不快な噂①
家の方も最後の仕上げになり、そのまま使える離れも雨水をはじく塗料を塗るために足場が組まれた。
今日は、家具類が運び込まれる日なので立ち会いをしている。
「あの家が、まぁこんなに立派になって」
家具類を搬入しにきたのは前のオーナーさんだったので、その出来栄えにびっくりしていた。
聞けば、あまりの薄気味の悪さに家の中まで今まで入った事がなかったとのこと。
廃屋になったのは前のオーナーさんのご両親の頃だったようで、持っているだけで金を食うこの物件が自分の手を離れてほっとしているようにも見える。
「草刈りで人を雇っても事故でねぇ…」
…いやいや聞きませんよ。聞いちゃったらちょっと夢に出そうだから。
今や屋敷、敷地全体からその地下、そしてお隣のリロイ湖の一部まで私のダンジョン化の領域である。
変なものは今や住んではいない。私とパスの繋がった魔物たち「マイモン」だけだ。
「こんなにお金をかけて、予算は大丈夫?」
「さすがに親の遺産もそろそろ心もとなくなってきました」
いつまでもお金があると思われて、そんな噂をうのみにした泥棒とかに狙われたらたまらない。
前のオーナーさんには悪気があるわけじゃないけど、やっかい物件だったこの物件が売れた事を何かのときに話題に乗せるだろうし、お金がないアピールをしておく。
どんな人が買ったのか?と聞いた人が興味をもつこともあるだろうし。
「ウリセスさんたちからは腕のいいテイマーだって聞いてるよ。そっちの商売はしないのかい?」
「今は街中に住む事を優先しようかと。それに私の本職はこっち(狩人)ですから」
私は弓をひく動作をする。
今の人数なら私の稼ぎでも十分食べていけるのだ。
「そりゃ、ここは2の壁の内側だからねぇ。ここでそっちの商売始めたら確かにケチがつきそうだね」
2の壁の内側は割と裕福な家の住宅街といった趣だ。趣味の家庭内菜園ぐらいはあるが、農場もなければ工房も、牧場もない。
この前のオーナーさんも工房自体は3の壁の方にあって、家族と住んでいるのがここというすみ分けをしている。
「この家具達もあるべき所に収まって、感慨深いね」
結構なスペースをずっと占拠していたという。そういう事もあって2重にうれしいのだろう。
「じゃ、サインをしておくれ。」
受け取り受領書にサインをして完了だ。
午後には離れの外壁も塗り終えて終了、本屋の方も引き渡しが済んでおり、もうやり残したことは何もない。
チッチとラリーとお姉さまは、3人でお姉さまの刺繍したカーテンをかけたり、リネン類のチェックをしていた。
ラリーが大人の男ぶって張り切っているのがかわいかった。
本人に言うとすねそうだけど。
今日は、お外での食事の最終日だ。
家の厨房にも機器がそろい、すでに使用できる状態になっている。
でも、ここを壊すのも何だか惜しい気がする。この外の炊事場は残しておいて、たまにはお外での食事も楽しむ事としよう
「「お疲れさまでしたー」」
職人さんたち、前のオーナー夫妻と共に乾杯をする。
長いようで短い1年だった。まだ1年はたっていないけど。
「ほー。果樹を植えたんだね。こりゃ楽しみだ」
「まぁ可愛い家庭菜園だこと」
元の商人は噴水や池、薔薇の生垣などで庭を飾っていたようだが、私は畑を作り、果樹を植えた。
家で楽しみつつ、多い分は売って小金にしようと思う。
「ウォン!ウォン」
「くーん。くーん」
「おや、番犬かい?」
「ええ、私がテイムした子達です。大人しいけど、いざという時は勇猛ですよ」
この庭も私のダンジョン範囲なので、マイモンの柴狼とフェンリルを庭に放ってある。
一度、コソ泥が入ったのだ。その時はラリーがすぐに見つけて追い出したのだが、防犯のために庭に放っておくことにした。
「よーしよしよし、人懐っこいなぁ。こんなんで番犬になるのかい?」
「たしかに喜びすぎですね。しっぽフリフリしてます」
「おーかわいいなぁ。うちも何か飼ってみたいな」
「あなた、お世話しないじゃない」
「ちがいねぇ!」
庭での様子を見て近所の人たちもお祝いを持って来てくれた。
本来はこちらから挨拶に行くべきだったかもしれない。
「これからもよろしくお願いします」のキモチを込めてお返しにジャムの瓶詰を渡した。
ダンジョン産なので甘くておいしいはずだ。
「まぁこんないいものを…」
案の定喜んでくれた。甘味はやっぱり貴重品らしい。
2~3日は新居となるお屋敷に足りないものを買い足しに商店に行ったり、チッチの主張で廊下や部屋に飾る花瓶や絵を買い求めたりして過ごした。
チッチ曰く、お屋敷にはつきものの物らしい。
屋敷にお姉さまともども一番長くいることになるチッチの言うことには逆らわないようにしよう。
ラリーはウリセスにお願いして剣術や体術を習うようになった。
コソ泥にタックルしたのだが、軽く振り払われてしまい悔しかったらしい。
相手が刃物を持っていなかったからよかったものの、自分が強くならなくちゃと考えるようになったらしい。
希望に沿うように、私もウリセスにお願いした。
お姉さまに会いたいウリセスは二つ返事でテオと週末にやってくるようになった。
あれからテオとはちょっとぎくしゃくしているけど、私が買い物に出たり、狩りに出かけたりしてすれ違うようにしている為にあまり話し込むような機会もない。
平和といえば平和な時間が続いていた。
そんな休み明けの日、ギルドに出向くとなにか違和感があった。
いつもの喧騒はそのままに、明らかに私の方を見ながら何かヒソヒソしている人達がいる。
感じが悪いなぁとは思ったが、ギルドに馴染めない自分も悪いのだという自覚があるため、気にしないようにしていつもの依頼を取って、受付にいった。
「おまたせしています。少々お待ちください」
いつもの受付嬢が、あの感じの悪い受付嬢を気にしている。
あの感じの悪い受付嬢は、私の姿を見つけると、受付を代わろうと席をたった。
「おい!俺の受付!まだ済んでないぞ!」
その時、彼女が担当していた冒険者が呼び止めた為に、彼女はこちらに来るのを諦めてまた自分の席に戻った。
「…何だったんですか?」
聞けば、いつもの受付嬢は苦笑いをすると、私の受付をはじめてくれた。
「………」
心あたりのないままに、ギルドを出ようとするとテオが後ろから追いかけてきた。
「ちょっと時間とれるか?」
テオは周囲を見回して、誰も聞き耳を立てていないのを確認すると私に忠告をしてきた。
「お前、ギルド側か冒険者側かに立ち位置決めてないだろ?」
聞けば、あの感じの悪いギルド嬢を中心とした派閥と、女冒険者の中で彼女と仲たがいをしている者たちとの間で派閥が出来ているのだそうだ。
「立場を明確にしとかないと両方から狙われるぞ。孤高もいいけど、お前、両方をあしらえる力があるのか?そんな器用じゃないだろう」
テオの言う通りだ。
私にはそんな能力はないし、めんどくさいと思ってしまう。
「あの女の性格に我慢してギルド嬢側につくか、ちゃんと女の連中と交流を持っておいた方がいい」
冒険者達はおもに1の壁の内側の宿に寝泊まりして、生活もそちらが中心だ。
それに引き換え、1人で狩りをする私は2の壁の内側が主な生活テリトリーな事もあって他の冒険者達との交流はないに等しい。
「え…」
「いいな、早めに動けよ」
どうしよう、めんどくさい。




