死せる罪人、目覚めるギロチン
時は夕暮れ、場所は国民達の憩いの場として知られる大広場、その中心には見慣れない物、というより似つかわしくない物が設営されていた。
そいつの名前は断頭台、もしくはギロチン。受刑者を長く苦しませないよう迅速にあの世へ行ける人道的な処刑道具らしいが、人を殺す道具の時点で人道非人道もあったもんじゃねえと思うのは、使われる側の難癖だろうか?
「おら、きびきび歩け!」
「イデッ……はいはい、分かってますよ」
ノロノロと歩いてたら尻を蹴られた……俺は馬じゃないんだが? んなことしても早くならねえよ。え? もう一回蹴るぞって? はいはい分かりました、きびきび歩けば良いんですね。
「はぁ~~~」
思わずデカいため息が出てしまった。俺を連れてく騎士が睨んできたが、いやため息の一つや二つ出るのは仕方ないだろ。……俺、これから死ぬんだぞ?
「うつ伏せになって、ここに首を掛けろ」
「……」
とうとう処刑台まで来ちまった。騎士がなんか言ってくるが、ささやかな抵抗に俺を大きく天を仰いだ。
……ああ、空が夕焼けに染まって真っ赤だ。血のように赤い空は、まるで俺の未来を指してるようだった。
(……空なんて見るんじゃなかった)
「ほら、早くしろ!」
「グェッ!」
気まぐれで起こした抵抗に後悔していると、痺れを切らした騎士が俺を体を掴んで無理やりギロチンに首を掛けさせた。
「準備完了いたしました」
「うむ……皆の者! この者こそ、長らく我が国に巣くっていた大罪人───」
(……ああ、なーんでこんな事になったかな)
顔を少し上げてみれば、数え切れないほどの人が大広場に集まっていて、全員が俺に対して視線を送っていた。
好奇の目に畏怖の目、怯え、悲しみ、怒り、喜び、それはもう様々な感情の籠った視線が俺に送られてきていた。
(こんな大仰な出迎えされるほど、大したことはやってねえんだけどな)
だけど事実、こうなっても仕方ない事は今までやってきた。だからまあ、これも自業自得ってわけだな。
「……最後に何か言い残すことはあるか?」
貴族らしき男が頭上から問いかけてくる。言っても何か変わるとは思えないが……まあ、後世に残るかも知れないし、一応何か言っておくか。
「生まれ変わったら罪を犯さず、裁かれないように生きたいです」
「ほざけ」
割と真面目に放った言葉を両断された直後、頭上から空を切り裂く鋭い音が聞こえ……
ザシュッ
俺の人生は、割とあっさり終わった。
筈だった。
(……ん?)
どういう訳か、死んだ筈の俺は閉ざしていた瞼を再び開けることが出来た。
(なん、だ?)
視界にはさっきまでと同様多くの民衆が居て、足元には俺に遺言を聞いてきたいけすかない貴族と、地面に転がる無愛想な顔をした誰かの頭……うん?
(んんん?)
転がる誰かの頭……頭……あた、ま、
(アレ、俺じゃね?)
どこからどう見ても俺の頭だった。
……はい?
(待て、待ってくれ……な、なんだこの状況? なんで俺は生きてる? なんで俺の頭があそこに転がってる? 今ここに居る俺は何なんだ?)
何もかもが分からず混乱していると、俺の足元に立つ貴族の男が騎士達に呼びかける。
「掃除が終わったらコイツをしまっておけ」
そう言って貴族の男はコツンと俺の体に拳をぶつけた。
(……うん?)
いや、今のおかしくないか? 俺をしまうってなに? この国には死体を墓じゃなく倉庫にしまう習慣でもあったのか? あれけど俺生きてるよな?
「よし、そっちしっかり持ったか?」
「ああ、大丈夫だ」
「よし、せーの!」
(うおっ!?)
考え事をしていた俺は、騎士四人がかりで持ち上げられたことに気づかず、急な浮遊感に襲われて驚く。
(急になにしやがる! 俺を持ち上げるのにそんな四人も要らないだろ……う?)
その時、俺はある可能性に思い至る。
あの場に居たのは俺と貴族の男、何人かの騎士……それとギロチンだ。
(……もしかして)
あり得ない。そう思いたくてもそれしか思いつかない。
(俺、ギロチンになった?)
……死んでギロチンに生まれ変わった。そんな冗談にもならない嘘みたいな状況に、俺は陥ってしまったのだ。




