キャットファイッ!
「こんにちは」
「…こんにちは」
今、間があったよね?あったよね?OK、ちょっとは覚えがあるわけだ。
「お話があるんですけど」
「勤務時間内にお願いします。もしくは、中で勤務しているギルド職員にどうぞ」
「変な噂を撒かないでほしいんですけど?」
「…何のことですか?」
ギルド窓口で言うような内容ではないので、仕事が終わり、帰宅するために裏口を出たところのメリーを捕まえた。
「私がウリセスさんに言い寄ってるとか、事実とは違う噂を聞いたんだけど。」
「いつ、だれがどこでその噂をしてたんですか?それにその噂に私は関係ありますか?」
「それは…」
私は普段から、あまり他の冒険者たちと交流を持っていない。名前を出せと言われたところで分かるわけもなく。
「メリーから聞いたって、昨日の朝のギルドの掲示板のところで話をしていた人達がいたの、だから」
という、我ながらちょっとアレな返事になってしまった。
「……。」
メリーは急いでいるのか、私に話しかけられた事を迷惑そうにしている。
そのまま、にらみ合っていると裏口が開いて、ギルドの制服を着た人間が何人か出てきた。
「どうしたの?こんなところで騒いで。話なら私が中で聞くわ。メリー、貴女は仕事が終わったんだから帰っていいのよ」
ここでめんどくさいのが出てきちゃったよ。
「勤務時間外のギルド職員を正当な理由なく私的な用事で拘束することはいけないことよ。知ってる?
ギルド規約にも書いてある事だからね!」
初日にテオから言い負かされたのを根に思っていたのだろう、ギルド規約ってところすごく強調してきた。
「クレーム?クレームなの?こんな所でコソコソ言わないで、堂々と受付で言えばいいじゃないの。
あなたって陰湿なのね。こんなところで担当職員に難癖つけるだなんて」
私がいつもメリーを選んで列に並んでいることから、私がメリーを専属みたいに考えているという印象がある。ただガーネット側の列に並びたくないからなんだけど。
でも、困った。
ガーネットが騒いだせいで、野次馬が集まってきた。
「違う、仕事についてのクレームじゃない。私はただ…」
変な噂を撒かないでほしいだけだ。ウリセスにも迷惑がかかるだろうし。
「何なの?堂々と言えばいいじゃない」
「事実じゃないことをもっともらしく言いふらさないでほしいだけよ」
「なんの事なの?ねぇ、メリー。知らないわよね?」
メリーは困惑しているかのような表情で首をふるだけ。
「メリーの仕事にケチをつけたいの?あなたってば、メリーに仕事をいつもふっているわよね?私たちだって困るのよ。一人にばっかり偏って仕事をもってこられると。」
ダメだ。もうまともに話ができる気がしない。メリーは帰りかけているし。
こちらの言い分をガーネットが聞いてくれるとは思えない。
「仕事にケチをつけてるわけじゃない!あなたに関係ない事なの。口を挟むのはやめて。メリーと話をさせて?」
頭の底では冷静にならなくちゃと思っていても、怒りでヒートアップしてくるのを止められない。
「まぁ、ご挨拶ね。さすが森に住んでた人は違うわ。知ってる?この方、森に住んでいたのよ?だからいろいろ知らないで失礼を働くのは可哀そうだって思ってたけど、いい?ウリセス様につきまとわないでくれる?あの方は森に住んでた野人のようなあなたと違って騎士をされていた方なのよ?お父様は爵位をお持ちで、貴族家につらなる方なの!あなた達みたいに森の野蛮人がかかわっていい人とは違うのよ」
おいい、個人情報!このギルド嬢は何してくれるんだ。
「あら?どこの森とか言ってないわよ。わたし」
確信犯か!!ウリセスの身元情報にいたっては完全アウトだろ?
それにこの件、完全にガーネットが関わっている。絶対。
「何の騒ぎだ」
そこで、低い声で割って入った者がいた。
「仕事に戻れ、列ができているぞ」
初めてみたギルドの上の人は エルフかハーフエルフのようだった。
〝耳長族”と呼ばれる事もある特徴的な耳をしている。
長い黒髪と年齢不詳の美しい容姿だが、底知れない凄みがある。
片目に眼帯をしている事からして引退した冒険者なのだろうか。
ガーネットは上司の言う事には逆らえないのか意外にも大人しくギルド内に戻っていく。
だけど、直前で私を睨みつけるのを忘れなかった。
もう少しで、やりこめれたのにと言うことだろう
「あの受付が言った通り、ギルド内の揉めごとはご法度だ。ここはまだギルドの敷地内だからな。
身分をはく奪される事もある。次からは気をつける事だ。さぁ散った散った」
その言葉に野次馬も散り散りに散っていく。
この人はどこから見ていたんだろう。
「冒険者は冒険してこそ冒険者だ。仕事に励むことだな」
私のことを見下ろして、そう言うと、その人はギルドの中に戻っていった。
「副ギルド長のシェルナンド様だよ。エルフの世界でも有名人だ」
いつの間にかそばに来ていたテオが私の腕をひっぱった。
「お前は本当に考えなしで突っ走る…」
なんともいえない顔で見られて私は自分が「やってしまった」事にはじめて気が付いたのだった。
そのむこうではウリセス様が叱られた子供のような顔で私たちを待っていた。
「これからは彼の受付に並べ。ちゃんと言い含めておいたから」
「テオドアさ~ん。勘弁してくださいよ。あの女おっかないんですから」
テオが引っ張っていってくれたのはジルバーノさんの前だった。
「こいつ、こんな場所に追いやられてるけど、前はちゃんと受付の一員だったから一通りの事は出来る」
「こんなところって言わないでくださいよ。僕はあそこから離れられてほっとしているんだから。それに僕は受付を追い出されたわけじゃありません」
「ここもきちんとした受付だからね。まさか不動産関係専門カウンターかと思ってた?」
そのまさかだった。
嫌がらせ物件を勧められたから、ガーネット一派かと思ってましたし。
「先に選んだ2つのどちらかの物件にすると思ったから、あれ勧めたんだけど」
彼にもいろいろ思惑があったらしい。
ガーネットの機嫌も伺わないとだろうし。
「というわけで、お前を守るためだ。俺達とパーティ登録をしろ」
「噂を聞きました。俺のために迷惑をかけてしまいましたね」
ウリセスの眉尻が下げられている。
「いくら違うと言っても少しも火消しにならない。悪意を感じるよ。俺達の事情にも巻き込む事にもなると思うけど、パーティ登録する前提で仲良くしていたのなら「つきまとっていた」にはならないだろう?。
迷惑かもしれないけど、そうしておいた方がいい。お前の身が心配だ」
いや、冷静になって見れば、私も過敏に反応していたと思う。
ウリセスには迷惑かかったかもしれないけど、私は冒険者なんだから仕事だけしていればよかったのだ。
噂に振り回されずに毅然としていればよかった。
ウリセス達と距離をおき、自分と自分の周囲だけに気を配り、噂なんてどこふく風という態度でいればよかったのだ。変なプライドでメリーに食ってかかるような真似をすることをしてしまったが余計な事だった。
「変な正義感や揶揄する目的でお前に接触しようと考える馬鹿がいる。一人で狩りも危険だしギルドと家との往復時なんか特に、お前、あとを付けられているぞ」
「エレナにも危険が及ぶかもしれない。君と違ってエレナはああだから自分の身を守る事もできないだろう?俺達に守らせてもらえないか?」
そのためのマイモンを放っているんだけど、あの人懐こいワンコーズがちゃんと仕事できるとは思わないのだろうなぁ。そう思えないのもわかるけど。
困った。ダンジョン運営が楽しいからそっちにのめり込みたいのに、リアルのやっかい事が私を追い詰めてくる…。
ガーネットめぇぇぇ!!
ついでにメリー許すまじ。




