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はじめてのギロチン生活

 事情は分かった。いや本当は分からないが分かったフリをしておく。それが理不尽な世の中を生き抜くコツだ。

 まず一つ目、俺はギロチンに生まれ変わったらしい。この時点で訳が分からないが気にしないでおく。

 二つ目、俺は自力で動くことが一切出来ない。物言わぬ道具に生まれ変わったんだから当然と言えば当然だろう。


……そして三つ目、



名前:ローグ

レベル:1

性能:0

耐久値:100/100

魔力:10/10

『スキル』SP:0

契約

『称号』

断罪者Lv1



 俺は念じることで、半透明のプレートのようなものを目の前に出すことが出来た。

 まともに倉庫から動けなかった俺は、何か出来ないかと暇つぶしに頭の中で色々と考えていたらコレが出てきた。


(初めて出したときはなんのこっちゃと思ったが、()使()()()のお陰で今はある程度把握できている)

『呼びましたか?』

(ああいや、別に呼んでないぞ)


 分かったこと四つ目、俺は頭の中で天使サマの声を聞ける。

 本当に天使なのかは分からない。慈愛のカケラもない無機質な声とか、聞いたことに淡々と答えるだけな所とか、教会で語られるような天使像とかけ離れているが、超常の存在であることは確かなので天使サマと呼んでいる。

 天使サマ曰く、このプレートはステータスと言うらしく、俺の能力を示しているとのこと。

 ステータスについては色々と説明されたが、なぜ俺がギロチンに生まれ変わったのか、今外の世界はどうなっているのか、その他諸々、何を聞いても反応が無かった。これじゃあ雑談相手になりやしない。


(……罪を犯さず、裁かれないように生きたい。なんて言ったからこうなったのか?)


 確かに、何も出来ないから罪なんて犯せないし、道具だから裁かれるなんて事はなく、むしろ裁く側に回るだろう。


(けど所詮道具なんだから、生きてるって事にはならんと思うんだがねえ)


 神でも悪魔でも、もし俺の遺言を聞いて起こした事なら、そこんところ文句を言いたい。


(はあ~、人も来ないし、このまま錆びついてまた死ぬのかねえ)


 ある意味、罪人には相応しい罰だった。何も出来ないまま、誰にも気づかれないまま、世界を孤独に生き続けないといけないのだから。


(……おっ)


 そう思っていると、複数の足音が倉庫に向かってくるのを感じた。


(久しぶりの来客か。ここの倉庫、使ってくれる人少ないんだよなー)


 ただ、ずっと暇という訳でもない。こうして倉庫に人がやって来るイベントは、俺の数少ない娯楽だ。


(来るならあの綺麗な姉ちゃんが良いなー、こんな時でも、いやこんな時だからこそ、美人は目の保養になって良いんだよ)


 人が来てくれるなら、泥棒だって構わねえ。まあ騎士が管理している倉庫に忍び込む豪胆な泥棒もそう居ないが。


「えーっと、例のものは……っと」

(ちぇ、なんだ違ったか。けど今回は初めましてが多くて良いな。これからも通ってくれよ)

「よし、コレだな」

(あん?)


 聞こえる筈のない言葉を騎士達に投げかけていると、彼らは俺の前まで辿り着くとその足を止めた。


「よし、さっさと運ぶぞ」

(……おいおい、まさか)


 いつぶりか、彼らは(ギロチン)を持ち上げようとする。それが意味する事に気付いた俺は気分が昂揚し、同時に勘弁してくれと参った。


▼▼▼


 案の定、俺は倉庫の外に出されて、かつての大広場へと設置された。

 大広場に来るまでの道のりは結構楽しめた。時間の感覚はとうの昔に狂っていて、以前からどれくらい経ったのか分からなかったが、結構様代わりしていた。

 見知らぬ店が行列を成し、逆に行きつけのボロい店が綺麗になっていたり、はたまた潰れていたりと、その変化を見て大いに楽しんだ。

 だけど例の大広場へ近づく度、俺の心は鉛のように重くなっていった。

 俺は道具だ。しかもギロチンという処刑用の道具。それを使うという事はつまり……


「───被告、グラース。被告は故意にして残忍なる殺意をもって市民十五名を殺害した罪に問われた」


 そういうことだ(罪人を裁く)

 以前と違って立会人はあの貴族の男ではなく、黒い法服を着た裁判官だった。


「離せ! 離しやがれ! クソッ、クソッ、クソォー!」


 そして俺の前には、全身を雁字搦めに縛られてもなお大暴れする男が一人。


(……はあ〜、憂鬱だ)


 罪状を聞く限り、どうしようもない男である事は分かっている。ただ、だからと言って自分の手で殺そうとは思えない。

 コイツの処刑を実行するのは、処刑道具である俺だ。実質俺が殺すと言っても良い。悪人である自覚はあるが、人殺しの経験なんて無い。そりゃあ気分の一つや二つ悪くなるさ。


「黙れ! さっさと位置に着くんだ!」

「ぐぅ……!」


 暴れる男は騎士が数人がかりで抑えて、なんとか男をギロチンの首に掛けさせた。


(……おっ、これは)


 直後、俺の目の前にステータスが現れた。



名前:グラース

種族:人間 職業:冒険者

状態:負傷、拘束

レベル:23

魔力:18/18

体力:40 筋力:40 敏捷:21

器用:21 知力:19 運:15

『スキル』

強撃Lv2、残刃Lv2

『称号』

なし

『装備』

ボロ切れの布

『罪状』カルマ値:70

窃盗、放火、強姦、大量殺人



(はえー、思ったよりヤッてんな)


 それはたった今ギロチンに拘束された男……グラースとやらのステータスだった。

 突然現れたグラースのステータスだが、俺はさほど驚かなかった。なぜなら、事前に天使サマから聞いていたからだ。


【称号:断罪者】

・首を掛けた対象のステータス及びカルマ値、罪状を確認できる。

・カルマ値に応じて性能が変動する。

・罪人を殺すとレベルが上がる。


 これが俺のステータスにあった称号、断罪者の効果である。

 伊達に暇じゃない。ステータスの内容なんて、隅から隅までとうの昔に把握済みだ。


(えーと、カルマ値八十か。ってことは今の俺の性能は)



名前:ローグ

レベル:1

性能:700

耐久値:100/100

魔力:10/10

『スキル』SP:0

契約

『称号』

断罪者Lv1



(七百。つまりカルマ値一につき、性能は十上がるってわけか)


 性能とは、その道具が持つ力を示す。剣なら切断力、盾なら防御力と言った感じだ。

 確か最高でも九百九十九が限界だから、性能七百はかなり高い方だろう。


「以上を持って、被告に判決を言い渡す」

「い、嫌だ! お、俺はこんな所で終わるタマじゃ」

(……さて、現実逃避もほどほどにしとくか)


 されるがままとはいえ、最後まで知らんぷりというのもみっともない。

 俺は潔く、首に掛けられた男を見下ろす。


「被告を、死刑に処す」

「ま、待っ───」


……直後、鮮血が足元を埋め尽くした。


『レベルが上がりました』

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