執行人の目覚め
(……マジかよ)
もし人間の頃だったら、人目に憚らず頭を抱えていたことだろう。
貴族を殺し、親を殺した事がすべて冤罪? しかも、なんの罪も犯したことのない無垢なガキが?
……気持ち悪い。それはあまりにも理不尽で、不条理で、耐え難い事実だ。
「しかしもう恐れることはない!」
(っ、やりたい放題しやがってこのデブ……!)
小太りの貴族はそう言うと、セリーネの背中を踏みつける。その行為が俺の嫌悪感を更に搔き立てた。
(どうする? どうすればこの状況を……)
「このルワイー家当主、ゴルドス・ルワイー自らがこの悪魔を断罪してやろう!」
(なっ!?)
どうにかこの胸糞悪い状況を壊せないか考えるが、それより前に処刑が執行される。
(おい、やめろ!)
「ふん!」
小太りの貴族が腰に携えた剣で、断頭台の刃を吊るす縄を切り裂く。
俺は必死に抵抗するものの、刃は重力に従い、セリーネの首目掛けてザックリと───
「……?」
「なぁっ!?」
(これは……)
俺も、貴族も、セリーネも、そして見ていた民衆も、その予想だにしない事態に驚きと困惑でいっぱいになった。
彼女の首を切り落とさんとしていた刃は、首筋に触れるや否や、その動きを静止していた。
「な、なんだ、一体何が起きて……!」
(……ああ、そうか)
そんな異常事態の中で、俺は一番に真相に気づき立ち直る。そして自分の予想が当たっているか確認する為、すぐにステータスを開いた。
名前:ローグ
レベル:56
性能:0
耐久値:100/100
魔力:122/122
『スキル』SP:42
契約、自己再生Lv1、念動Lv3
『称号』
断罪者Lv1
(……やっぱり、性能がゼロになってるな)
セリーネのカルマ値はゼロだった。そして俺の性能は【断罪者】の効果で、相手のカルマ値に応じて変化するから、性能がゼロならつまり、全く切れない刃になる。そのお陰でガキは生き残れたという訳だろう。
(……しかし助かったぜ。お陰でこの、クソみたいな状況をぶち壊せるナイスアイデアが思いついた)
「き、貴様! 一体どんな手品を使った!」
(おっと、その前に)
小太り貴族が再びセリーネに手をあげようとしたのを見て、俺は先んじて行動に移った。
「え? きゃっ……!?」
【念動】を使って、セリーネを俺から離れるよう突き飛ばす。
「こ、今度はな……ぐおっ!?」
次にブタ貴族の背中を押して、奴の首を俺に掛けさせる。
「だ、誰だ、このワシを押したのは!」
名前:ゴルドス・ルワイー
種族:人間 職業:貴族
状態:健康
レベル:8
魔力:18/18
体力:13 筋力:13 敏捷:12
器用:12 知力:12 運:10
『スキル』
なし
『称号』
悪徳貴族
『装備』
豪華な服
『罪状』カルマ値:80
不正徴税、横領、賄賂、人身売買、殺人教唆
(……ああ、良かった。お前がしっかりヤることヤってる奴で)
「な、なんだコレは、か、体が動かない!」
(お陰で、心置きなく出来そうだ)
俺は、念動で持ち上げていた刃を降ろした。
「ま、待っ───」
ザシュッ
……今度はスッパリと、首を切り落とせた。
「「「ーーー」」」
誰もが言葉を失い、動けなかった。その間に俺は次にやるべきことを進める。
(おい天使サマ、俺に【念話】を覚えさせろ)
『確認しました。スキルポイントを五消費してスキル【念話】を獲得します』
名前:ローグ
レベル:56
性能:0
耐久値:100/100
魔力:113/122
『スキル』SP:37
契約、自己再生Lv1、念動Lv3、念話Lv1
『称号』
断罪者Lv1
すぐにステータスを確認してみれば、確かに俺のスキル欄には【念話】が追加されていた。仕事が早くて助かるぜ。
『───おい、ガキ』
「……?」
『前だ前、目の前にギロチンあんだろ? それが俺だ』
「???」
どうにかコミュニケーションを取ろうとするが、セリーネは目をパチクリさせて未だ混乱から抜け出せないよう。……ええいまだろっこしい!
『俺に触れろ。そしたら力をやれるから、それを使ってここから脱出するぞ』
「……あなたは、いったい」
『俺の事はなんとでも呼べ。とにかく今は此処から離れるぞ』
「此処から? でも……」
『でもじゃねえ! 人助けなんざらしくもねえ事をしちまったんだ。何がなんでもお前には生きて貰うぞ!』
「助け……? っ、わ、分かった」
俺の言葉を聞いてか、ようやっとやる気になってくれたらしく、セリーネは恐る恐ると俺に触れた。
(……よし、これで使える)
今までずっと、使えない使えないと思っていた、存在すらすっかり忘れていたこのスキル。
『汝、我と契約して悪を裁く道を歩むか?』
「……?」
『いいからほら、はいって言いやがれ』
「あ、は、はい」
『良し……契約はここに成った。汝を執行者として認めよう』
……これで良いんだよな? 天使サマよ。
『───スキル【契約】の使用条件を満たしました』




