act-2 出会いは突残に……気づかないものです
本作品はフィクションです。
登場する人物、団体、企業、学校、事件等は架空のものであり、実在するものとは関係ありません。
また、作中には実在する神社仏閣、伝承、民話、地域名等を参考にした表現が含まれますが、物語上の演出および独自解釈によるものであり、実際の歴史・信仰・伝承とは異なる場合があります。
ランプウェイのゆるやかなカーブを抜け、守谷SAの駐車場へと車を滑り込ませる。
首都高を抜けると並走する車が減ってくるせいか、駐車場の混雑ぶりに驚いてしまう。
守谷SAは広い。
駐車スペースもかなりの数があるだけに、どこに車を停めるかが大切になる。
紘一は勘を頼りに、幾つかの空きスペースを素通りするように車を進めていく。
広いだけに、車を停める場所によってはトイレまで少し歩くことになるからだが…
世界が暗さに包まれ始める時間帯ということもあり、ショップ棟の近くの駐車場スペースにはすでに多くの車が停まっていた。
判断をミスったか…
そんなことを思っていると進行方向上で車が出ていくのが見えた。
そこに車を止め、エンジンをオフにする。
それまで車内を包んでいた規則正しいロードノイズがふっと消え、急に静寂が訪れた。
それも一瞬のこと。
外の雑踏が心地好い程度に耳に届く。
「ふぅ……まずは一区切りだな」
紘一がシートベルトを外して大きく伸びをすると、助手席の龍騎がのそりと身体を起こした。
「ほう……ここは…」
「ん?」
「綺麗で明るい場所だ」
「Pasar守谷だからな」
紘一は、ドアを開けながら普通に返事をする。
もしも誰かが見ていたのなら変な光景でしかない。
一人で口を動かし、ぬいぐるみに目を向ける中年。
車から身体を出したあともその場に立っている。
外から見えなくても、狸がセンターコンソールによじ登り、トコトコと歩いてくる。
「木のぬくもりを意識して作っているらしいぞ」
「そうなのか…便利さを求めて自然を切り崩すのに…人工でも自然は必要か」
「そうだな。何かを得るのに、何かを手放す。でも、結局は…」
「そういうのを…『矛盾』だったか? そういうらしいぞ」
紘一は苦笑した。
「都心を抜けてきたドライバーが最初にホッとできる場所になっているんだよ」
龍騎は、運転席の上で仁王立ちして少し紘一を眺めてから「よく解らんな」と呟いた。
きっと龍騎には、人が自然を手放しながら、それでも自然を求めるという感覚が解らないのだろう。
手放したものを、別の形で作ってまで必要とする。
本物ではないと解っていても……それがある場所に人は足を向ける。
そこにある矛盾など気にもしない。
それが当たり前の世代が増えているのだから…
ただ、それを説明したところで『そっか』だけで終わるだろう。
龍騎には、いつまでも理解できないのだろうと思うと、フッと紘一の口角が自然に上がった。
「それが人というものなのだろう?」
龍騎もニッと笑い、紘一の胸元に向かってぴょんと飛びついた。
そのまま器用にシャツの胸ポケットの中へと潜り込む。
アラフォー男の胸ポケットから、狸の顔だけがちょこんと覗いている。
周りから見れば、相当にシュールな光景だ。
ふ~ぅ。
車を降りると、ひんやりとした夜気が頬をなでた。
明かりの灯る建物の中を覗くと、茨城名物の納豆や干し芋のお土産がズラリと並んでいる。
これから北へ向かうのだという実感がじわじわと湧いてくる。
「おい! 紘一、あっちから美味そうな匂いがするぞ。蕎麦でも食うんじゃないのか?」
龍騎は寂しさを紛らわせるようにはしゃいでいた。
紘一には、それが解っていた。
だから……止めようとは思わなかった。
その気持ちを汲み取ろう……そんなつもりはない。
ただガチャガチャと賑やかな時間の後に訪れる静けさは言いようのない寂しさを含んでいる。
それもあって、二人になったとき龍騎は一生懸命に話してくれていた。
紘一は口数が多い方ではない。
寡黙という言葉を使っても問題のないタイプだ。
ただ、その本質は話題を見つけるのが苦手なだけに過ぎない。
話せないわけではない。
知っていることなら、むしろ饒舌に話し続けることもできる。
静かにバーのカウンターで飲んでいると一見の女性に声を掛けられることも珍しくない。
紘一にしてみれば、ただ話しかけられただけのことなのだが…
相手の女性からすれば、少し事情が違うようだ。
だからこそ、黙って相手の話を聞いていると勘違いされることもある。
しかも、無意識のまま相手の瞳を見詰めるような視線を送る。
これがまた、タチが悪い。
そもそも、紘一はイケオジの部類に入る。
本人にその自覚があるのかどうかは、甚だ疑問だが…
ふと龍騎は紘一を見上げた。
この男は実に解りにくい。
一人でいることが多いせいか、周囲には気づかれにくいが、意外に寂しがり屋だ。
だから、龍騎は頑張って話しかけている。
龍騎が話さなければ、永遠に沈黙が続く気がする。
ラジオを聴いたり、動画を見たりしていると、紘一は一言も喋らない。
龍騎が暇潰しをしている間も、まるで隣にいることを忘れられているようで怖かった。
そのくせ、話しかけると「前を見ろ!」と言いたくなるような行動もする。
真剣に耳を傾け、考えてもくれる。
ときには、龍騎が知らないことを教えてくれることもある。
お互いが知らないことを、あれやこれやと推察することもある。
紘一は見聞が広い。
それでも、自分の知識を浅識と笑い、『浅いよりは薄いから、薄識のほうが合うかもな』と自嘲することもある。
でも、それでいい。
寂しさというものが薄れるのなら、それも龍騎が傍にいる意味なのだと思う。
いまは、それで十分だった。
「おい、紘一。あっちも見てみよう」
「はいはい」
龍騎に促されるまま、紘一も歩き出す。
二人には、こうしている時間が必要なのかもしれない。
何も訊かず、何も言わず。
ただ一緒に歩いてやる。
互いに相手を気遣いながらも、それを口にすることはない。
二人はそのまま、店舗へと足を踏み入れた。
お読みいただきありがとうございます。
基本的に 不定期更新の のんびり進んでいきます。
ご意見、ご要望あればうれしいです。
アイデアは随時…物語に加えていければと考えています。
今回、チャレンジ企画に挑戦!です。
よろしければお付き合いください。




