メリーの言い分
「この度は、私がいたしました粗相で大変ご迷惑をお掛けいたしました。決して故意にしたことではないのですが、こうなってしまうと言い訳でしかなく、大変遺憾です。」
いかん、いかんと言いながら、土下座を通り越して、何か偶像を一心不乱に拝んでいる人状態になってしまった、受付嬢のメリーさん。
メリーさんの話をまとめるとこんな事のようだった。
その日もギルドの中の空気は微妙にピリピリとしたものが漂っていた。
原因は受付嬢Gさん。
彼女はギルド長の遠縁でギルド内で権力を握っており、皆彼女に逆らえない状態だった。
「でね。言ってあげたの。『これではランクあげとか無理じゃないですか?』って」
得意になって、自分が冒険者にダメ出しをした時の話をしている。
最近、このギルドを嫌がって街を出て拠点をうつす冒険者が出始めている。原因は彼女からのモラハラ、パワハラだ。
彼女、自分のお気に入りの冒険者の査定はあまあまなのに、気に食わない冒険者や強く出れると思う冒険者にはマウンティングかけにいくのよね…。
ちょうど、朝の繁忙の時間が過ぎて、ぽっかりと空いた時間、受付嬢達の間で私語が出がちな時間だ。
皆Gさんの話を波風たてないように、なるべく平静にフーンと大人しく聞いている(フリの人もいる)。
そんな時、「ギルドの良心たれ」と言う矜持を胸に秘めているこのメリーは気がついてしまったのだ。
G嬢がダメ出しした冒険者って、受付嬢仲間のFの従弟じゃね?と
そしてFの肩が小刻みに震えていることから彼女が怒りのため、爆発寸前であると気が付いたのだ。
「そ、そういえばウリセス様ったら、最近、乞われて剣技を教えているらしいわね~」
メリーは今にも爆発しそうな受付内の空気を換気すべく、窓を開け放った。
困った時の神頼み、大抵の受付嬢はウリセス様の話題が大好きなのだ。
「えっ本当?珍しいわねー」
メリーのもくろみ通り、G嬢がダメだしした冒険者が誰なのか明かされる事はなく、爆発寸前だったF嬢さえも目先の話題に飛びついた。
「他の冒険者さんから、頼まれそうになった時には結構すげなく断っていたのにねー」
「ほらー。それは女性冒険者で魂胆が見え見えだったからじゃないの?」
「そういえばあの時ねー」
かくしてメリーの画策通り、ギルド内にはつかの間の平和が訪れたのだった。
メリー嬢はうなだれて言った。
「だけど、冒険者やギルド関係者とかが、ウリセス様の後つけてまで、剣技を教えている相手を探り出すなんて思わなくって…」
おそるべしファン心理。
「誤解や勘繰り嫉妬などから、尾ひれ胸ひれ、背びれが付きまくってああいった噂に発展しちゃったんじゃないかと思うに至った訳であります。本当にごめんなさい。何故か私が主導して噂を広げたみたいになっているし、そんなつもりは全くなくて、ただあの場を収めたかっただけなんです。」
「…狂ってるわー」
「「……」」
「俺達も火消しに回ったんだけど。なんか余計煽る事になっちまってどうしようもなかった。」
ビターズの仲間達は、酸っぱいものを食べさせられたような、チベットスナギツネのような微妙な顔をしている。
「ま、いつもの事ね」
「迷惑をかける…ほんとすまない」
ウリセスがうなだれている。
「うちの子の面倒を見てくれたために…ごめんなさい」
私も謝るしかできない。
「いやいやいや、リアっちもウリセスも謝るとこじゃないでしょ。でも、うーん。相変わらずというか」
「悪い子にはお仕置きね!私たちが帰ってきたからには好きにはさせないんだから!」
チャコというもう一人の女の子がシロッコと頷きあっている。何をするつもりなんだろうか。
「とりあえず、井戸水でも飲む?」
水色の髪のセシルさんと言ったか、メリー嬢にもう立つように言った。
井戸水って…、ここの井戸の水は確かに冷たくておいしいけど。
肉を焼いて宴会だーって盛り上がっていたけど、私は家族が待つ身。
自分の家の分のお肉の分け前をもって、いそいそと家路についた。
今回のことは私も反省しきりだ。
テオが忠告してくれたとおり、私は周囲に無関心すぎた。
それにギルド嬢全員から嫌われていたわけではなかった事にほっとする。
きっとよく見ればわかったんだろう。
ガーネット嬢が私に意地悪をしているときのギルド嬢たちが困ったような表情をしている事や心配気なまなざしや、止めようかと葛藤しているところなんかが。
他人に無関心すぎる自分にもきっと非があった。
もちろんガーネット嬢以外の全員がそうだとは思わないけど。
何人かはきっと、私とそんなに親しくないから言えないだけで、悪意のある下品な噂に眉をひそめていた人もいただろう。
ふと処刑台から見た、私を糾弾する人々の姿を思い出す。
あの時、何人が、私のことを「可哀そうだ」とか「気の毒に」と思ってくれたのだろうかと。
あの場のほぼ全員ビームで殺しちゃったよな。
今さらあの時に戻れない。チクリと胸が痛んだ。
「ただいま」
「おかえりなさい」
家につくとお姉さまがすね気味で待っていてくれた。
「…お仕事だから仕方ないけど…」
どうやら私の帰りが遅い事にすねているらしい。
「主様、夕ご飯にしましょう!わっすごい量のお肉!!」
「いいお肉ですね!お肉屋さんで買ったらけっこうしますよ!」
成長期のチッチとラリーは「お肉すごい!」のようだったけど、お姉さまが可愛すぎる。
「「ウォン!ウォン!」」
わんころーずも喜びかけまわっているからよしとしよう




