!」
セリーネは腹一杯に息を吸い込み、勢いよく持ち上げた。
名前:セリーネ
種族:人間 職業:貴族
状態:不調
レベル:2
魔力:10/10
体力:7 筋力:21 (+15) 敏捷:18 (+10)
器用:18 (+10) 知力:9 運:12
『スキル』
筋力強化Lv3、敏捷強化Lv2、鎌術Lv1
『称号』
執行者
『装備』
ボロ切れの布
処刑の鎌
『罪状』カルマ値:0
なし
『良し! 装備できたな!』
「うん、それになんだか」
「おい貴様! 今すぐそれを降ろ───」
騎士が後ろからセリーネの肩に置いた瞬間、
「な、ぁ……!」
「体が、とても軽い」
子どもとは思えない速さで、鎌を騎士の首筋へと当てた。
名前:ナミノ・キシデウス
種族:人間 職業:騎士
状態:健常
レベル:18
魔力:18/18
体力:30 筋力:30 敏捷:22
器用:20 知力:19 運:10
『スキル』
なし
『称号』
なし
『装備』
鉄の全身鎧
鉄のロングソード
『罪状』カルマ値:30
大量殺人
(お、この状態でも出てくるのか)
不意に、目の前の騎士であろう人物のステータスが現れた。
どうやらギロチンの時と同じ要領で、鎌の刃を首筋に当てたらステータスが現れるらしい。
(運以外では全部負けてるな。ガキだからって油断し過ぎだぜ間抜け)
お陰で不意を突いた一撃を繰り出せたが、真正面で戦ったら確実に負けるな。流石は騎士サマと言うべきか。
(しかし、真っ当な騎士サマが大量殺人か。大方、賊の討伐なんかで殺しをやってきたんだろうな)
仕方ない殺生とは言え、罪状は罪状だとこのステータスは捉えているらしい。厳しいこった。
(けどまあ、俺には都合の良い話だ。カルマ値ゼロだと鎌の性能もゼロになっちまうからな)
「き、貴様、早くそいつを降ろせ……なっ!?」
(まっ、今回はそれも気にしなくて良さそうだ)
首筋に鎌を当てられた騎士は、そこからまったく動こうとしない。否、出来なかった。
「……?」
『安心しろ、これは俺の力だ』
セリーネは動かない騎士を不思議そうに見ているが、この姿に変化した瞬間、力の詳細を把握した俺には、その理由が分かっていた。
『鎌で首を掛けた相手を動けなくする。それがこの鎌の能力だ』
「……!」
『そうだ。今ならコイツを簡単に殺せる……ヤるか?』
「……」
今の俺はコイツの道具だ。もしヤル気ってんなら止めはしねえ。これも冤罪で処刑しようとした奴らの自業自得だからな。
「う、動けない……や、やめろ! やめるんだ!」
「……」
しかしセリーネの取った行動は違った。
俺の問いの答えを示すかのように、彼女は騎士の首から鎌を離して、そしてすぐに民衆の中へ飛び入った。
『……それがお前の答えか』
「うん、ダメだった?」
『いや、構いやしねえよ。俺は処刑道具で、それを使う執行人はお前だ。やり方は任せる』
冤罪とは言え、人殺しがやって来て民衆は大騒ぎになる。その隙にセリーネは、小さな体躯を活かして人混みに紛れて、なんとか騎士共に見つからず裏路地まで潜り込んだ。




