独白
ある冒険者の独白
あ、失敗した。
そんな事言うつもりなかったのに。
言い方を間違えたと思った時はあいつは表情を硬くしてさりげなく席をはずした。
ごめん。違う。言いたい事はそんな事じゃなかった。
見つめあう二人を羨ましそうに見ている彼女を見ていたら、悔しくなったんだ。
俺がいるのに。俺が…。
だから奴にフラれたから俺にって、そんなの嫌だって思って、最初から俺を見てほしくって、つい。
頭の中がぐちゃぐちゃしてきた。
嫉妬と渇望と後悔とでいっぱいだ。
だめだ。冷静になろう。
仕切り直しだ。
また初めから距離を縮めていこう。
今度こそ慎重に。
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ある職人の独白
びっくりしたー。すんごい美少女が「ポン」てお金出した。
でもその仕事内容が岬にある幽霊屋敷じゃなぁ。
詐欺にあって工房が傾いて、どんな仕事でも受けるつもりでいたけど、あの屋敷の補修が現場だとしたら命がけかもしれない。あの屋敷にはいろんな噂があるけれど、中に入った業者がことごとく死んだり再起不能になったりする事故にあうというのは事実だ。
ええい、ままよ。
どのみちここで金を手に入れる事ができなければ、どっちみち破滅なんだ。
俺はイチかバチかこの仕事にかけてみる。
念のために神殿に行って護符をもらってきたぜ。
その分の出費は痛い、痛いが、こええもんはこええもん。
やや内股になって行った現場で、意外な事に楽に息が出来る事に気が付いた。
「なんか、肩透かし食った気分だぜ」
噂の幽霊屋敷に足を踏み入れたが、空気は清浄だし掃除も行き届いているのか埃も舞ってないしで驚いた。
「では、始めるが、もう一度確認だ」
「痛んでいるところの補修。雨漏り場所の特定と修理。汚れている壁や床の張替え、全部新品にする必要はない。古い木材を生かして古民家風にリノベ…」
「古民家風にリノベってなんだろう」
「えーと懐古調にするって事じゃねぇか?古材を生かして?」
「この屋敷の時代様式っての、俺も好きだぜ?」
「新しい部分と古い部分がちぐはぐにならないように気をつけた方がいいな」
「だな、再現するのとは違うだろうからな」
「ご依頼主様が住んでて不便を感じるような仕事はいかんな」
「おう!じゃあはじめるぞ!!」
「「うぃー!!!」」
仕事をはじめて驚いたが、ここには女神がいた。
お嬢ちゃんもべっぴんだったが、そのお姉ちゃんてのがこりゃもう神々しいほどの眩しさで、自然と跪きたくなるような、例えるなら女神様だった。
「こりゃぁもう、リロイ湖の女神様が顕現なさったに違いねぇ」
でなきゃ、あの幽霊屋敷が幽霊屋敷じゃなくなった事の説明がつかねぇじゃないか。
「てめぇら、女神様に失礼なことをするんじゃねぇぞ」
若ぇもんがのぼせて失礼な事をしないように俺ァしっかりと監督するぜ!!!
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ある新米職人の独白
俺は小さいころから、からかわれやすい。
兄貴なんかはいつもビクビクしているから舐められるんだと言われたが、仕方がないんだ。
実は俺「視える」体質なんだよ。
そんな俺がここの現場にきたとき、明らかに何か異質な存在があるのに気が付いたんだよ。
建物の中ばかりじゃない、ここの敷地全体がなんか違和感があるんだ。
姿は見えない。壁をめくっても庭をほじくっても何も出てこない。
普通の土地だ。
でも、ここには何かがいる。
たしかにそんな気配がある。
それでビクビクしてたんだけど、とうとうそんな態度を先輩にどやされた。
「おいてめえ、ちゃんと仕事するつもりはあるのか?どうなのか??」
「す、すみません。先輩、ちゃんとやります」
「ビビりだもんなぁ。トールは」
まぜっかえしたのは同期のカエサスだ。
こいつはいつも俺を馬鹿にする。
「ちゃんと道具は手入れしてきたのかぁ?先輩には道具は職人の命だって聞かされてるだろ?」
「してきたよ」
「見せてみろ!刃こぼれしてんじゃねぇか。これで使えるのかよ」
カエサスの実家は普通の家だから、この道に入る時にお祝いで大工道具一式を買ってもたせてくれたけど、俺のは先輩達のお下がりを譲ってもらったから状態はよくないんだ。
そんなのは俺だけじゃない。経験をつんでお給金を始末して、みんないつかは自分だけのとびっきりの道具をそろえるんだけど、いつも奴は俺だけを馬鹿にする。
俺のノミは研ぎすぎてもう刃の部分が短いし、鋸だってガタガタだ。でも一生懸命手入れしてできるだけもたせるように苦労してんだ。
悔しくて、涙がこぼれたけど、汗のふりしてごまかした。
休憩時間にカエサスと顔を合わせるのが嫌で、のんびりと岬からリロイ湖を眺めていたら誰かが泳いでいるのが目に入った。
最低限の服は身につけているようだけど、身体の丸みが女の子だってわかって俺はドキドキした。
見ちゃいけない、見ちゃ…。
わかっているのに、吸い寄せられるように視線がいってしまう。
俺に気がつかないのか、女の子は湖からあがると日光浴をはじめたようだ。
あ、あれはゴブリン?
緑色の特徴的な色の皮膚の小柄な生物が、あろうことかメイド服のようなお仕着せを着て、布のようなものを女の子に渡していた。
ふと彼女が視線をあげて俺に気が付いた。
「なんだよ。何たそがれてるんだよ。」
その直後、背後からカエサスが声をかけてきて俺はびっくりして振り返った。
「ははっビビリだな」
「な、なんでもないよ。もう休憩終わり!喉が渇いた!」
俺は女の子をカエサスの視線から守るべく、立ち上がるとオーバーに手足を動かした。
「今日のおやつは小麦粉で作った香ばしいのだったぜ。なんつったかな。メン?焼いたメンとかいうやつ」
そう、この現場ではおやつに腹にたまって力が出るのを用意してくれるんだ。それだけはすごく気にいっている。
「おめぇのなくなるから呼びにきてやったぜ」
嫌な奴だが、こういうところが憎み切れない。
俺が走ると奴も笑いながらついてきた。どうやら女の子には気が付かなかったようだ。
その日の仕事終わり、家主の女の子が俺達の近くにやってきた。
「お疲れさまです。明日もよろしくお願いします」
狩人のような恰好をしているけど、腕のいいテイマーって聞いている。
このお屋敷を姉妹で買ったそうだけど、いいところの人なのかな?
近くで見たのははじめてだったけどキレイな子だった。俺の周りにはいないタイプだ。
俺の周りっていっても、幼馴染のリリイとか妹のカンナとか、かあちゃんとか比べるとって話だけど。
やっぱり泳いでいた子はこの子だった。
街の中に魔物を入れるには許可が必要だけど必要な手続きをとればできる。
荷をひくための八本馬や小型の竜種なんかよく見かけるし。
さっきのはこの娘のゴブリンだったろうか?ゴブリンを好んで使役する人って見かけないけど。
やつら知能が低すぎるからね。
「これどうぞ。ドリンクです。疲れた身体に効きますよ」
「ありがとうございます」
親方がお礼を言って代表で受け取ってくれた。俺、あれ甘くて好きだな。
「よし、おめぇら、ありがたくも差し入れだ。みな一本ずつもらえ」
「「おう」」
俺が最後にドリンクを受け取ると女の子がいれものを片付けるためにか近寄ってきたと思ったら俺の傍でさっとささやいた。
「黙っててね。秘密よ」
「……」
びっくりして固まってしまった。
「おい、お前。今なに言われたんだよ」
カエサスがからんできたけど、俺はごまかした。
「ドリンクの味は好きかって聞かれた…」
「ふーん。で、なんて答えたんだよ」
「「好きです」って…」
いやなんかこれ告白みたいじゃんか。
「俺なら酒の方がもっと好きですって言うけどなー」
俺はちょっと残念なものを見るような目でカエサスを見てしまった。
もちろん俺はあの出来事を誰にも言わなかった。
何日かあと、親方から呼ばれ、新しい道具を渡された。
「いい仕事をしてもらいたいのでとの事で差し入れでもらった」
くたびれた道具を使ってた先輩達も声をあげて喜んでいる。
実は俺達の工房は親方は秘密にしているようだけど、ちょっと前から資金繰りが上手くいかないようで、給金の支払いが遅れ気味だったんだ。
その日から、俺はなんだかこの土地が怖くなくなった。
「得体のしれないものに見られている」感じから「こちらに好意的なものから見守ってもらっている」
に、気持ちが変化したからだ。
我ながら現金だなぁとは思うけど。俺、あのドリンク好きだし。




