冤罪少女
初めて罪人を処刑してから、一体どれだけ時間が経ったのだろうか? 少なくとも俺の精神は参っていないし、当初予想していたよりもお気楽な気分で毎日を暮らしていた。
名前:ローグ
レベル:56
性能:0
耐久値:100/100
魔力:122/122
『スキル』SP:42
契約、自己再生Lv1、念動Lv3
『称号』
断罪者Lv1
それとこれが今の俺のステータスだ。レベルが五十六まで上がっているのは……まあ、そういうこった。
ただ、何人もの首を刎ねてきた訳だが、俺の精神は安定している。これは相手がどんな罪を犯してきたかを【断罪者】で知れるのが大きいだろう。自業自得だと吐き捨てられるからな。
……話題を変えるか。
前回と変わったのはレベルだけじゃない。レベルと一緒に魔力やSPも増えた。
SPとは、スキルを新しく覚えたり、スキルレベルを上げる為に使用するものだ。
俺は増えたSPを使って【自己再生』と【念動】というスキルを覚えた。
【自己再生】とは、自身の生命力を回復するスキルだ。俺の場合、耐久値が回復する。【念動】の方は、遠隔で物を動かせるスキルだな。
なぜ俺がこの二つのスキルを取ったのか、当然理由はある。
まず【自己再生】、こいつは俺が生存する為に必要だったからだ。
俺のステータスの一つに耐久値という項目があるんだが、天使サマ曰く、コイツがゼロになると俺は死ぬらしい。で、この耐久値は攻撃を受ける以外にも、経年劣化で勝手に減っていくらしい。それを阻止する為に自己再生を覚えたってわけだ。
このまま生きてどうするんだって話だが、レベルを上げてSPを増やし、そして有用なスキルを覚えたら、この処刑以外にやる事が無い体にも変化が起きるかも知れない。人間に戻れたら最高だな。ってな訳で諦めるにはまだ早いという事だ。
それともう一つ覚えたスキル【念動】、これは俺が使えると思って覚えて、目論見が盛大に失敗してしまったものだ。
念動を使えば離れた物に触れて、掴み、動かすことが出来る。それは文字通り手も足も無い俺には喉から手から出るほど欲しい力だ。
このスキルを知った時、俺は迷わず覚えたのだが……とんだ不良品を掴まされちまった。
念動で動かせる重量の制限はかなり厳しく、俺どころか人間一人を持ち上げられる力すらない。
スキルレベルを上げればもしかしたらと思ったんだが、念動のレベルが三に上がっても子供一人を持ち上げられる程度の出力だったので、上げるのをやめた。今では暇つぶしのてぐさみに利用している。
……以上が、俺が覚えたスキルの紹介だ。未だに出来ることは少ないが、まだまだ悲観するには早いだろう。あれから何年経ったのかは知らないが。
「───お邪魔しまーッス」
(お、この声は)
暇つぶしに記憶の整理をしていると、倉庫に青年の騎士とベテランっぽいおっさん騎士がやって来た。
「……急にどうした?」
「いやなんかここって、いっつも人の気配がするような気がするんスよ。だから一応声掛けしてるッス」
「なんだそりゃ」
青年の答えに、おっさんは呆れ気味な様子だった。
この青年の名前はロジャード。最近じゃ一番多くこの倉庫に来てくれるお得意様だ。
「フッ、けどまあ、お前の言うこともあながち間違ってないかもな」
おっさんはそう言うと、視線を俺の方へと向けた。
(……?)
「血を吸う断頭台、何十年と前からあるのに、フレームどころか刃すら欠損せず、一度も交換したことのない曰く付きの処刑道具」
「え、これそんな前からあるんスか? 新品同様じゃないッスか」
「ああ、噂では処刑した罪人の生き血を啜って傷を癒してるらしいぞ」
「うへぇ、おっかねえッスね」
(……否定は出来ないな)
確かに俺は、罪人を殺してレベルを上げて、【自己再生】スキルを覚えたのだから、その噂は正しいのだろう。
「……そんな曰く付きのものをあの子に使わなきゃいけないんスか」
「なんだ、まだ認めていなかったのか?」
「っ、だって、彼女があんな事をしたなんて……!」
「諦めろ。今回の一件、事実がどうあれ俺達が動くことは出来ない」
(……?)
いつもの処刑かと思ったが、どうにもロジャードの様子がおかしい。
気になりはするが、自力で動けない俺はいつものようにされるがまま、大広場へと設置される。
「被告、前へ」
───そこで俺は、胸糞悪い展開を迎えることになった。
「……」
裁判官の言葉に、罪人は黙々と従う。
(……このガキが罪人?)
登場したのは、ガキの女だった。白髪赤目と、珍しい色の組み合わせをしている。
(ガキかぁ……どんな罪を犯したのか知らねえが、やっぱ気が引けるな)
「ほら、さっさと歩け!」
この先の結末に辟易としていると、ガキの隣に立つ小太りの貴族が遅いと怒鳴り、彼女の首輪に付いた鎖を持って、思いっきり引っ張る。
「……っ」
(おいおい、やりすぎじゃねえのか?)
苦しげに顔を歪めるガキを見て、俺は無い目で小太りの貴族を睨む。当然、向こうは気づかず、体を民衆の方に向けて何かを喧伝し始める。
「聞け、民衆よ! この者こそロードワイズ閣下を暗殺し、あまつさえ自らの父母さえ殺めた悪魔の子だ!」
(ほー、貴族サマを殺したのか? しかも自分の両親も? ……そいつぁ、すげえ事をしでかしたもんだな)
貴族の言葉に民衆はどよめく。しかしその大半は、俺のように貴族や両親を殺したことに対してではなく、悪魔という単語に反応し、畏怖の念をガキに向けていた。
「本当に悪魔が」
「噂は本当だったんだ」
「白い髪に赤い目」
「恐ろしい」
(……なんだ?)
そんなに悪魔とやらが恐ろしいのだろうか? 悪魔が何かよく知らないが、ガキ一人に言いたい放題なこの状況は少し気分が悪い。
「……」
しかしガキは、そんな声をものともせず、俺のもとまで辿り着くと誰に言われるでもなく自分の首をスッと俺に差し出した。
名前:セリーネ・アルビリオン
種族:人間 職業:貴族
状態:不調
レベル:2
魔力:10/10
体力:7 筋力:6 敏捷:8
器用:8 知力:9 運:12
『スキル』
なし
『称号』
なし
『装備』
ボロ切れの布
『罪状』カルマ値:0
なし
(……は?)
そして俺は、セリーネとやらのガキのステータスに動揺を隠せなかった。
カルマ値ゼロ、罪状なし、それはあの貴族が言っていた話と大きく異なる。
なぜこんな結果が出たのか? ……どれだけ考えても、答えは一つしか見つからなかった。
───冤罪。それが答えだ。




