二日酔い
…やってしまった。
気がつけば、私は知らない場所で寝ていた。
そして…。
「かゆっ!」
脇腹の下あたりがかゆくて掻きむしる。
「ここは…そうかテオんとこか」
ダニに刺された事によってここがどこか見当がついた。
その辺の魔物と戦っても遅れをとった事はないけど、刺される事によって猛烈な痒みを引き起こす小さな虫は防御出来なかったようだ。
「ひぃ。柔らかいところ、何か所も刺されてるよー」
どうやら使われていない部屋らしい。だからこそ余計にその手の害虫がわいたのかもしれないが。
あれ?でも…。
「出かける前に、燻煙したんじゃなかったっけ?」
居酒屋に行く前に、殺虫効果のある煙を焚いて家の中を締め切って出たと思う。
「…上掛けか。」
そういえば、布団類は外に干されていたっけ。そっちの方は煙にいぶされていない。
「……洗浄」
やだ。なんかまだチクチクする気が…。
起きて鎧戸を少し開けて外を見れば、すっかり夜も更けている。
私はベッドのサイドテーブルにおかれた明かりに手をのばしかけたが、自前の魔法でライトが使えるのを思い出した。
「うーん。まだ寝ぼけているのかな」
狩人の革製の軽鎧が脱がされているところを見ると、誰かが眠りこけている私をお世話してくれたようだ。
無限収納の中のマイモンのお薬を取り出し、赤いところにぬりぬりしておく。
「これからはお酒はほどほどにしておこう」
身支度を整え、荷物を確認する。
「泊まっちゃったらお姉さまが心配する。帰ろう。ってひゃぁ!」
廊下に出るとメンバーの中で自室にたどり着けなかった人が床で酔っ払って寝ていた。
あやうく踏んでしまうところだった。
「よくこんなとこで寝ていられるなぁ。」
そのうえにモコモコした埃が落ちてきた。
「……」
これアレルギー持ちの人がいたら…うぅ。考えたくない。
階段を下りると1階のリビングでは酒瓶を抱えたあのガタイのいい人が寝ていた。
「帰ってきて2次会したのね」
見れば、テオとウリセスもリビングで撃沈したようだ。なぜかウリセスの腹には鍋が乗っている。
「なんで鍋抱えてるの?手にはおたま??」
カオスな状態だ。
そっと鍋を下してテーブルにのせる。
「帰ろうと思ったけど、わたしがここを出たら鍵、困るよね?」
この世界はあまり治安がよくない。玄関を開けっ放しで出て犯罪が起きたら困る。
考えて私はテオを起こす事にした。
鍋を腹の上からどかしてもウリセスは全然起きなかったので。
「テオ、テオ、起きて」
「うーん」
多分深酔いしていると思われる。揺すっても起きやしない。
いいのかい冒険者? それで…。
2階でだれかが動いている気配がするけど、寝ぼけているだけかもしれないし、今日初めて会った人の個室部屋に行くのもちょっと…。
仕方ない。奥の手を出すか。
私の家とテオの家はそんなに離れてはいない。
運のいいことに最近取り込んだダンジョンの一部がこの家の近くの地下にある。
「都市の地下にダンジョンて、やっぱりこっちの世界は怖いわね」
まぁでも使えるから使うけど。
ダンジョンエネルギーを注いで、この家までダンジョン範囲を伸ばした。
「よしっ!」
誰もいないダイニングまで行って、そこから取り込んだニューダンジョン、それからマイダンジョンに転移する。
今、思いついたけど、都市全体の地下をマイダンジョン化したら、すごく便利じゃないかしら?
ともあれ、鍵がなくても、玄関を開けっ放しにぜずに帰宅できた。
あとでテオに鍵をかけてもらったという事にしよう。
家に帰って台所で冷たい飲み物を飲んでいたら、寝間着姿で起きてきたチッチに怒られた。
私、主人なのに。
ひーん。
次の日、私はお姉さまに謝り倒して赦しを得てから仕事に出かけた。
パーティの一員になったからには、テオ達と一緒の仕事をする事になるだろう。
まずはテオ達のパーティホームに行く事にした。
「おはようございます」
「…おはよう」
テオ達のパーティ名は「ビターズ」。
ウリセスとテオ以外の人も紹介してもらったが、どうしようこの人、名前なんてったっけ?
小柄な男性で斥候職のようだ。とはいっても、ガタイのいいおねぇ言葉のモアシンさんと比べるとみんな小さく見えちゃうんだけど。
庭で何かをしているようだ。
「あ、草取りですか?」
「ああ、この草は酔い覚ましの薬にもなるからな」
まだ、お酒が抜けていない人がいるのか。
「ゆうべはすまなかった。メンバーのだらしのない所をみせてしまって」
「ええっと、その前の晩遅く帰ってきたばかりと聞きました。お疲れだったんですよね」
「…。まぁな。けっこうしんどい旅だった」
溜息をつく男性。思い出した、名前はシロッコさんだ。
「部屋は気に入ったか?」
「えーと。私にもお部屋があるのですか?」
「ああ。そこを使うといい」
「ありがとうございます。」
多分、私が寝かされていた部屋のことだろう。二階の部屋だったな。
「うぅぅ~もうお酒やめるぅ」
シロッコさんと家の中に入り、リビングにお邪魔すると茶髪の女の子がテーブルに突っ伏していた。
「なんで次の日、みんな元気なのよぅ」
「チャコ。おまえはチャンポンしすぎなんだよ。今薬草を煎じてやるから待て」
「私やりますよ?」
お姉さまを元気にしたくて、けっこう薬草も研究した。それにこういうのは下っ端の新人の仕事だよね。
そこにパンを抱えてウリセス達が戻ってきた。
どうやら街のパン屋さんに行ってきたらしい。
「もしかして、朝ごはんまだなんですか?」
下っ端の仕事がもうひとつ増えた。
「みんなー!ヤギ乳が手にはいったよ!これでパンのみの朝食は回避できたー!!」
「卵も手に入りましたよ」
スープが出来た頃、オレンジの髪の女の子と水色の髪のきれいな男性が戻ってきた。
「やったぁ!この臭いはスープ!スープできているじゃん!!」
「新人ちゃん。ありがとうねー」
ベーコンエッグもつけますよ? ベーコンは「これからお世話になるのだからちゃんとしないと!」
ってチッチにもたされた物ですが、野菜はわがダンジョン産のものを引っこ抜いてきました。
「…あぁ、すきっぱらに染み渡る~」
「荒れた胃に優しいお味。あー生き返る」
どうやらムードメイカーは女の子の2人のようだ。
「改めて大歓迎よ。リアちゃん。ありがとおおおお」
やっぱり、このパーティ。家事する人はいないっぽい。
「えーと。今日は仕事を受けずに買い出しと掃除をしようと思って。どうする?」
食事がすむとテオが話しかけてきた。私もそれでもいいけど。
「ギルドで仕事を受けるなら一緒に行きますよ?」
ウリセスは私に気を使ってくれているようだ。
「それもそうねぇ。ちょと実力も見せてもらわないと。連携の組み立てに困るもの。…恰好からして、『狩人』のようだけど、遠距離攻撃担当でいいのかしら?」
モアシンさんが私の恰好を見て言う。
「ええ、近接は得意じゃないので、前衛をしろって言われると困っちゃうんだけど」
「やだわぁ。普通の女の子に前衛をしろだなんて言う訳ないじゃない。」
「盾役の1人は、私だけどね?びっくりしちゃうでしょ?」
オレンジの髪の女の子がニコニコしていう。
「そうそう、貴女は普通じゃないから」
「えへへ~」
びっくりした、見た感じは普通の女の子なんだけど。
「ベルよ。人形使いなの。正確には私の人形が盾役なんだけどね。」
人形使いって不遇職らしいって聞いたけど。それでも使用している人形が「盾役」として十分機能しているのなら、よほどの研鑽をつんだんだろう。
「そうなんですね」
マイモンのゴーレムちゃんとどっちが強いかな?
「じゃ。この4人で軽く仕事受けて、ポジション決めをしましょう」
モアシンさんの提案で、私たち4人はギルドで仕事を受ける事になった。




