お邪魔します?
パーティに加入した流れで、そのままウリセスとテオの拠点に連れてこられた。
彼らの拠点も2の壁の内側にあり、一軒家を借り上げてパーティハウスとしていた。
「ここ1年、ずっと、仲間達が留守をしていてウリセスと俺だけだったんだ」
だから短期の仕事だけ受けていたという。あの日、新人冒険者の研修を請け負っていたのもそういう理由だったようだ。
「お邪魔します」
お仲間が留守の間に私みたいなのを勝手に加入させていいんだろうか。
「昨日の夜、帰ってきたからお前の加入を相談して決めた」
さいですか。
「ただいま。準備は出来てる?」
テオの声に奥から答える声がある。
「いらっしゃーい。むさくるしいところですが。オホホホ」
何故かちょっとおねぇ言葉のガタイのいい男性が中から出てきた。
「ちょっとまだ掃除が…」
綺麗な水色の髪の男性と。
「無理、やってもやっても終わらない」
鼻と口に布をまいたまま、へろへろになって出てきたオレンジの髪の女の子。
「自分達で出来るっていうから、信頼してたのに」
小柄な目つきの悪い男性の手にはホウキとちりとり。
そして茶髪の女の子の手には何故が、大きな草刈り用の鎌と大きなチリトリ。
「強行軍で帰ってきたのにすぐ掃除をするはめになるだなんて。2~3日はダラダラしようと思ってたのに。」
わらわらと数人が出てきた。どうしよう覚えられないかも。
「どうもー。あなたがリアちゃん?よろしくね」
ガタイのいいお兄さんが代表してそう言って歓迎すると、そのほかのメンバーは私を見て何故か残念そうな表情で「あー。」と声を揃えて言った。
え?何?何の「あー」?私、歓迎されてないの?
「と、とにかくあがって頂戴。散らかってるけど。」
お邪魔しまーす。
って何?なんなの?この状態。
そしてこの臭い?
「くさっ!」
「あらー。換気したのに。おかしいわねぇ」
それ、鼻が馬鹿になってません?
鼻を抑えるのは失礼かと思ったけど、さっき思い切り臭いって言っちゃったからね。
まず臭いの酷いのは、台所と続きになっているダイニングだ。一見キレイに片付いているようだけど。
ひときわ異臭を放つものが壁にかかっている。
革製の袋のようだ。
外側からは何が入っているのかわからないけど、何かがパンパンに入っている。
それが非常に匂う。尋常じゃない臭いを発している。
「洗浄しても?」
断ってから洗浄の魔法をかける。生活魔法だ。
キラキラとエフェクトがそれの周囲で輝くと、そこからの異臭はずいぶんよくなった。
「これ、中身は?」
誰も止めなかったのでのぞき込むと中には魔石がゴロゴロと入っていた。ええ、それはゴロゴロと。
特売のじゃがいもか何かのように!
「ちゃんと洗浄してから保管しなかったんですね…」
野生の魔獣を倒すと身体から魔石が出る。いやそうじゃないか。
魔石は魔獣の身体の中にある。つまり。死体を解体して中から取り出さなくてはならない。
取り出した魔石は当然血だの何だのがついている。それをそのまま袋に入れっぱなしにしておくと…。
「もう一度かけても?」
私は今度は袋の中に洗浄の魔法をかけた。
「よし!」
スンと臭いをかぐ。大丈夫だ。もうあの強烈なにおいは匂ってこない。
でも、まだ何か臭いがする。
スンスンと鼻をかいでいると、台所から続く洗い場の先に放置された洗濯物があるようだ。
風通しをよくする為に窓を開けているようだけど、そのせいで、外から吹き込んだ臭いが家の中に入ってきている。
クサッ!汗と何か焦げ臭いにおいに、草の汁がまじったような臭いが鼻を襲ってくる。
私は許可をとると洗浄魔法をかけた。
「洗浄!洗浄!洗浄!」
3回連続でかけてしまった。ここでも「魔法の才」はいい仕事をしてくれた。
「うわぁぁすごい!鼻にまとわりついていた臭いがなくなったわ!」
茶髪とオレンジの髪の女の子が手を取り合って喜んでいる。
ゆうべ遅く帰ってきたと言っていたし、片付けの最中にお邪魔した形になってしまっていたようだ。
タイミングが悪かった。
改めて見回すと、家の中は一見やや乱雑とはいえ片付いているようだが、あちらこちらに蜘蛛の巣や埃が。
「…。寝に帰ってくるだけだったから」
言い訳のようにテオが言う。ウリセスにいたっては、恥ずかし気にどこか他所を向いている。
まぁ、仕事の時以外、ラリーに剣術を教えに来る関係でウチで食事してたしね。
そうなると、こうなった責任の一端は私にもある?
「食糧庫の中身も全部ダメになってたものね。自炊もしていなかったんでしょう?。…私たちの部屋も閉めっぱなしだったでしょ?ほら見て。ゆうべダニにくわれたんだから」
ガタイのいいお兄さんがシャツをめくって背中を見せた。うわ、赤く腫れた点々が…。
「私たちもよー。寝る前に掃除したのにまだ残っていたみたいで。」
「いぶり草を買いにいこうと、さっき話ししてたんだ」
バ〇サン的ないぶして使う、殺虫草を乾燥したものがこの世界にもある。
私は黙って無限収納からいぶり草の入った袋を出した。
なんか聞いていただけでかゆくなってきたからである。
「この子使えるわっ!」
両手をガタイのいいお兄さんにいぶり草の袋ごと握られた。
ちょっと痛いよ…。
いぶり草で家をいぶしている間、私たちは居酒屋風の食事処に移動していた。
「「新メンバーに乾杯!!」」
お酒がまわってきたら、かゆみがぶり返してきたらしく、皆ぼりぼりと身体をかいている。
「これ、よかったら。」
出血までしているのを見て、そっとかゆみ止めの軟膏を出してあげた。
その軟膏に我さきに手を出すメンバーを見て、私は思った。
(なんか不憫?)
実力があるパーティって聞いていたし、お金のあるパーティだろうに。
別に家事をする人を雇えばいいのでは?
「はぁー。おさまったわ」
「効くわねこれ。どこで買ったの?」
「自前のなので。よかったら差し上げます」
ダンジョン産の野草を使ってマイモンのゴブリン子ちゃん達が丁寧に心をこめて仕上げました。
「いいの?いいの?うれしい!! テオ、あなた本当、いい仕事をしたわ。こんな有望な新人をスカウトしてきただなんて」
「かわいそうな子を保護してあげるって言ってたよね」
「世話になったからそのお礼にって聞いたが」
「それには事情があって…」
私は聞かれるままに、出会いからこういう事態になった話を話した。
「ああ、ガーネットね。しでかしそうよね。あの娘なら」
「あの子、ギルド長のコネで入ったらしいな。だんだん大きな顔をするようになっていたから危うんでいたけど、とうとうやらかしたかー」
「ギルド長の権力を自分のものと勘違いしてる感じだったよな」
「んー。メリーはそういう娘じゃないと思うよ。あの娘もはめられたんじゃない?」
そういえば、最初にガーネットともめた時、間にさっと入ってくれたのがメリーだった。
だからガーネット一派とはちょっと違うんだと思っていたけど。
裏切られたと思ったんだよね。だから私もあんな風に過激ともいえる態度に出ちゃったんだ。
「まぁ、あなたも生きるの下手そうよね?わかるわ」
最後にガタイのいいお兄さんに慰められて、私は酔ってしまった事もあり泣いてしまった。
臭う魔石→テオとウリセス
異臭漂う洗濯物→旅から帰ってきたメンバーのたまりにたまった洗濯物
くさってしまった食糧庫のもの→メンバーが主人公達が帰るまで必死に掃除
鎌と大きなチリトリ→この世界でいうドクダミ的な強烈な臭いのする手入れの行き届かない庭に繁茂する雑草などの駆除に使用されていたもの。
異臭の正体はだいたいこんな内容。




