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第四六話

「今日は執事服なんですね。良く似合っています」

「……それは胸がないって言われている気しかしないよ」

「深月、それは被害妄想だから」


 みあ先輩に無理やり執事服に着替えさせられた私はみあ先輩に背中を押されて店内に戻った。

 葵は褒めてくれるが執事服なのだ。男装なのだ。

 だからと言ってさらしなどで胸を押さえたわけではない……葵は褒めてくれているはずなのに私の心はえぐられて行き、膝をついてしまう。

 そんな私の様子に菫は呆れ顔だけど、持っている人間には持たざる人間の気持ちなんかわからないんだ。


「ゆーくん、深月ちゃんはどう可愛い?」

「あ、え、えーと」


 ……みあ先輩、優馬に聞いても無駄です。

 優馬は私がどんな格好をしていても興味がないんですから、ほら、また目をそらした。


 落ち込む私にみあ先輩は気を利かせてくれたようだが、聞く相手が悪い。

 何度でも言う。優馬は同性愛者だ。貧相な胸とは言え女の私には興味などない……あれ? そう言えば、男装なら反応するのかな?

 ふむ。これはもしかしたら突破口が見えたのか?

 今回、目をそらしたのは私が美少年に見えたか?

 

「ここで似合っているとか可愛いとか言ってやれれば進展もするんだろうけどな」

「それができていればこんな状況になっていませんよ」

「……お前ら、何気にひどいな」


 なんか、和真先輩が翔馬と咲耶に挟まれて呆れているけど、何かあったか?

 私が優馬陥落の策を考えている事がばれたか?


「……弓永、お前はバカだな」

「バカって、これでも成績は良いですよ!?」

「……成績だけじゃないんだ」


 首を捻る私を見てため息を吐く和真先輩。

 さすがにバカと言われるのは納得がいかない。

 頬を膨らませてみるが否定してくれる事はない。


「姉ちゃん、バカな事をやってないでお披露目したんだから着替えてきたらどうだ? みあ先輩も気が済んだだろ」

「そうだね……いや、このままでも良いよ。こっちの方が動きやすいし」


 ムッとしている私を見て、翔馬が気を使ってくれる。

 確かに着替えも良いけど、この格好なら優馬は動揺してくれるんだ。突破口が見えるかも知れない。

 ふつふつとやる気が湧き上がる。

 

「ユーマ、執事服ってどうかな? ユーマも着てみない?」

「い、いや、僕は良いよ。似合わないと思うし」


 優馬の顔を覗き込んで見ると彼は目をそらすが珍しく顔に赤みを帯びている。

 ……優馬は同性愛者の上に執事服フェチなのか? それとも男装なら私に興味を示すのか?

 すぐには判断が付かず、逃げる優馬を追いかけてみる。

 優馬は私が近づくと逃げ、私はその優馬を追いかける。

 何度かそれを繰り返すが顔を覗き込む事ができたのは一度だけだ。

 

 ……意表をついてから、飛び込んでみるか?

 抱き付けば反応が変わるかも知れない。

 優馬は同性愛者だから、咲耶か和真先輩を使ってスキを作って……いや、抱き付いて反応がされないとそれはそれでダメージが大きいか?


「とりあえず、おかしな方向でやる気になっているね」

「いい加減、弓永がおかしな勘違いしている事を誰か教えてやったらどうだ?」

「教えたいなら、和真先輩、どうぞ」

「イヤだね。面倒だ。弓永、波瀬、いつまでも遊んでいるな。そろそろ、帰ってくるぞ」


 頭の中で優馬の反応をうかがう方法を考えていると和真先輩が手を叩く。

 

 その音には私は動きを止めると優馬は距離が取れたことにほっとしたのか胸をなで下ろした。


 優馬、今、ほっとしたな。

 やっぱり、男装ではダメか。男装(偽物)では男性(本物)に勝てないのか?


 悔しい思いをしながらも今日の主役は結ちゃんだ。私が遊んでいては結ちゃんに失礼だ。

 優馬を追いかけまわして若干、乱れた執事服を直して視線をドアへと向ける。


「……そろそろ、帰ってくるって、連絡きたの?」

「連絡と言うか、俺達が真面目に準備をしている間も二人の尾行は続いていたからな」

「そうなんだ?」


 実際に帰ってくるタイミングなどわかるわけないと思い首を捻る。

 どうやら、咲耶と菫に送られている明斗と結ちゃんの情報は継続中だったようで、私はため息しか出てこない。


「何をしているんです? こっちですわ」

「こっちって、お店のものを買ってきたんだから、店内に置かないと」

「……あなた、バカなんですか? 今日は定休日なんです。ドアが開いているわけがないでしょう。動きたくないなら、そこで待ってなさい。カギを開けてきますわ」


 ……帰ってきたみたいだけど、明斗。そこはドアから入ってきて貰ってよ。


 店の前で結ちゃんの怒声が響く。

 内容を考えれば確かに結ちゃんの言う通りだ。彼女はお店で歓迎会の準備をしていたなんて知らないのだ。

 段取りをしくじったと言う空気が店内に広がる。


 ど、どうにかしないと。


「結ちゃん、月宮学園入学、おめでとー」


 その瞬間、私達の心配をよそにみあ先輩はドアを開けると結ちゃんに向かってクラッカーを鳴らした。

 店外から聞こえる音で私達は正気に戻り、ドアから外を覗く。

 打ち合わせとは違ったんだろうなと苦笑いを浮かべる明斗と状況がまったく理解できないのか、それともみあ先輩と言う未知と出会った事に対する恐怖なのか結ちゃんは固まっている。


「……姉さん」

「え、えーと」

「一先ずは中に入るぞ。明斗、荷物、半分貸せ」

「は、はい」


 状況が理解できていないのは明斗も同じようで私の名前を呼ぶ。

 私もすぐに反応はできずに助けを求めるような視線を和真先輩へと向けると和真先輩はすぐに対応してくれ、明斗から荷物を受け取り店内に戻って行く。

 こういう時には頼りがいがある良い先輩だなと思う。

 ときどき、面倒だって私を見捨てなければなお良い。


「結ちゃん、中に行こう」

「ま、待ってください!? これは何なんですか?」


 そして、さすがみあ先輩。

 和真先輩とは違った意味で頼りがいがある。


 状況がつかめていないであろう結ちゃんへと視線を向けるとすでにみあ先輩の被害に遭っており、有無を言わさずに店内に引きずり込まれて行く。

 その様子に少しだけ、表情が緩む。


「姉さん、行こう」

「そうだね。明斗、結ちゃんとのデートはどうだった?」

「デートじゃないよ。ただ……少しだけ、悪い子じゃないってのはわかったかな?」

「そう。なら、良かったよ」


 どうやら、店外に残っていたのは私が最後のようで明斗が手招きをする。

 結ちゃんとケンカにならなかったか心配になり、少しだけからかうように笑うと明斗はポリポリと鼻先を指でかく。

 その言葉は登校時間に結ちゃんと会った時よりは柔らかい。


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