第二幕第一場
二〇三一年四月 日比谷
マッチングアプリをインストールしたは良いものの、メッセージのやり取りが非モテには向いていなさすぎる。非常に面倒くさい。もう嫌だ投げ出したい。ピノコは既にやさぐれていた。アプリを消去したくてたまらなかった。「三日耐えてみて。慣れるから」というR子の助言のもと、歯を食い縛って顔も本名も知らぬ男とメッセージを重ねる。とりあえず、三人の殿方と会うことになった。面倒なことは一度で終わらせたい性分だったが、なかなかそうもいかないので、アポイントメント――アポというとピノコは真っ先に脳卒中を思い浮かべてしまうが、公務員の体力温存には貴重な土日に三件のアポを入れた。
一人目の男とは喫茶店で待ち合わせをした。茶でもしばきながら互いに自己紹介をして、それこそ趣味はどうのそうのといったオミアイ話をする。その後、巷で流行っているアニメ映画を観に行った。しかし、左右の席に座った男が(一人はアポの相手だが)、大股をおっぴろげて座っているせいで脚が強ばったのも大変苦痛だった。先輩と映画を観るときは、必ずどこの席がいいのか事前に希望を聞いてくれたのに、なんて詮ないことを思ってしまった。映画は真ん中よりも端で観賞するのをピノコは好んでいた。映画は面白かったのが救いだ。
二人目の男とは水族館に行くという話になった。一人目の男もあまり女には慣れていなさそうな非モテ男であったが、そのさらに上をいくコミュ障であった。話しているときに目が合わないのは純粋に怖い。だが、彼の好きな話題を振ると舌の回転が流暢になって止まらなかった。ここはキャバクラじゃねえんだぞと思いながら「さすがですね!」「知らなかったです!」「すごーい!」「センスありますね!」「そうなんだ!」と赤べこのように頷きながら繰り返す。ピノコも非モテだからか、なかなか男の話が面白かったのは救いだ。
その後、夕食を予約してくれていたとのことで、店に向かうと、靴を脱ぐ座敷の席だったことにピノコは天井を仰いだ。先輩なら、どんな席がいいか前もって訊いてくれるのに、なんて詮ないことを再び思ってしまった。この前、先輩と飲んだときの、靴を脱がずに入れる趣深い個室が恋しかった。
三人目。ピノコは、もう、何も期待していなかった。
「モモさん」
待ち合わせ場所のゴジラ像付近で、マッチングアプリ上で使っている名前を不意に呼ばれる。顔を上げると、こちらに笑顔を向けながら爽やかに手を振った男と目が合い、ピノコは一切の動きを止めた。周りの女性の視線が突き刺さったのを感じる。男の放つキラキラオーラは、どこぞの今を時めく若手俳優かと思った。アプリでは写真交換などはせず、服装の特徴だけを伝えていたが、男はすぐにピノコを見つけたらしい。
人違いじゃ、なかろうか。サクラか、詐欺か、ないしはホストというやつだろうか。
まさかそんな輩に引っかかるか?
Numberの相性診断で自動的にマッチングした男の中でも、さらに自分の非モテさにドン引かないような、顔写真も載せていない非モテ男とピノコは連絡を取っていたはずだった。この男の容姿であれば、写真一つで何百という女豹が群がりそうだ。
「今日は、会ってくれてありがとうね」
忍はわざと訛った言葉を使って礼を言った。ふふ、と柔らかに微笑んでみせるが、彼女からは、まるで珍客に遭遇した猫のような警戒心しか伝わってこなかった。
今日は昼食後に映画でも、という流れだった。洋食屋に移動し、「なに食べますか?」と忍は食事のメニューをピノコに向かって開きながら差し出した。警戒体勢は崩さないながらも空腹には勝てないのか、彼女はメニューの文字と料理の写真を目で追った。
「スパゲッティ、ビーフシチュー、オムライス……。どれも美味しそうで迷いますねえ」
「僕はポルチーニクリームソースのスパゲッティにするわ」
「なるほど。私は目が合ったのでオムライスにします」
「目が合ったんや」
「私を食べて、とオムライスの五文字が訴えかけてきました」
言葉選びが独特だな、と忍は思った。
「飲み物は?」
「アイスティを」
「了解」
忍が離れたところに控えていた店員に視線を投げる。「伺います」と快活な店員がそれに応えた。忍が注文を終えたあと、ピノコはグラスに入った冷やを口に含んだ。彼女は全身全霊で目の前の男を疑っていた。こんなスマートな所作をする非モテがどこにいるというのか。確かに、ピノコからすれば先輩がそうなのだが、そんな人間が、マッチングアプリにいるだろうか? そのような男はマッチングアプリなど使わずとも伴侶に出逢い、既に街中でベビーカーを押しているのが世の常だ。
「なんで、僕なんかに会おうと思ってくれたんかなって」
……ほら、僕。離婚経験あるし。
忍は配偶者がいたことをピノコに隠していなかった。ピノコは別に、この非モテな心をわかってくれるのであればバツイチでも子連れでも構わなかった。マッチングアプリで離婚経験者は避けられる傾向にあるのだろうか。そんな整った形をしといて「僕なんか」と所在なさげにされても、こちらが困るというのが本音だ。
「離婚というか、奥様は他界されたんですよね? 結婚がすべてではないですし。純粋にハルミさんとのメッセージのやり取りがとても楽しかったから。もっとお話を聞きたいなと思って」
忍は、ハルミ、とアプリ上で名乗っていた。また忍は書類上、二度配偶者に先立たれている。が、そこまでの事実はさすがに伝えていなかった。
「……話って?」
「何でもいいですよ。まだ私に話していない趣味の話でも特技の話でも。最近笑ったこととか、泣いたこととか。楽しかったこと、嬉しかったこと、後悔していること。亡くなった奥様とはどうやって出逢ったかとか。どこが好きだったとか。子どもの頃の思い出とか。ハルミさんの物語が知りたいんです」
ピノコは再びメニューを手に取って見ながら、何でもない普通のことを述べたようにからりと言った。ケーキも美味しそうだなあ。と彼女の口からこぼれる。
「……そんなん、誰かに、話したことなんか、ないかもしれん」
忍はこの場で用意できる物語ならいくらでもあった。ただ、それをどう語るか、という語り方の問題だった。
「後悔しとること、か。……僕、奥さんの死に目に、会えんかってんな」
「戦争もあったし、長いこと離れて暮らしとって」忍は第三者に初めて、死んだ配偶者のことを語った。ピノコは、この人も戦争の〈犠牲者〉なのだろうか、とメニューをぱたりと閉じながら思った。開戦から既に四年が経った。最近では戦争の犠牲になった者たちの手記や物語がこぞって出版され、実写映画化され、様々な賞を受賞するようになっている。
「……会いに、行かなかったことを、後悔してるんですか?」
口に出してから、行けなかったのだろうな、とピノコは勝手に彼の物語を推測した。
「自分アホすぎて、何やってたんやろとは思たなあ。今更、後悔してもしゃーないんやけどな」
はは、と目の前の男が笑う。ピノコはその笑顔に隠されたものが、彼の口から語られた〈後悔〉なのか、それとも〈絶望〉の二字なのか、わからなかった。
「モモさんって名前は、本名なん?」
「はい」
こくん、とピノコが軽く頷く。別にフェイク、というわけではない。モモ、というのはピノコのミドルネームだった。周囲には特に知られていないが。
「ハルミさんは?」
「ああ、僕は春の海って書くねん。これ、名刺」
忍は偽装のための会社をいくつか持っている。そして偽名も。「斎藤春海」と書かれたコンサルタント会社の名刺を取り出した。ピノコが「すみません、頂戴します」と両手でそれを受け取る。肩書きは「官公庁事業部シニアマネージャー」とあった。
ランチのあとは近くの映画館に移動した。一人目の男と映画を観たミッドタウンのほうでなく、シャンテの映画館だったことに驚く。
「モモさん、これ観たことない言うてたから」
ちょうどリバイバル上映されている『ミッドナイト・イン・パリ』のポスターを指しながら忍が笑う。今日、日比谷を指定してきたわけはこの映画館にあったのかとピノコが首肯した。
「どの席がええ?」
「通路側でもいいですか?」
「うん。せやったらここは?」
「とても良きです」
窓口で提示された空席をピノコに選ばせ、忍がチケットを購入する。休日だというのに、他の映画を選んでいるのか観客はまばらだった。財布から北里柴三郎を二枚手にしていたピノコを「ええよ」と忍が制する。先ほどのランチもピノコが手洗いから帰ったときには会計が済んでいたので、ピノコは些か憤慨した。
「ほんなら映画のあとまたコーヒーでも飲みましょか」
「コーヒー代くらいは私がお支払いしますね!」
二人の落としどころを見つけ、ピノコが手に持った財布を掲げながら笑った。
「いやぁ、面白かったです!」
「ほんま? よかった。モモさんなら、気に入る思て」
「はい! もうすっごい共感したというか、胸に刺さりました。懐古主義の懐古主義の懐古主義――って感じで歴史は繰り返すというか、やっぱり円環的に回るものなんですねえ」
監督がどれだけルナティックでも、作者と作品は別だ。これぞアカデミー賞受賞作だとピノコは思った。良い映画を観たあとって、なんでこんなに駆け出したくなるような、感想を誰かに話したくてウズウズするような、春に蠢く虫になったみたいな、心の気分が啓蟄の候になってくれるのだろう。
「どないする? 喫茶店でも入ろか?」
「座ってて少し脚が固まっちゃったので、ちょっとぷらーっと散策しませんか? 残念ながらここはパリの街ではありませんが」
私、日比谷公園は通過したことしかないんです。と公園のほうを指しながらピノコが提案すると、忍は「ええね」と軽やかに笑った。
途中のカフェでピノコはアイスカフェラテを、忍はコーヒーをテイクアウトする。二人で横に並んで歩き始めたとき、ピノコが鑑賞後の興奮冷めやらぬ様子でつらつらと語り始めた。
「保守主義の原則の一つ、〈懐疑主義的人間観〉に立ち返れば、人間は常に間違い続ける存在で、理性はまったく完璧なんかじゃないため、現在の視点から一見良いと思われる過去であったとしても、その過去が誤りを孕んだ人間によって作られている以上、単に、『昔は良かった』という懐古主義や復古主義は斥けられるしかないんです。過去には過去なりの問題があった、と考えるのが保守主義の常識的態度です。もちろん完全な形での予測が不可能な未来については言うに及ばず、です。だから、今を生きる人間が観照的態度でみるべきは、過去の中の一点、ではなく、過去から長年蓄積され、歴史の風雪に耐えてきた継続性のある〈伝統の精神〉なんだなあ、と。映画の中で主人公が物語中盤に出逢い、最後は一緒になったガブリエルさんは、〈伝統の精神〉を大切にしているという観点からみれば保守主義者なんだと思います。でも彼女の態度は復古主義右翼のように肩肘張ったものじゃなく、非常に穏やかなものです。そういう女性と一緒になることが自然な状態なんだという終わり方でした。雨のパリの街を愛する非モテ人間を自然……当然、そうなって然るべきだと肯定してみせた『ミッドナイト・イン・パリ』は、現代に対する痛烈な批判をお洒落にやってのけた映画だと思いました!」
うんうん、と隣で歩く男が、ずっとピノコを見ながらその語りに耳を傾けてくれていたことに彼女は気づいた。まずい。これだと自分のほうが二人目の男と同じではないか。ピノコは、さーっと血の気が引いていくのを感じた。
「すみません。引きましたか……」
「え? まったく。愉しいよ。もっと話しててほしいわって思う」
「いいんですか?」
「うん。僕、自分が話すより、人の話聞くほうが好きやから」
それは、嘘ではなく彼の本音のようにピノコには聞こえた。彼は自らが語ることを拒否しているようにも見える。ただ、二人目の男とは違って、ちゃんと人の目を見て話を聞いて、言葉を語ってくれるところに、ピノコは好印象を覚えた。
公園に入って、中をぐるっと歩き回っていると、池に面した藤棚が満開になっていたのを見つけた。ちょうどその下のベンチが空いていたので、二人で腰かける。相変わらず忍はピノコに語ることを許していた。し、彼女の語りに相槌を打ちながら、ちゃんと彼女の心をくすぐるような返しができていた。ピノコはそれに乗じて非モテらしく、自分が好きな本の台詞や先ほど観た映画で印象に残った場面を語り続けていた。
カフェラテを飲んでひと息をついたとき、ふとした疑問がピノコの中に湧いてきた。湧いてきたと言うより、言葉にしたあとで自分はそれを疑問に思っていたのだと彼女は知った。
「常々疑問に思ってたんですけど、ハムレットはオフィーリアのこと、本当に愛してたって思います?」
唐突とも思えるピノコの問いに、忍の心臓が、ドクン、と大きく鼓動する。
忍は、〝ハムレット〟という暗号名を使っていた過去があったからだ。
池で金色の鯉が、ポチャンと跳ねた。鶴の噴水からは絶え間なく水が噴き出ている。
一人目の配偶者は大陸で溺死した。いや、溺死に見せかけられた他殺だったが、警察には事件性がないと判断された。彼女とはギブアンドテイクの関係でしかなく、遺体に対面したときでさえ、「かなしい」とか「さみしい」などという感情は湧いてこなかった。しかし、昨日まで話していたバディの死は、自分もいつかこのように死ぬのか、と近い未来を予言しているように忍には思えた。
「……どうなんやろな。Get thee to a nunnery《尼寺へゆけ。》[1]ってオフィーリアに何べんも言うて突き放すくらいやし」
「I did love you once.《おれもかつてはお前を愛していた。》[2]と言っておきながら、直後に、I loved you not.《おれはお前を愛してなどいなかったのだ。》って否定しますし。真実どうなんでしょうね」
「オフィーリアの墓場で語った言葉を真実とみるか、すべてを狂気とみるか」
「うーん。ただ、やっぱりオフィーリアをある一時期〈愛していた〉ことは事実なんだと思います。母親と同じ女という生き物だから彼女を突き放していたようにも見えますし。どうしてもガートルードと重ねてしまったんでしょう。『ハムレット』に登場する女性はこの二人だけですから」
愛していた。彼は彼女を愛していた。
〝ハムレット〟として、愛していた。その事実は、確かなものだった。
「事実と真実の違いって、何なんでしょうね」
カップをベンチの脇に置いて、ピノコが、んーっ、と腕を上げて軽く伸びをする。
「今この日本も、束の間の平和を見せられているのでしょうか。それとも実際は〈すばらしい新世界〉でしかないのでしょうか」
「すばらしい新世界、って……新世界体制のこと?」
「はい」
政治家はなぜマニフェストにすぐ「ニュー」を取り入れたがるのか。これまで「新」などと付けられた政策の中で何か成功したものがあるだろうか。演説を見た忍が「ダサい」と一蹴すれば、風光は「わかりやすくていいだろ?」と気にせず笑っていたが。
「――厭な世の中っちゃ、厭な世の中やとは思うよ」
ふう、と忍がピノコから池に視線を移しながら息をついた。
こうやって天気のいい日に、木々の揺れる音や、流水音、風の音にだけ耳を澄ませていると、この淀んだ世界の流れさえ、心底馬鹿らしく思えてくる。
「でもそんな時代ほど、物語がたくさん生まれますよね」
ぽつり、とピノコが小さく声をこぼす。「え?」と忍は思わず訊き返した。
「戦争なんていう、今日生きるか死ぬかという瀬戸際に、物語が生まれないはずが、ないんです。シェイクスピアの時代より、もっとずっと前から、それは変わらないんでしょう。O hell! to choose love by another's eyes.《我慢できない! 他人の目で恋人を選ぶなど!》[3] のあとに続く台詞みたいに」
一瞬、隣から聞こえてきた声がピノコのものに、聞こえなかった。忍が目を見開いて、彼女を凝視する。ピノコが忍と視線を交差させ、にこりと笑った。
(――『夏の夜の夢』、か)
まるで、女優が舞台の上で演じるように、いや、あるいは少年が、まだあどけなさの残る声で台詞を述べているように、忍の耳には聞こえた。
シェイクスピアの時代、女優というものは存在しなかった。女が舞台に上がることは禁じられていたため、女性役は声変わり前の少年が演じることになっていた。故に、当時の演劇は現代の感覚からすれば一見おかしなことになる。例えば『十二夜』ではヴァイオラというヒロインを演じるのは少年俳優だが、彼女がセザーリオという名の男に扮する場合は、その異性装が解かれ、少年は現実の姿のまま男役を演じることになるのだ。演劇は、時に男女の境界さえ曖昧にさせる。そして劇中でその中性的要素を保ち、登場人物たちと一線を画す特殊な存在が、道化だった。
「Or, if there were a sympathy in choice, War, death, or sickness, did lay siege to it, Making it momentary as a sound, Swift as a shadow, short as any dream《おまけに、やっと想いをとげたとなると、戦争とか、死とか、病気とか、きっとそんな邪魔がはいる――そうして、恋はたちまち消えてしまうのだ、音のようにはかなく、影のようにすばやく……そうなのだ、夢より短く……》」
忍は一度読んだ本は、一言一句違わず記憶できる。台詞の続きを脳内のインデックスからさらうのは造作もなかった。が、この場でどう返すのが適当か、一瞬考えた。
「ねえ、今のって、僕を試したん?」
「さあ。どうでしょう?」
忍がベンチの背に肘を置き、頬杖をついてピノコを観察するように見る。彼女は先刻の笑みとは真逆とも言えるほど、柳眉をくいと優雅に上げ、嫣然と微笑んでみせた。
不意に、ピノコの爪と同じ色をした花弁が一片、忍の腿に落ちる。彼女の爪は、春らしくパステルカラーで彩られていた。
「爪、きれいやんね。この花と同じ色しとる」
「ありがとうございます」
この花が咲き乱れ、葉が上を覆っているおかげで、ここは直射日光が幾分遮られているらしい。「藤、ですねえ」とピノコが藤棚から垂れ下がる花穂を見て呟いた。
「へえ。これが藤の花なんや。知らんかった」
「藤棚、初めて見たんですか?」
「いや、見たことはあるけど、これを藤やって認識しとらんかった」
へーと忍が藤棚を仰ぐ。ポカン、とピノコが口を開けながら、瞬きをパチパチと繰り返した。
「シェイクスピアの台詞は記憶しているのに、藤の花はご存知ないんですね」
「……実は、言い訳すると小学生くらいからは海外育ちやねん」
「そうなんですか! どこの国で育ったんですか?」
「うーん。色んな国転々とした感じやなぁ。親の仕事の都合とかで」
「グローバルですねえ。実は私も海外生まれなんです」
「え、どこどこ?」
「オセローを蔑みながら、シャイロックにはずっと優しかった国です」
「……アメリカってこと?」
「はい」
第二次世界大戦の敗者ドイツは流浪の民を排斥した。そして彼らの手を逃れた者は海を渡り、新たな王国を見つけたのか。彼の国の財界、政界、ハリウッド、すべてを牛耳り、やがては世界を裏側から掌握するようになる。グローバル、という考え方自体、国を持たなかった彼らが広めた概念と思わざるを得ない。昔、地球は丸いのだと証明されて、幾人がそれを信じることができたのか。彼の者の言葉を、どれだけの者が信じ、どれだけの者が疑ったのだろう。
(地球座、か)
「にしても、アメリカ人だの日本人だの、その境界は、どこにあるんかいな。スポーツ選手とかノーベル賞受賞した科学者とか見てても思うけど。国籍? 名前? 名前にいったい何の意味があるん」
「……まるで、〝薔薇の名前のスピーチ〟みたいなことを仰るんですね」
ピノコが驚いたように忍を見て瞬きをする。忍は自分では意図していなかったことを指摘され、「そう?」と少し恥ずかしそうに笑った。
「What's in a name?《名前ってなに?》[4]」
「That which we call a rose
By any other word would smell as sweet
《バラと呼んでいる花を
別の名前にしてみても美しい香りはそのまま。》」
ふふっと互いに視線を交差させ、笑い合う。
「な? みんな仲よう〝地球人〟でええやんか。もし火星人でも攻めてきたら、いったい何のために地球人どうしで争っとるか、わからんくなるやろ?」
「H・G・ウェルズの読みすぎじゃないですか?」
「今ちょうどモモさんも読んではる」
ピノコが洋食屋でショルダーバッグの中身の整理をしていたとき、机上に一瞬出していた本を見ていたらしい。忍が彼女のバッグを指しながら言った。ピノコがバッグから本を取り出し、ページをパラリと開いて見せる。
「これは短編です。"The Door in the Wall"ってご存知ですか?」
「うん。ウェルズの短編の中でも、評価が高いやつやんね」
「何となく、好きなんです。この、最後のパラグラフが」
ピノコが忍に身を寄せ、本のあるページを指し示す。彼女からは控えめにつけられた香水の匂いがした。日に焼けていない白いうなじが髪の下に覗く。忍はパラグラフを声に出して読むピノコの睫毛を見ていた。
There you touch the inmost mystery of these dreamers, these men of vision and the imagination. We see our world fair and common, the hoarding and the pit. By our daylight standard he walked out of security into darkness, danger and death.《ここには、他界の幻影と想像力とにめぐまれて夢みることのできる人々のみの持つ、深遠な神秘がほのかに見えるのだ。われわれには、この現実世界は公明で正常に思われる。板囲いの縦穴もそうだ。われわれの日常的な規準によれば、彼は安定した世界から暗黒へ、危険へ、死へと歩み去った。》[5]
「But did he see like that?《だが、彼はそのように考えただろうか。》」
そう言って微笑みながら見上げてくるピノコの顔が、予想外に目と鼻の先にあったので、忍は咄嗟に彼女から身を引いた。
「地球人……ふふっ。発想は子どもっぽいけれど、私、春海さんのそういうところ尊敬します」
褒められたのか貶されたのかよくわからない賛辞をもらい、忍は「……ありがとう」と呟いた。心地よい風が二人の間を吹き抜ける。ピノコは本を閉じて膝の上に置き、忍と向き合った。
「春海さんこそ、話してください」
あなたのことが、もっと知りたいです。
それは彼女の素直な気持ちだった。この人のことをもっと知りたい。あなたは何が好きで、何が嫌いなのか。何に心が躍るのか。何でそんなに、爽やかで、スマートで、そつない仮面をつけているのに、かなしい瞳をしているのか。
「思い出話でも、何でもいいですよ」
「……思い出、なあ」
「あ、でも、おつらかったら、無理されないでください……」
「いや、もう二年になるから……」
忍は初めて、その過ぎた歳月を自分で口にした。すると、一気に実感が湧いた。桜の訃報を聞いて、いつの間にか、二年が経つのだ。最後に同じ時間を過ごしたのは、もう、六年前だ。
忍は思い出した。あの、夏を。脳裏に刻んだ、あの美しき光景たちを。
*
二〇二五年八月 ポルタワ
白い日傘をくるんと回して歩く桜の後ろ姿を忍が追っていく。青空は丘の向こうまで冴え渡っていて、南中する太陽がその中心に座し、夏の陰りを含んだ陽射しを大地に注いでいる。夏の野原を散策するなか、陽光を和らげる林に足を踏み入れ、しばし涼しさに身を預ける。葉と葉の間から差す木漏れ日が、彼女の持つ日傘に眩しく反射し、忍は思わず目を細めた。
林を抜けて目の前に広がった光景に、桜が「わあ!」と嘆声を上げる。
見渡す限りの向日葵畑が、二人の視界を占居していた。
「すごい! きれい!」
「油のためだよ」
忍が肩を竦めながら、桜の感動に水を差す。彼女は「わかってるよ……」と口を不満そうに窄めて、頬をぷうと膨らませた。ここらの住民も、ただ向日葵の花が見たいから植えているのではない。枯れたあとの種子が役に立つから、広大で余った土地に種を蒔くのだ。観賞用のためでなく、第一に生活のためだということは彼女も承知していた。
それでも、こんなに鮮やかに夏の色を帯びて咲く花が、あるだろうか。
光を貪欲に目指してまっすぐに咲き乱れるさまは、彼女の胸を強く打った。
「Shall I compare thee to a summer's day?《君を夏の一日と比べてみようか?》[6]」
桜が向日葵の花に近づいて、その形や匂いを楽しんでいると、ある詩の始まりが彼女の背に降りかかった。はじかれたように振り返って、忍を見る。彼は、彼女が瞬時に振り向くとは思わなかったのか、少し緩んでいた顔を気まずそうに引き締めて、スラックスのポケットに片手を突っ込み、身構えた。ぷふっと堪えきれなかったように噴き出して、桜がけらけらと笑う。
「……何がおかしい?」
「んー? 何だか、嬉しくって」
桜が微笑みながら日傘を閉じて、再び忍に背を向ける。そして向日葵畑に足を踏み込んだあと、道に沿った方へ上機嫌に歩き出した。
「藤も入ってみない?」
「花粉が付くので結構」
つれない返事を予想していたように桜が顔を逸らして笑う。背丈以上に伸びた向日葵の茎と葉に見え隠れする彼女の生きた表情を、忍は静かに見つめていた。
忍は舗道を、桜は向日葵畑を歩きながら進んでいく。ふと足を止めて、桜が空を見上げる。動きを一切止めて耳を澄ませたのは彼も同じで、大気を劈くような轟音が徐々に青い空を支配していき、彼らの頭上を、戦闘機の群れが、鋭い音を立てて駆け抜けていった。
機体の数と、機首の向いた方角を確認していた忍が、不意にその腕を、ぐいっと力強く引っ張られる。彼女の躰に飛び込むようにして、忍が呆気にとられながら向日葵畑に足を突っ込んだ。その勢いで期待通り黄色い花粉にまみれてしまった彼の髪を払いつつ、彼女がくすくすと軽やかに笑う。
はあ、と仕方なさそうに溜め息をつき、忍が顔を傾け、桜と唇を重ねた。唇が離れたあと、顔を頑なに逸らす忍に笑みをこぼしながら、桜がその背を優しく撫でる。轟音が地平線の彼方に立ち消え、風の流れる音しか聞こえなくなった夏の国で、ぎゅっと彼の躰を抱きしめ、鼓動の音を聞き、互いの体温を感じる。彼女の腰の後ろで手を組み、〝藤〟の仮面をつけた彼が、声に出しては言えない想いを込めるように、詩の終わりを呟いた。
「——So long as men can breathe or eyes can see, So long lives this, and this gives life to thee.《人が息づき、目が見えているかぎり、この詩は生きつづけ、この詩によって君も命を永らえる。》」
その、率直な愛と文字の中で生き続ける永遠の夏を謳う美しい詩は、彼女にとっても面映ゆいもので、おもむろに目を合わせたとき、二人は互いに瞼を伏せて照れくさそうに笑った。
「シェイクスピアの一八番だね。結局、彼はFair YouthとDark Ladyのどちらを愛したのかな」
忍に手を取られながら、向日葵畑を抜けて道に出る。桜は、偉大な劇作家であり、詩人でもあったシェイクスピアが綴った一五四編の詩に、想いを馳せた。
この愛の詩が捧げられたのは、ある青年貴族だといわれている。ないしは劇団の女形を務めた美少年だと推測する者も中にはいて、その真相は依然として謎に包まれたままだ。
〈このソネット集の唯一の生みの親たる、W・H氏に捧ぐ〉
出版者のトマス・ソープが付したとされる献辞に突然現れた、一人の男性のイニシャル。
いったい、W・H氏とは誰なのか。劇団のパトロンだった貴族か。一番から一二六番まで、詩人が純粋な愛を歌った〝彼〟なのか。シェイクスピアの詩から伝わってくるのは、美しく聡明で、教養を兼ね備えた身分の高い青年貴族の姿だ。二人の関係を包むのは友愛か、あるいは同性愛か、はたまたすべては詩人の作り上げた虚構なのか。研究者たちによる推測に推測を重ねた論の展開は後を絶たない。しかしそんなFair Youthを崇拝するようなプラトニックな感情とは裏腹に、一二七番から詩人が重々しく歌うのは、Dark Ladyといわれる一人の女性だ。その正体は影のように摑みづらく、貴婦人であったかすらも定かでない。彼の愛人か、高級娼婦だったのか。髪も瞳も黒く、褐色の肌をもつとされる彼女に対し、詩人は肉欲的な愛を赤裸々に歌い、嫉妬し、懊悩する。美青年を誘惑して関係をもった彼女に、そして詩人の元を去った青年に向けた感情を、ペンにインクを滲ませて詩人は書き殴る。
果たしてその三角関係は、いったいどうなったのだろうか?
「……語り手と作者は別だ。詩人も、青年も、貴婦人も、実在したとは限らないから」
「ふふ。確かにそうだね」
忍が息をつくように言うと、桜が彼の手を握って、ふわりと微笑んだ。
その作品から作者の人生についてまで憶測にものを考えてしまうのは、読者が虚構を現実と混同させてしまっている証でもある。しかしそのすべてが一概に虚構であるとも限らないので、研究者たちは次々とジレンマに陥っていく。真実が見えない、黒いインクに隠された謎を解き明かすことが文学においては何も重要というわけじゃない。しかし歴史家はそうもいかず、文字の中に編まれた虚実を見抜けなければ、それは歴史ではなく、彼の物語だといわれてしまう。
「――こんな日は、自転車に乗って、風を感じたいな」
穏やかに吹く風が彼女の髪を揺らす。忍がその横顔を見下ろし、彼女がそれに乗った姿を想像しえなかったのか「自転車に? 乗れるの?」と笑って、箱入り娘だったことをからかうように片方の眉を上げた。「む」と桜が眉根を寄せて忍に反論する。
「失礼な。大学にはクロスバイクに乗って通ってたんだよ?」
隣で喚く彼女をにべもなくあしらって、忍があさってのほうへ目を向ける。桜が、フーッと毛を逆立てるように威嚇すれば、再び視線を合わせた忍が彼女の行動を気にも留めず、その額に、頬に、優しく口づけを落とした。彼女の牙が、一瞬でぽろりと落ちる。
「……ずるい」
「今更?」
開き直ったように、ふっと忍が鼻で笑う。桜は咄嗟に何か言い返そうと口を開いたが、結局何も出てこないまま目を伏せて、もう一度「……ずるい」と小さくこぼした。ごめん、と謝るみたいに彼が彼女の上唇を食む。彼女の上気した頬に、ちゅっと軽くキスをして、忍が再び歩き始めた。桜は騒ぐ心臓を宥めるように息を整えつつ、事の発端が何だったかを思い出したのか「――自転車といえば」と呟いて、隣を見上げた。
「……『タイム・マシン』?」
「面白いよね。ウェルズの時代は自転車が近代化の象徴だったんでしょう? 彼もずいぶん乗り回していたみたいだし」
『タイム・マシン』において、タイム・トラベラーは自身が改造した自転車と思しき装置に跨り、時を超え、八十万年後の未来に行き着く。そこで彼が目にしたものとは、いったい。
「Did I ever make a Time Machine, or a model of a Time Machine? Or is it all only a dream? They say life is a dream, a precious poor dream at times《私はタイマシン、もしくはタイムマシンの試作機をこの手で完成したのだよ。それとも、そう思うのは記憶の誤りで、すべては夢でしかなかったのか? 世に人生は夢と言う。時に儚くも麗しい夢だとさえ人は言う。》[7]」
『タイム・マシン』を読んだとき、このタイム・トラベラーの言葉を何度も繰り返し目で追ったのを思い出す。桜が日傘を差そうと繋いでいた手をいったん離して、傘の手元とはじきを押さえながら開き、空を仰いで、ぽつりと呟いた。
「――私も、自転車に乗ったら、時を、超えられるのかな」
その瞬間、向日葵畑を薙ぐように強い風が吹いた。桜の差した日傘が背後からの風に煽られ、彼女が「わ」と声を漏らし、大きく前に出る。傘が手から離れそうになるのを堪える彼女のその姿が、忍には、一瞬、霞んでいくように見えた。目に映る彼女の腕を、思わず力いっぱい引き寄せる。そのまま彼女が、どこか遠くに、飛んでいきそうな、気がした。
「藤?」
腕を突然引っ張られたせいで、結局手を離してしまった傘が、ふわっと浮き上がり、数メートル先に落下して、地面にころんと転がる。桜が忍を不思議そうに振り返ったとき、我に返ったのか、はっと手に込めていた力を忍が緩めた。
「――どこかへ、飛んでいくかと、思った」
忍の手には冷や汗が混じり、微かに、震えていた。腕から離れていくその感触を、もう一度自分の中で咀嚼するように、彼女が目を見開きながら彼を見上げ、「……メアリー・ポピンズみたいに?」と小さく首を傾げる。
「私、魔法使いじゃ、ないよ」
へらり、と忍を安心させるように破顔した桜が、彼の手を両手でぎゅっと握りしめる。彼女から流れてくる気遣いの熱に、忍は思わず心の内で自嘲的に笑った。気づいて、しまったからだ。彼女から離れていくのは自分なのに、彼女自身から離れられるのは、耐えがたいらしいと。
自家撞着に陥る一歩手前で踏みとどまるように、忍がそつなく仮面をつけて「そうだな」と微笑む。その笑みに隠された感情を暴く資格など、自分にはないのだと、彼女はわかっていた。
忍の手を引きながら「夢っていったい何なんだろうね」と咄嗟に目を伏せ、努めて明るく振る舞うように言って桜が歩き出す。忍は転がった日傘を拾い、手に持っていたジャケットを腕にかけながら、傘を彼女の代わりに差して「――語りえないもの」と作られた影の下で呟いた。
視線を落とした彼女の顔を覗き込むようにして、忍が軽くその瞼に口づける。唇が離れていくとき、桜は徐々に鮮明に見えてきた彼の瞳に視線を合わせ、「――語りえない記憶?」と呟いた。
「語りえない想い」
忍が桜と鼻と鼻をくっつけるようにして笑い、口づけを交わす。
「――それでも俺たちは、このテクストを、織り続ける」
語りえないものたちを、語ろうとして。語ることを、悩みながら。もがき、苦しみ、喘いで。
そうすることで、今ここに生きていると、実感する。
自身が、心をもたぬ、獣でないことを、確かめる。
――織られたもの、を意味するその語に込められた彼の意図を察し、桜は「……〝プロスペロー〟に、なるの?」と、笑顔で感情の揺れを隠しながら尋ねた。
プロスペローとは、OSSで昔から使われてきた暗号名の一つだ。かつては忍の祖父や父もこの暗号名を国際場裏の裏の裏で轟かせた。各国の重鎮やキーマンと結んだ糸を繋ぐのが、忍の与えられた役でもあった。忍が彼女の問いに対し、驚いたように目を瞠って、静かに微笑む。彼女は、これから彼の織り成す物語に自分という糸は微塵も存在しないことを悟った。いや、もともと自分は、透明な糸だったのだ。でもそれは、初めから、わかっていたことで。そんな彼だから惹かれたのだと、彼女は熱くなるものを呑み込んで「あ、あのね」と声を漏らした。
「私、手を繋ぐの、好き」
幼い子どもみたいな言葉遣いが出てしまったのを恥ずかしがるように、桜が空いた手で熱をもった顔を覆う。その様子を見た忍が、きょとんと目を瞬かせたあと、顔を背けながら、はっと乾いた笑い声を上げた。
「何がおかしいの……っ」
言葉にした瞬間、それは先ほど自分が言われた台詞だと気づき、桜が一層顔を赤らめる。立場が逆転したように忍がほくそ笑み、「いや?」と彼女の耳に顔を近づけて、囁いた。
「可愛いなと、思って」
咄嗟に、桜が忍の肩に顔を隠す。その言葉を、嘘だと思えない自分がいることに、何とも言えない感情が桜に込み上げてきた。腕に寄り添い、指を絡めながら、二人で歩く。
向日葵だけが、彼らの影を、見つめていた。
*
「春海さん?」
「あ、いや」
束の間、目の前の現実から離れ、過去を想い起こしていた意識を引き戻される。忍は両目を片手で覆い、目をこすって瞼を何度か瞬かせた。白昼夢と現実をなじませるように。
「……モモさんは、好きな花とか、ある?」
「花、ですか?」
「うん」
特に深い意図は含めなかった。女の好きな花くらい知っていて損はないだろうとの打算ですらあったかもしれない。ピノコは「うーん」と忍から視線をいったん外し、正面の池を見て、空を仰いだあと、何かがパッと思いついたように、へらりと忍に満面の笑みを向けた。
「向日葵が、一番好きです」
その笑顔が、あまりにも無邪気で、眩しかったから。
「春海、さん? どうしたんですか?」
「――え?」
忍は、自身が涙を流していたことに、気づかなかった。
[1] シェイクスピア、野島秀勝訳(二〇〇二年)『ハムレット』、岩波文庫、第三幕第一場
[2] 同上
[3] シェイクスピア、福田恆存訳(一九七一年)『夏の夜の夢・あらし』、新潮文庫、「夏の夜の夢」第一幕第一場
[4] シェイクスピア、小田島雄志訳(一九八三年)『ロミオとジュリエット』、白水社、第二幕第二場
[5] H・G・ウェルズ、阿部知二訳、他(二〇一〇年)『鍵』、ポプラ社、「塀についたドア」
[6] 柴田稔彦編(二〇〇四年)『対訳シェイクスピア詩集 イギリス詩人選(1)』、岩波文庫、1「ソネット集」18
[7] H・G・ウェルズ、池央耿訳(二〇一二年)『タイムマシン』、光文社、12




