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序幕





 二〇二八年十月


『先日、〈若人ノ党〉が衆議院で単独三分の二以上の議席を獲得しました! 歴史的大勝利を収めた山井平松(やまのいひらのまつ)総理の登場です!』


 衆議院本会議場に登場したのは時の立役者だった。すらりとした体躯に整った顔立ち。銀幕スターさながらの造形美は、正に映画のような場面演出に一役買っていた。

 中継動画の解説者が興奮を抑えきれない様子で実況を続けている。

 山井平松総理が所信表明演説を述べるため登壇する様子をカメラが追いかけ、煌々とはじけるようなフラッシュが絶え間なく焚かれていた。

 議員が立ち上がって拍手する音と歓声が鳴り響く。


 既存の携帯キャリア会社のシェアを瞬く間に奪い、飛ぶ鳥を落とす勢いで世界的な急成長を遂げた新興IT企業、NINJ(ニンジェイ)。独自OSを開発し、Pen Phone――〈ペンホ〉と名付けられたペン型端末を、通信料含め格安料金で国民に提供することで、その新型端末は子どもから年寄りまでが親しむようになった。一つボタンを押せば巻物のように画面が開く〈ペンホ〉を学生時代に開発したNINJのCEO山井平松風光(かぜひかる)は、候補者を全員二、三十代で揃えた〈若人ノ党〉を結党。その若き革命家を党首に掲げる〈若人ノ党〉は、七月の参議院選挙で改選議席の四分の三を獲得し、今回の衆議院総選挙では単独獲得議席三分の二という、結党からわずか四か月で不可能とも思われた偉業を成し遂げた。


「米国は日本の国土を、そして世界秩序を破壊した! 今こそ親米保守の欺瞞を暴け!」

「そうだそうだーッ!」


 総理が一言述べるごとに割れるような議員の声と鳴りやまぬ拍手が響き渡る。総理が拳を握り、力強く演説している。原稿はまったく見ていないどころか最初から用意していない。総理の一挙手一投足に、その場の議員のみならず、テレビや携帯端末の画面を通して視聴者も見入っていた。


「今、日本は危機に直面している! 世界大戦の火蓋が切られた今日(こんにち)、激動の令和を生き抜くには、日本は強く、賢く、そして柔軟に在らねばならない!」


 総理の精悍な顔が中継動画にアップで映る。生配信動画の画面上には「8888888」「顔面でぶん殴ってくるスタイルwww」「総理イケメンすぎんか」「日本をお願いします!」「一生ついてく」「この顔見ながら食う飯うまい」とのコメント群が駆け抜けていった。


「頑固一徹の老害は去れ! 昭和生まれは組織の癌でしかない! 平成生まれの若人よ、今こそ奮起し、立ち上がるのだ!」

「ワ――――ッ!」

「鬨の声を聞け! 〈新世界体制〉の幕開けだ!」


 総理からズームアウトし、立ち上がって拍手する議員を見渡すように会議場全体が中継動画に映った。全世界で配信された所信表明演説の再生回数は鰻登りに上昇。新聞の見出しには「親米保守の欺瞞を暴け!」「頑固一徹の老害は去れ!」の文字がセンセーショナルに踊っていた。夕方のニュース番組には、期待に胸を膨らませ、目を輝かせた若者への街頭インタビューと、「日本は終わりだ」と絶望を滲ませて答える老人の姿が対照的に切り取られていた。

 二〇二七年二月二十四日。台湾沖での米中衝突が引き金となり、世界大戦の火蓋が切られた。国土の一部が米国の〈誤射〉した核弾道ミサイルの餌食となった日本は、大戦で暴走する米国との同盟を破棄。世界に引けを取らない軍隊と情報機関の設立を急いだ山井平松総理は、既存の内閣情報局を格上げする形で国家情報庁(NIIA(ニーア))を設置した。 世界大戦が停戦状態に持ち込まれた今、各国のスパイが世界で跳梁跋扈する諜報戦争の時代が幕を開ける。









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